第99話 捨てられ王子、色々と知る
「まったく、一回死んじゃったじゃない」
アルカリオンが女神様を蒸発させた後。
女神様は何事もなかったかのような顔をして俺たちの目の前にリポップした。
いや、本当にそうとしか表現できないのだ。
地面から急にうねうね生えてきて、そのまま女神様の形になった。
「まさかレイシェルに私が与えた『慈愛の権能』でゴリ押ししてくるなんて……。クソトカゲに預けたせいで娘が脳筋になっちゃったわ」
『……お母様』
「はいはい、分かったわよ。取り敢えず大きいと話しにくいから人の姿に戻りなさい」
女神様がそう言うと、素直にアルカリオンは人の姿に戻った。
「あの、アルカリオン? どうして俺を抱き締める必要が……」
「疲れたので坊や成分を摂取しています」
「そ、そっか」
「娘とその旦那のイチャイチャは気になるけど、その前に真面目な話をさせてもらうわ」
女神様が手をパンパンと叩いた。
俺もアルカリオンも、サリオンはちょっと離れたところで女神様の話に耳を傾ける。
「ハッキリ言うわね。今、この世界は外敵からの侵略を受けているの」
「外敵? 侵略?」
「うーん、表現が難しいわね。まあ、宇宙人が攻めてきたようなもんよ」
なんて分かりやすい説明だ。
「で、今その侵略を防ぎたいから世界そのものに結界を張っているのよ。でもローズちゃんを生き返らせようとすると、その結界が揺らぐ」
「……外敵の侵入を許すから、ダメだと?」
「端的に言えばね。少数とは言え、ただでさえ内側に尖兵が侵入してるのにこれ以上守りを薄くはできないわ」
「お母様、もしやその外敵というのは……」
「そ。貴女の娘を殺した魔物、それを放ったのが尖兵。レイシェルも遭遇したはずよ」
「え?」
俺は誰のことを言われているのか分からず、怪しい人物を片っ端から思い出した。
そして、ハッとする。
「あ、ファルナのことか!!」
「そうそう。鬼ヶ島で色々やってた奴ね。あと前に誘拐されてた時あったよね?」
「ええと、アルカリオンが怒って帝都を半壊させた時のことですかね?」
「それ。あの時君を拐った計画を立てたのもそいつね」
まじか。
「で、そいつらの侵略を防ぎたいから結界は維持したままでいたい。蘇生は一度行うだけでも世界のルールが崩壊するし、使ったら確実に結界が崩れるわ」
「じゃ、じゃあ、やっぱりダメなんですか?」
「そうとは言ってないわ。私自身が結界の核になれば維持は難しくない。でもそうなると、世界の管理者がいなくなっちゃうわよね?」
「……なるほど」
何が「なるほど」なのか。
アルカリオンは女神様の意図を理解した様子でコクリと頷いた。
「私にお母様の代わりをやれ、と?」
「代理と言うか、もう次の管理者になってほしいのが本音だわ」
「それはお断りします」
「そうよね。だから今回は代理でいいわよ。で、肝心なローズちゃんの生き返らせ方だけど、私はよく知らないの」
「!?」
俺はその言葉を聞いて頭が真っ白になった。
思わず女神様に掴みかかろうとして、それをアルカリオンに止められる。
話を最後まで聞けということだろうか。
「で、方法は私の妹が知ってる。アルちゃんにとっては叔母に当たる人物ね。ちょっと破天荒な人だけど、私と違って融通が利くから頼りなさい」
「そ、その人はどこに!?」
「ん」
「え?」
女神様が指差したのは、下だった。
いまいち意味が分からなくて困惑していると、女神様が口を開く。
「妹なら冥界に引きこもってるわ」
「冥、界?」
「冥界。死者の辿り着く世界、あらゆる世界の中心にあって、魂が次の輪廻転生を待つ場所。そこに行けば会えるわ」
俺はちょっとキレた。
「死ななきゃ会いに行けないとか元も子もないでしょうが!!」
「きゃっ、ちょ、急に怒鳴らないでよ!! そんなんじゃ女の子に見限られるわよ!!」
「今のはお主が悪いのじゃ、アルカトレア」
「坊やに同意します。あと私は絶対に坊やを見限ったりなどしませんが?」
「あ、そ、そう」
アルカリオンとサリオンの反応に女神様は口を噤んだ。
しかし、どうしたものか。
死ななきゃ会いに行けない冥界に女神様の妹がいるとかどうすりゃいいんだ。
いや、俺だけなら別に行ってもいいが、そうなるとアルカリオンが発狂してしまう可能性があるからな……。
「い、言っておくけど、別に死ぬ必要はないわよ? 冥界に行く方法はあるもの」
「……先に言ってもらえます?」
「い、言う前に貴方が怒鳴ってきたんじゃない。私は悪くないわ」
そう言って頬を膨らませる女神様。
こうして見ると表情豊かなアルカリオンって感じがするな、この女神様。
「じゃあ冥界へ続く門を出すから、ちょっと待ってなさい」
「あ、女神様。もう一つ聞きたいことがあるんですけど」
「何かしら?」
「……アイルインって知ってます?」
「ええ。アルちゃんの娘、私にとっては孫だもの。知っているわ」
俺は女神様なら何でも知っているだろうと思って問いかけた。
「アイルインが二人いるかも知れないんですけど、何か知ってます?」
「……さあ、私は把握してないわね」
笑顔で答える女神様。
むぅ、女神様も知らないとしたら、本当に鬼ヶ島で見たアイルインは何者なのだろうか。
あれこれ考えていると、女神様が指をパチンと鳴らし、地面がにょきにょきと形を変えて扉が生えてきた。
「うわ、キモ……」
「酷いこと言うわね。可愛いでしょ」
「えぇ?」
「それより、この先が冥界に繋がっているわけだけど……通行を許可できるのは貴方だけよ、レイシェル」
その女神様の言葉に反応したのはアルカリオンだった。
無表情ながらどこか怒気を孕んでいる。
「どういうことですか?」
「単純な理由よ。クソトカゲ……サリオンやアルカリオンで死ぬ可能性があるのよ」
「私はそう容易く死にませんが」
「そう。そう容易く死なないアルカリオンでさえも死ぬ可能性がある場所。慈愛の権能……『完全再生』があるレイシェルでないと死ぬわ」
「それは――」
「分かった」
俺は即答した。
「俺が冥界に行って、女神様の妹さんに会ってローズマリーを生き返らせてもらう」
「坊や」
「大丈夫だって、アルカリオン。ちょっと行って帰ってくるだけだから」
「……分かりました」
アルカリオンが目を伏せて、了承する。
こうして俺は女神様の出現させた扉を開き、冥界へと足を踏み入れたのだが……。
思ったより大変なことになるとは想像もしていないのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「世の中には宇宙人フェチというものもある」
レ「何それ知らない……」
「女神様の扱いに笑う」「女神様何か知ってそう……」「宇宙人フェチとは」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます