第97話 捨てられ王子、女神様に会う





 俺に『完全再生』を与えた人物。


 この世界を管理する存在であり、めちゃくちゃおっぱいが大きな女神様。


 身長こそ平均的な女性のものだが、その美貌はアルカリオンやローズマリーを見て目が肥えている俺ですら見惚れてしまうものだった。


 そうだ、色々と思い出したぞ。


 この女神様、服を着ていないから転生前にここに来た時、目のやり場に困っていたのだ。


 女神様はアルカリオンを見て嬉しそうに微笑む。



「よく来たわね、アルちゃん。歓迎してあげる」



 その笑顔は男女問わず人を魅了するような美しさがあった。


 そんな女神様に対し、アルカリオンは一言。



「結構です」



 ピシッと空気が凍った。


 女神様は変わらず笑顔のままだったが、何とも言えない空気になってしまった。


 そして、女神様の目がサリオンの方に向く。



「で、何しに来やがったのかしら? クソトカゲ」


「ぴっ!?」



 サリオンがビクッと身体を震わせてアルカリオンの背中に隠れた。



「わ、儂は連れて来られただけなのじゃ……」


「あ゛? 声が小さくて聞こえないわよ、クソトカゲ」


「しょうもない夫婦喧嘩は後にしてください」


「元、夫婦よ、アルちゃん。……アルちゃんがいてよかったわね、クソトカゲ。お前だけだったら焼きトカゲにしてたわよ」



 俺は女神様の口の悪さに驚愕した。


 初めて俺と会った時は少女っぽさのある綺麗な女の人だったんだが……。



「エフィリアさんエフィリアさん。どうして女神様はサリオンに辛辣なんだ?」


「説明が少々面倒ですが……。まず、サリオン様と女神アルカトレア様は元夫婦です」


「え!?」



 衝撃の事実。



「アルカトレア様がサリオン様を嫌っているのは、サリオン様が浮気したからです。百人くらいの女性と」


「まじかよサリオン最低だな」


「……街一つの規模で複数の女性に手を出している貴方が言いますか」


「……」



 エフィリアの言葉があまりにもド正論だったので、俺は無言を貫くことにした。


 というかサリオン、女の子と浮気したのか。



「お母様、今日はお願いがあった来ました」


「あら、何でも言ってちょうだい。アルちゃんのためならできることは何でもしてあげる」


「ローズマリーを生き返らせてください」



 アルカリオンの言葉に俺は心臓の鼓動が大きくなったような錯覚に陥る。


 そうか、そういうことか。


 たしかに世界を管理する女神様なら、死者の一人や二人、生き返らせることができるかも知れない。


 ローズマリーにまた会えるかも知れない!!


 そこまで考えて、俺はこの世界に送られる前の出来事を思い出す。


 そうだ。あれは『完全再生』を貰った時。


 女神様は「死者の蘇生は世界のルールに反する」と言っていたではないか。


 いや、サリオンと女神様が夫婦ならローズマリーは孫に当たる。

 孫のためなら世界のルールくらい、どうにかしてくれるかも知れない。


 しかし、俺の願いも虚しく。



「それは無理ね。世界のルールに反するもの」


「……」



 その瞬間、空気が重くなった。


 アルカリオンから凄まじいオーラが、怒気が放たれている。


 もう一度静かにアルカリオンが言う。



「お願いします。ローズマリーを、生き返らせてください」



 初めて聞くアルカリオンのドスが利いた声。


 いつだったか、俺が旧アガーラム王国の連中に拐われた時があった。


 その時のアルカリオンは竜化して暴れ狂っていたが、あの時の比ではない。

 今にも全てを破壊してしまいそうな激怒が女神様たった一人に向けられているのだ。


 それに対し、女神様は涼しい顔をしていた。



「無理なものは無理よ。ルールはルール。例外はない」


「……」


「私を融通が利かない女だと思うのは貴女の勝手よ、アルカリオン。でも、怒りに身を任せてしまうくせは直しなさい。貴女の大切な人が息をしてないわよ」



 そこまで言われて、俺も気付いた。


 俺はアルカリオンの怒気に気圧されて息を吸っていなかった。

 アルカリオンが怒気を鎮め、いつも通りの無表情でバッと俺の方に振り向いた。



「……坊や」


「はあ、はあ、へ、平気。息するの忘れてただけだから」


「……すみません」


「いや、本当に平気だから。それより、あの、女神様!!」



 俺はアルカリオンの前に出て女神様に声をかける。



「久しぶりね、レイシェル。それとも前世の名前で呼んだ方がいいかしら?」


「いや、レイシェルで大丈夫です。それより、本当にローズマリーを生き返らせることはできないんですか?」


「はい。例外はありません」



 アルカリオンに言った時と同様、女神様は笑顔のまま頷いた。


 俺は食い下がる。



「そ、そこを何とか!!」


「ルールはルールよ。可愛い孫でも死んだ者はどうしようもない。彼女の輪廻転生を待って、再会を待つしかないわね」


「……輪廻転生……それは、生まれ変わったローズマリーは、ローズマリーなんですか?」


「違うわね。魂は同じでも、全くの別人よ。杯は同じでも中に入っている飲み物が違うような感じかしら」


「っ、お、お願いします!! せめて何か方法を教えてください!! ルールに反するってことは、ないってわけじゃないんですよね!?」



 そうだ。


 女神様は一言も蘇生そのものが不可能とは言っていない。


 あくまでも蘇生がルールに反するだけ。


 なら、きっとローズマリーを生き返らせる方法はあるのだ。

 そうでないなら、ややこしい言い回しをした女神様をぶん殴る。



「私をぶん殴る、ね」


「!? こ、心を……?」


「読めるわよ。アルカリオンに出来て、私にできないわけないじゃない」



 女神様が肩を竦める。



「貴方がローズちゃんを好きなのは十分伝わってきたわ。でも、それはそれ。たった一人を生き返らせるために、世界を壊すことはできないわ」


「え?」



 世界を、壊す?



「あら、知らなかったのね。そうよ、世界のルールを破ったら世界が壊れるわ。それをさせないためのルールなのだから」


「いや、でも……」


「貴方が何と言おうと、私はローズちゃんを生き返らせない。方法を知っているとしても、教えない」



 ……ダメだ。


 俺では何をどう言おうが、この女神様から方法を聞き出すことはできない。


 ローズマリー……。


 もう二度と会うことができないのか? 本当にもう会えないのか?


 考えただけで涙が出てくる。



「……坊や」


「アルカリオン……」


「少し、下がっていてください」


「え?」



 アルカリオンが俺の前に出た。



「サリオン、坊やを守ってください」


「う、うむ。……や、やる気なのじゃ?」


「え? サリオン? やる気って? アルカリオン? 何を?」



 アルカリオンの行動の意図が分からず困惑していると。


 彼女は無表情のまま言った。



「世界の崩壊なんて知ったことではありません。最悪、別の世界に移住すればいいのです」


「え? え?」


「なのでちょっとあのクソ親をぶっ飛ばして死者を生き返らせる方法を聞き出してきます」



 アルカリオンが竜化して、いきなり女神様に全力のブレスを放った!!







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「女神は服を着ない(持論」


レ「宗教関係者に謝れ」



「女神様は裸なのか……」「アルカリオンがブチギレた!!」「宗教画とか裸の女性多いからね?」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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