第94話 捨てられ王子、空の国を襲撃する





「空の国って、雲の上にあるんだなあ」


『そのようですね』



 俺は青い空の下で竜化したアルカリオンの頭の上に乗っていた。


 体長数百メートルはあろうかという巨体。


 羽ばたく翼は力強く、純白の鱗は一つ一つに凄まじい量の魔力を宿している。


 そして、俺とアルカリオンの視線の先には町があった。

 雲の上に作られている、アガードラムーンとはまた違った神秘的な国だ。


 俺たちはこれからこの国を攻撃する。


 と言っても、いつかアルカリオンが帝都を半壊させた時のようなことをするわけではない。



「やっちゃえ、アルカリオン!!」


『ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!』



 アルカリオンが咆哮を上げる。


 空の国にかなり近づいていたこともあり、ペガサスに跨がった天使たちが迎撃に向かってくるが、その速度は遅い。


 口に魔力を集束させ、アルカリオンはブレスを放った。


 本気のブレスではない。


 真夏の太陽に当たって日焼けしたくらいのダメージを与えるブレスだ。


 つまり、命に別状こそないが、結構痛い。


 しかもそのブレスにはある程度物体を透過する性質があるらしい。


 ブレスから逃れようと屋内に隠れていても、射線上にいる限りは防御することができないやたら高度な攻撃だ。


 こちらに向かってきた天使たちが悶絶するような悲鳴を上げる。

 彼らは全身鎧で武装してこそいるが、そのせいで蒸し焼きにされるようなもの。


 ペガサスは熱に耐性があるのか平然としているが、それを駆る天使たちがダメージを受けていては意味がない。



『あと何発か撃っておきましょう』



 念入りにやっておく姿勢、大事だよね。


 アルカリオンが反撃を食らって怪我をしたら心配だから付いてきたが、要らぬ心配だったかも知れない。



「あ、アルカリオン。あそこの天使たち、こっちに向かってくるよ」


『そのようですね』


「どうする? 逃げる?」


『いえ、吹き飛ばします』



 アルカリオンがよりいっそう強く羽ばたいてペガサスもろとも天使たちを吹き飛ばし、そのまま空の国に着陸する。



「では坊や、この国の王へ会いに行きましょう」


「いや、それはいいんだけどさ」


「どうかしましたか?」


「俺を抱っこして行く必要、ある?」


「私に近いほど坊やは安全になるのです。一人も殺していないとは言え、反撃してくる者はいるでしょうし」



 俺は何故か竜化を解いて人の姿となったアルカリオンに抱っこされていた。

 たしかにアルカリオンのおっぱいに包まれるのは好きだが……。


 敵地でというのは少々不安だ。

 しかし、アルカリオンに密着するほど安全というのも事実だろう。



「すぅー、はぁー!! アルカリオンからめっちゃいい匂いすりゅう!!」


「……ふむ、やはり坊やは可愛いですね。この可愛さを理解できぬ愚か者がいる国など滅ぼしてしまいましょうか」


「ちょ!?」



 アルカリオンのブラックジョークにドキッとしながら俺たちは空の国の中心部にある城へ向かった。


 何度か兵士と思わしき天使たちが向かってきたが、アルカリオンが一睨みするだけで動きを止め、その場でへたり込んでしまう。


 魔力を放って威圧していたらしい。


 並みの相手ならたったそれだけで失神してしまうようで、アルカリオンの歩みを止める者はいなかった。



「ここに空の国の王様がいるのかな?」


「おそらくは。私を口説いてきた者の気配もこの城の中から感じます」



 空の国のお城は如何にも白亜の城といった風体で荘厳さを感じられた。

 防衛力を重視したアガードラムーンの城とはまた異なる趣きだ。


 城の中に入ると精鋭と思わしき重装備の天使たちが真っ直ぐ向かってきた。


 警備は何倍も厳重なようだが……。


 アルカリオンには近づくことすら叶わず、大半が失神させられる。



「こちらですね」



 歩き続けることしばらく、俺とアルカリオンは大広間に出た。


 そこには王座があり、女性が座っている。


 その女性を守るように何十人もの騎士たちが武器を構えている。



「ようこそ、いらっしゃいました」



 王座に腰かけていた女性が悠然と立ち上がった。


 金髪碧眼でアルカリオンほどではないにしろ、整った美貌の持ち主だ。


 六対の純白の翼を背中から生やしており、頭上には光り輝く輪っかを浮かばせ、如何にも神聖な雰囲気を漂わせている。


 ただ、問題はその格好だろう。


 露出度がかなり高く、というか生地が薄すぎてほぼ裸だった。

 翼が辛うじて身体を隠しているが、かなりエッチな格好をしている。



「私は空の国の支配者、セラフィアです」


「私はアルカリオン。坊やを侮辱したこの国に嫌がらせに来ました」


「……なるほど」



 セラフィアと名乗った天使たちの女王は、静かに頷いて俺とアルカリオンの方に近づいてきた。


 少し警戒する。


 アルカリオンが側にいる以上、こちらにどうこうできるとは思えないが、警戒するに越したことはない。


 そう思っていたのだが……。



「申ッし訳ありませんッでしたあああああああああああああああああああああッ!!!!」



 それはもう、威厳も何もない見事なムーンサルトローリング土下座を決めた。


 ……え?



「この度は!! うちの馬鹿が!! そちらの国にご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでしたッ!!!!」


「……ふむ。詳しい説明を求めます」


「き、貴国に攻撃の意思を見せたのは、我々の総意ではないのです!! うちの馬鹿妹が唆されて勝手にやったことなんです!! 私は悪くないんですぅ!!」



 最初に放っていた威厳が消滅し、鼻水と涙で顔を汚しながら喚くセラフィア。

 額を地面に何度も激しく打ち付けたせいで赤くなっている。



「その妹というのは、ペガサスに跨がった騎士たちを率いていた者ですか?」


「は、はいぃ!! 妹は天馬騎士団、我が国の精鋭を束ねる騎士団長でして、悪いのは全部あの子なんですよぉ!!」


「……では、貴方の妹に会わせてもらえますか?」


「も、ももももちろん!! 誰か!! ヴァリエルを牢屋から連れてきなさい!!」



 セラフィアがそう言うと、騎士の一人が鎖に繋いだ女性を連れてきた。

 セラフィアとよく似た、というか全く同じ顔と身長、体型の美女。


 もしかしなくても双子だろうか。



「くっ、離せ無礼者!! 私は空の国を治めるセラフィアの妹だぞ!! む、姉さん!! なぜ私にこのような仕打ちをするのです!!」



 ヒステリックに叫ぶヴァリエル。


 秒で土下座してくる姉のセラフィアと言い、少し怖い姉妹だな……。


 と、そこでヴァリエルがアルカリオンを見た。



「む? おお、君はあの時の!! ふっ、どうやら私に会いたくてここまで来てしまったようだね?」


「と、このようにうちの妹は女好きのナルシストなアホでして。頭の中にあるのは女性のことばかり。しかも空の国が世界の中心だと本気で思ってる頭のイカレてる奴なんです。私は悪くないです。悪いのは全部妹なんです。罰するならこの馬鹿だけにしてください。属国でも何にでもなりますから」


「……坊や、どうしますか? 坊やが空の国を属国にするなら諸々の面倒なことはしておきますが」


「いや、それはいいんだけどさ。アルカリオンを口説いたのって、あのヴァリエルって女の人?」


「そうですよ」



 わお。


 てっきり男が言い寄ってきたのかと思って怒っていたが、俺の早とちりだったらしい。


 でもまあ、アルカリオンは俺の女だからな。


 いくら相手が美人でスタイルも抜群な女の人でも少し許せない。

 でも美女が素直に謝ってきたなら許しちゃうよね。



「まあ、今後俺のアルカリオンに言い寄らないなら別に――」


「なんだ、このチビは!! 地上人が空の国の地を踏むとは万死に値するぞ!!」


「この女、俺のことチビって言いやがった!! 嫌い!! アルカリオン、日焼け光線撃ちまくってやって!!」



 人のコンプレックスを叩く輩は許しちゃいけないと思うの。


 と、その時だった。



「黙れクソボケ妹があああああああああああああああああああッ!!!!!」



 セラフィアがヴァリエルにドロップキックした。


 かなりの助走を乗せた、結構重い顔面ドロップキックだ。


 う、うわあ、痛そう……。



 



―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者は天使属性持ちヒロインがすこ。あと土下座する女の子やドロップキックする女の子に魅力を感じる」


レ「黙れド変態」


お知らせ

投稿が89話と90話の間で一話分飛んでいたので一緒に投稿します。



「日焼けくらいのダメージは地味に嫌」「清楚な女の子が涙目で土下座してくるのいいよね」「あとがき辛辣で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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