第92話 捨てられ王子、娘が怖い
子供の成長は早い、と誰かが言った。
それは子供の精神や心の話であり、物理的な話ではない。
そう、思っていた。
「お父様、ローリエは思うのです。どうして父娘で結婚し、子供を作ってはならないのでしょう?」
「それは倫理的な話であって――」
「この世に生まれ落ちて出会った最も愛する男性と結ばれないなど、そんなカスみたいな倫理はぶっ潰すべきなのです」
「この世に生まれ落ちてって、ローリエはまだ生後一ヶ月だよ!? 自覚ある!?」
今から一ヶ月前。
待ちに待った俺とローズマリーの愛の結晶がこの世に生まれ落ちた。
娘の名前はローリエ。
生まれてきた直後は玉のように美しく、それでいて天使のように愛らしい娘だった。
いや、違うな。今でも天使のような娘である。
ローリエは父親である俺の特徴をあまり受け継がなかった。
ローズマリー似の整った顔立ちと髪色、瞳をしている女の子だった。
唯一受け継いだであろう俺の特徴はストレートの髪質くらいか。
更には小さな体躯に比べて遥かに大きな竜の角や翼、尻尾も備えており、その特徴はたしかに竜人のものだった。
アルカリオン曰く「ローズマリーよりも強大な力を秘めています。下手したら私よりも」とのこと。
まさに将来有望な美少女だった。
……そう、美少女。赤ちゃんではなく、十代前半の女の子である。
どういうわけか、ローリエは生まれて一ヶ月しか経っていないにも関わらず、絶世の美少女に成長したのだ。
アルカリオン曰く。
『竜人はそんなもんです。ローズマリーは出産したその日の夜に二本足で立ちましたよ』
とのこと。
竜人の生態を欠片も理解していなかった俺は思わず絶句してしまった。
「正直、夜泣きの対処とか、もっと子育てっぽいことしてみたかったな……」
「手のかかる娘の方がお好みでしたか、お父様?」
「そりゃあ、まあ、多少はね?」
「でしたらお父様。一つ、娘のわがままを聞いてくださりますか?」
「お、なんだ? 俺にできることならなんでもしてやるぞ!!」
俺がそう言うと、天使のような微笑みを見せるローリエ。
「お父様の赤ちゃんがほしいです♡ 結婚してイチャラブ夫婦生活、いえ、性活を――」
「生後一ヶ月の赤ちゃんが何を言ってんだ」
「むぅ♡ 愛に年齢は関係ないと思います♡」
「ダメなものはダメ」
「もぉー!! お父様ができることなら何でもすると言ったのではありませんか!!」
「できることならね!? できないことだよ、それは!!」
頬を膨らませて不機嫌な様子を見せるローリエだったが、流石に娘にまで手は出せない。
そりゃあ、ローズマリーに似て可愛いとは思うけどさ。
ローリエは俺の娘であって、エロいことをする対象ではないのだ。
いや、自分の娘に「大きくなったらお父さんと結婚する!!」って言われるのは父親としては嬉しいっちゃ嬉しいけどね?
ローリエのは意味が違うのよ!!
「はあ。仕方ないですね、今は諦めます」
「今後も諦めてほしいかな」
「ふふ、嫌です♡ お父様は身体が貧弱ですし、もう少し私が大きくなったら抵抗できないでしょうからそれまでは我慢します♡」
……どうしよう。
今は辛うじて抵抗できるだろうが、ローリエが大きくなったらヤバイ。
ちょっとローズマリーと相談しよう。
と、考えていたらちょうどローズマリーが部屋に入ってきた。
訓練終わりで汗の良い匂いがムンムンする。
「あ、お母様!! おかえりなさいませ!!」
「ただいま、ローリエ。いい子にしていたか?」
「はい!! お父様に遊んでもらっていました!!」
「ふふ、そうか。それはよかったな」
ローズマリーがローリエを抱っこして、優しい笑みを浮かべる。
その顔は女ではなく、母としての慈愛に満ちたものだった。
母親としてのローズマリーも可愛いなあ。
「ローズマリー、身体は大丈夫なの? 産後なんだし、あんまり無茶は……」
「レイシェルは心配性だな。ここ数ヵ月は激しい運動ができなくて筋力が落ちてしまったし、早く勘を取り戻したいのだ」
「……そっか。でも絶対に無茶はしちゃダメだからね」
俺がローズマリーに念押しすると、ローリエがニヤニヤしながら言う。
「お母様、どうやらお父様は鍛え抜かれたお母様の身体と同じくらい、今のムチムチな身体に興奮なさるようです」
「ちょ、ローリエさん!? 急に何をおっしゃってるのかな!?」
「……レイシェル。お前という奴は……」
「違うから!! ちょっと思ってたけど、本当に少しだけで八割はローズマリーの身を案じてのことだから!!」
「……ローリエ」
「四割ですね、心配が六割です」
的確に俺の心を見抜いてくるローリエ。
生後一ヶ月でアルカリオンと同じ心を見抜く『眼』を持っているのが恐ろしい。
ローズマリーが微笑む。
「ふっ。まあ、私の身を案じている割合の方が高いようだから今回は許してやろう。今夜は優しく可愛がってやる」
「ちょ、ローズマリー、子供の前でそういう会話はやめようよ……」
俺は出産手前の二、三ヶ月間、ローズマリーとのエッチを我慢していた。
その頃になると流石にお腹の子に影響があるからな。
俺はアルカリオンを始め、他の嫁がいるので性欲を溜め込むことはなかったが……。
逆にローズマリーは溜まりに溜まっていた。
ローリエを出産した次の日には溜まっていたものを発散するように俺をベッドに押し倒し、めちゃくちゃにしてきた。
以来、夜の関係はローズマリーの方が上だ。
たまに反撃するものの、基本的にはローズマリーが有利だったりする。
「ロ、ローズマリー……」
「レイシェル……」
「お父様、お母様。私を無視してイチャイチャはやめてください」
「「あっ」」
危うく娘の前でおっ始めるところだった。
ローズマリーは少し頬を赤らめて咳払いをし、身だしなみを整える。
「そ、そうだな。気を付けよう」
「まったく、油断も隙もないのです。お母様ばかり可愛がられてローリエは嫉妬します!!」
「ははは、そうかそうか」
ローズマリーは父親に甘えたい子供の意見だと思って軽く流しているが……。
俺にはローリエがベッドの上で見せるローズマリーの女の顔と非常に似ているように感じられて少し怖い。
と、その時だった。
耳をつんざくようなけたたましい警報の音がどこからか響いてきた。
「え? な、なんだ!?」
「警報だ!! 何者かの襲撃か、はたまた非常事態か……。とにかくレイシェルとローリエは城から出るな!!」
ローズマリーが慌てた様子で部屋を出て行き、俺もハッとする。
「ロ、ローリエ、窓から顔を出しちゃダメだぞ!!」
「お父様、何か起こるのでしょうか?」
「いや、それは分かんないけど……。この部屋にいれば大丈夫だ」
何故なら俺が今いる場所は、アガードラムーンの新都。
俺の女たちが暮らす街であり、兵器や戦力が集中している浮島だ。
更には俺の暮らす城は様々な防御が施されている鉄壁の要塞。
多分、きっと、大丈夫!!
それにしても警報が鳴ることなど、新都が完成してから初めての出来事だ。
もしかしたら何かまずいことが起こっているのかも知れない。
と、俺が考えを巡らせていた時。
「お父様、あれはなんでしょう?」
「え? ふぁ!?」
ローリエが窓から外を覗き、空を指差す。
そこには無数の馬が翼を羽ばたかせてこちらに向かってきている姿があった。
え、ペガサス!?
「……あ、あのペガサス、人が乗ってるな……」
それもペガサスに跨がるのは完全武装の騎士といった風体の者たちだった。
見るからに友好的な集団ではない。
俺は不安を抱えながら、ローリエを抱っこしてペガサスを見上げた。
この時の俺は戦争が勃発するなど、欠片も思っていなかった。
まさかその戦争が原因で、大切な人を失くすとは想像すらしなかった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ローリエの性欲はローズマリーの十倍くらい」
レ「その情報は要らない」
「一ヶ月で成長したのか……」「娘に手を出すのか否か」「必要な情報で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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