第84話 捨てられ王子、商談する






「お久しぶりですにゃ、旦那!!」


「あ、いらっしゃい、ルシャーナ」



 ハーレム街にやってきて数日が経った頃、俺は屋敷にある人物を招いた。


 銀色の髪と紺碧の瞳の少女である。


 その耳は人間のものではなく、ペルシャ猫を彷彿とさせる猫耳だ。


 外見は十代半ばの少女。


 実際の年齢は俺とそう変わらないようで、見た目が実年齢より幼いため、勝手に親近感を抱いている。


 彼女の名前はルシャーナ。


 アシュハラで暮らしているが、父親が大陸出身の獣人らしく、名前は父に貰ったそうだ。


 ちなみに知り合ったのは鬼ヶ島の牢屋である。


 ルシャーナもラピ同様、足の腱を切られて歩けなくなったところを治療したのだ。


 ではどうして彼女を屋敷に招いたのか、そもそもルシャーナとは何者なのか。

 別にいやらしいことをしようと思って屋敷に招いたわけではない。



「では旦那、早速商談に入るにゃ!!」


「あ、うん、そうだね」



 そう、これから彼女と商談をするのだ。


 ルシャーナはアシュハラではミタマも知っているかなり有名な商人らしい。


 商談のために浜辺の村を訪れ、そこで鬼ヶ島の鬼人の襲撃に遭い、そのまま連れ去られてしまったとのこと。


 鬼ヶ島の牢屋ではまとめ役のようなことをやっていたらしい。


 それどころか鬼人たちを相手に『解放してくれたら定期的にお酒を納品する』という交渉を持ちかけたとか。


 実に豪胆である。


 俺は彼女を客間に案内し、テーブルを挟んでソファーに座った。



「で、旦那があちしに売りたいものとはなんですにゃ?」


「これなんだけど」



 俺がテーブルに置いたのは、手の平サイズの楕円形の物体だった。


 ちなみに色はピンク色。


 当然ながら、それを見たルシャーナは物体の正体も使い方も分からず困惑しているようだった。



「なんですにゃ? これ?」


「ピ◯クローターと言って、男女の営みで使うものなんだ」



 俺が対となるリモコンのスイッチを入れる。


 すると、テーブルの上に置いたピ◯クローターが激しく振動する。


 ルシャーナは更に首を傾げた。



「こ、こんなもの、夜の営みでどう使うんですにゃ?」


「いや、その……まあ、大事なところに当てたり、使い道は多岐に渡る。これを始めとして、他にも色々売ってどうにかお金を作りたい」


「……ふむ。これは旦那が作ったんですかにゃ?」


「発案は俺。モデル品を作ったのはイェローナっていう魔導具が大好きな人で――」


「皇女になんてもん作らせてんですかにゃ!?」



 どうやらルシャーナはアガードラムーンについてすでに多くの知識があるようだ。



「あー、うん。俺も思ったんだけど、どうしてもお金が欲しくて。お願いしたら三分くらいで作ってくれて」


「三分!?」



 いや、正直俺も驚いたよ。


 浮遊装置の調整や浮島要塞化計画で忙しいのに手を煩わせて本当に申し訳なかったのだが……。


 なんかちゃちゃっと作ってしまった。


 俺が「こんな感じで~」と説明してる間に作り終わってしまい、イェローナは自分の作業に戻っていった。



「それにしても旦那。どうしてお金が欲しいんですかにゃ? 旦那なら国のお金使い放題じゃないですかにゃ」


「いや、うん。ルシャーナは、ここがどういう街になるか知ってる?」


「旦那が手を出した、あるいは手を出す、または出されたい女が集まる街ですにゃ?」


「……うん。なんか、俺個人の欲望のために国のお金を使うのはどうかなって思って」



 だって国のお金は元々平民たちが汗水垂らして稼いだお金だ。


 ハーレム街のために使うのは忍びない。


 だからこの街に使うお金は、俺自身で稼ごうと思った次第である。


 そして、俺は以前イェローナに冷蔵庫を始めとした家電モドキを作ってもらい、それが爆売れしたことを思い出した。


 要は現代知識を使った金稼ぎである。


 でも俺には作ったものを売るイロハがないし、そもそもイェローナが忙しくて大量生産することが叶わない。


 そこでプロの商人に販売を委託しようと思ってルシャーナを招いたのだ。



「なんか街作りしてる皆が俺に好意的でお給金は要らないって言うけど、それも心苦しいし、えーと、あとは上手く言えないけど、格好悪くない?」


「ははーん。つまりは数百、数千の女を養える男になりたいということですかにゃ?」


「そうそう、そういうこと」



 無論、全く現実的ではないと分かっている。


 それでも俺は人の稼いだ金で自分の女を養うのは間違っていると思うのだ。


 要はただの自己満足。


 実際にはできないことを可能な限りやってみようという見栄でしかない。


 ……我ながらは情けない話である。



「にゃははは!! 旦那の考えは嫌いじゃないですにゃ!! そういうことならあちしが旦那の考える商品を大量生産&大量販売してみせますにゃ!!」


「本当か!? ありがとう!!」


「んじゃあ早速、話を詰めましょうにゃ!!」



 こうして俺たちの商談は成立。


 ルシャーナは時折、興味深そうにピン◯ローターを手に取って色々な角度から眺め始めた。



「ふーむ、マンネリ気味の夫婦や娼館には売れそうですにゃ」



 と、その時。


 トレイにティーカップとポットを乗せたラピが部屋に入ってきた。



「旦那様、お茶をお持ちしました」


「おっ。ありがと、ラピちゃん」


「メ、メイドとしてのお仕事ですから♡」



 ラピがポッと頬を赤く染めた。


 実を言うと、ピ◯クローターを作ったのはラピを満足させるためでもある。


 いや、俺が満足させることもできるよ?


 でもそのためには、俺が本気を出して戦う必要がある。

 しかし、俺の本気にラピの小さな身体と精神では耐えられない。


 一度ヤりすぎて失神させてしまい、本気で焦ったからな。


 愛刀に頼らない方法が必要だったのだ。



「旦那、他の商品を見せてもらってもいいですかにゃ?」


「ああ、あとは――」



 俺はあらかじめ用意しておいた試供品を全てルシャーナに見せて、売れるかどうかの意見を訊ねてみた。


 結論、大半が売れるらしい。


 金貨数百万枚は余裕で稼げるそうで、俺の目標としている金額に届きそうだった。


 契約書を作り、お互いにしっかり確認する。



「いやあ、いい取引ができましたにゃあ。今後ともご贔屓にしてほしいにゃ」


「こちらこそ、ありがとう」



 そう言って手を伸ばし、握手しようとした時。



「……にゃふふ。あちし、素晴らしいことを思いつきましたにゃ!!」


「え? おわ!? ちょ、な、何を!?」


「ナニをするのですにゃ!!」



 ルシャーナが俺をソファーに押し倒し、服を脱いでしまった。


 意外とたわわなおっぱいを押し当ててくる。



「ここで旦那をメロメロにしたら、あちしはきっと大富豪になれるにゃ!! がっぽがっぽにゃ!!」



 一瞬、ルシャーナの目が金貨になっている幻覚が見えてしまった。


 とても欲望に正直なのだろう。


 悔しいのはお金目当てだと分かっていても、ルシャーナから女の子らしいフローラルな香りがすることだ。



「にゃはは、あちしはこう見えても数多の男たちを堕としてきたにゃ!! あちしの百戦錬磨のテクニックで旦那もメロメロにしてあげるにゃ!!」


「それは、どうかな?」



 俺には数時間後にルシャーナが堕ちている姿が見えていた。



「自信満々ですにゃあ。それなら、あちしが勝ったら諸々の商品で出た利益の半分をもらいますにゃ。ついでにあちしを一生養ってほしいにゃ」


「じゃあ、俺が勝ったら?」


「旦那のために一生尽くすにゃ♡」



 はい、圧勝しました。


 途中でラピやキンコの乱入こそあったが、問題なく勝ちました。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「こういう、お金とか地位目当ての子が堕ちて本当に好きになっちゃうシチュエーションでおかわり三回はいける」


レ「語尾に『にゃ』って付く猫っ娘もいいよね」



「主人公がピ◯クローターを売るのか」「乱入クエストも討伐するハンター流石っす」「そのシチュ分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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