第82話 捨てられ王子、背筋に冷たいものを感じる





 何故か知らないが、鬼ヶ島にアイルインがいた。


 俺の顔を見た途端に慌ててフードを被り、どこかへ行ってしまったが……。


 鬼ヶ島で何をしていたのだろうか。


 まあ、急にふらっといなくなってはふらっと現れるのは前から変わらないし、またそのうち姿を現すだろう。


 ……珍しく酔っ払っていなかったことはちょっと不思議だったけど。


 と、アイルインのことはさておき。



「まったく、拐われたと知った時は肝を冷やしたというのにお前は……」


「す、すみません」



 UFO型戦艦によって捕まっていた獣人たちもろとも救助された俺は、アガードラムーンに帰ってきてすぐローズマリーからお叱りを受けていた。


 理由は実にシンプルだ。


 イバラに拐われてしまった俺が、その一味であるスズのおっぱいに挟まれていたからである。


 誰だ、ローズマリーに報告した奴は。


 仕方ないじゃん!! だってスズのおっぱい、人をダメにする柔らかさだったんだもん!!


 あれは一度挟まれたら抜け出せないって。



「って、アルカリオンは?」


「む、母上ならアシュハラで行われる三国会談に向かったぞ」



 会談、か。


 鬼ヶ島を国と表現していいのかは分からないが、三つの勢力がアシュハラの宮殿に集まって今後の話し合いをしているらしい。


 アガードラムーンの領海侵犯に始まり、鬼ヶ島によるアシュハラ国民の誘拐、俺の誘拐等々。


 解決すべき事柄は山ほどある。


 大きな問題に発展することはないだろうが、簡単には解決しないだろう。


 そう、思っていたのだが。


 会談から帰ってきたアルカリオンは衝撃的な会談内容を語った。



「は? アシュハラと鬼ヶ島がアガードラムーンと併合される!?」


「はい、両国と話し合った結果です。ミタマとトモエも承諾しました」


「うむ、朕に意義は無い」


「妾も賛成なのです」



 めっちゃあっさり解決したっぽい。


 獣人たちが食人賛成派の鬼人に食べられないよう、イバラが止めていたのが幸いしたらしい。


 食人賛成派の鬼人は鬼ヶ島から出ないこと、また襲撃に際して壊したものの弁償を条件にアシュハラは鬼ヶ島を許すことを決定した。


 そして、最後にアガードラムーンがアシュハラの領海に侵犯してしまった件。

 この解決方法がアガードラムーンに吸収されるというものだったのだ。


 まだ数が少ない鬼ヶ島ならともかく、アシュハラまで吸収することになって国民が納得するのだろうか。


 と思ったのだが、問題ないらしい。



「朕が一言命じれば民は喜んで賛同するぞ?」



 そう言って妖しく微笑むアシュハラの美しき天帝、ミタマ。

 何となくミタマには傾国の美女という言葉が似合うなと思ってしまった。


 こうしてアシュハラと鬼ヶ島はアガードラムーンの国土となり、イェローナは浮遊装置の対象追加に伴う作業で過労死寸前になるのだが……。


 この時、アシュハラ観光をしているイェローナには知る由もないのであった。


 それはそれとして。


 アガードラムーンの国土を中心に、その周りをアシュハラだった浮島が無数に浮いている様はさぞ壮観に違いない。


 無数の浮島を丸ごと空中要塞化して防衛拠点にする計画もあるそうで、中々凄いことになりそうだ。


 それから数日後。



「坊や。土地が欲しくはありませんか?」


「な、なんか怪しいキャッチみたいだな」



 ローズマリーとイチャイチャしていると、アルカリオンが急にやってきてそう言った。



「要塞化するには大きく、余ってしまった浮島がありまして。現在、その土地をあることに使おうという話が出てきたのです」


「あることって?」


「坊やがこれまでに手を出してきた女性、あるいはこれから手を出す女性。また手を出されたい女性が住まう街を作ろう、と」


「詳しく」



 浮島を一つ使って俺のハーレム街を作るとか最高の一言に尽き――


 その瞬間、俺は背筋に冷たいものを感じた。



「レイシェル?」


「ひえっ!? あ、あの、何でしょうか、ローズマリーさん?」


「何を改まっている? 私は別に怒ってなどいないぞ」



 ローズマリーは笑顔でそう言うが、目は全く笑っていなかった。

 しかし、何を思ってか難しい顔をした後、大きな溜め息と共に苦笑いする。



「この際だ、ハッキリ言ってしまおう。私はお前の浮気を許すつもりはない」


「……は、はい。当たり前のことだと思います」


「手を出すからには、全員に本気になれ」


「……え?」



 な、なんかローズマリーがとんでもないことを言い始めたぞ!?


 俺が目を瞬かせると、ローズマリーは笑った。



「お前の好きなようにしていい。ただし、手を出すからには本気で愛せ。子供も作っていい。途中で捨てるようなら私が許さん」


「え、えっと、なんで?」


「いや、その、なんだ。実はトモエ殿と話す機会があってな。レイシェルを好きになった女がいて、その者が私に遠慮して何も言えなくなってしまうのはどうかと思っただけだ」



 あー、トモエの別に他に女がいても自分と俺の仲を裂くことにはならない理論か。



「ただ、その、あれだ」


「?」


「他の女ばかりに構うようなら、私も拗ねるからな」


「うわ、可愛い」



 頬を膨らませるローズマリーがあまりにも可愛かった。

 そのまま勢いで始めそうになると、アルカリオンが待ったをかける。


 まだ話したいことがあるようだ。



「では、その余った浮島の開発は坊やに一任します。坊やの好きなようになさってください」


「あ、うん」


「それともう一点、鬼ヶ島で暗躍していたファルナとやらについてですが」


「何か分かったの?」


「いえ、残念ながら何も。ただ分かるのは、その者らは私の『眼』が通じない相手であるということだけです」


「……そっか。やっぱりアイルインに話を聞かないとダメかなあ」


「ではちょうどよかったですね」


「え?」



 と、その時だった。



「たっだまー!! ローズマリー、お姉ちゃんが帰ったよー!!」


「……確保!!」


「うぇ!? え、何々!?」



 アイルインがタイミングよく帰ってきたので、俺は慌てて彼女を捕縛した。


 亀甲縛りなのは気にしないでほしい。



「さあ、アイルイン。鬼ヶ島で何してたのか洗いざらい話してもらうよ!!」


「んぇ? な、何の話してんの? 私、さっきまで先月から城下町の酒場を飲み歩いてたんだけど」


「え?」


「え?」



 それから俺はアイルインに詳しい話を聞いてみたのだが……。


 アイルインは鬼ヶ島になど行ってないと言う。


 嘘を吐いているのかと思ったが、アルカリオンの眼で見てもらったところ、本当に何も知らないらしい。


 流石に意味が分からなくて困惑する。


 しばらくして、ローズマリーが自分なりの推理を口にした。



「まさかアイルイン姉上の偽物か?」


「うーん、分かんない。偽物って感じしなかったんだけどなあ」


「どちらにせよ、鬼ヶ島で暗躍していたファルナという女と、坊やの言うアイルインのそっくりさんには何かしらの関係があると見るべきでしょう」


「ファルナと偽アイルイン姉上が仲間という可能性もあるな。……まさか、アイルイン姉上の評判を落とすために化けているのでは――」



 そこまで言って、ローズマリーは泥酔状態のアイルインを見た。



「いや、ないな。姉上は最初から評判が低いし」


「ローズマリー? その台詞には流石のお姉ちゃんでも泣いちゃうよ?」



 よよよ、と嘘泣きするアイルイン。


 いくら考えても答えなど分かるはずもなく、俺は考えるのをやめることにした。


 俺はローズマリーとアルカリオンのおっぱいを揉みしだく。



「今は考えても仕方ない!! こういう時はエッチしてスッキリしてから考えよう!!」


「お前はただシたいだけだろう……」


「おや、ローズマリーは坊やとシたくないようですね。では母が坊やを独り占めします」


「なっ!! わ、私も抱いて欲しいです!! ただ、その、えっと」


「ローズマリー?」


「その、お腹の子のために、優しく頼むぞ?」



 俺は激しくしすぎないよう、全力でハッスルした。



「あ、あのー、そろそろこの縄、解いてくれませんかね? 母親と妹が乱れてる姿を見るの、地獄なんで」



 すっかり酔いが覚めた様子のアイルインがとても申し訳なさそうに言う。


 あ、ごめん。完全に忘れてたわ。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「ついに公認になった、だと!?」


レ「目指せスーパーハーレム」



「亀甲縛りで笑った」「謎が深まるなあ」「そのうちハーレム国作りそう」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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