第78話 捨てられ王子、鬼ヶ島に連れて行かれる
「この運ばれ方は納得できない」
「んふふ、すんまへんなあ」
俺は海を渡っていた。簀巻き状態で。
ちなみに海を渡るに際して乗っているのは船ではなく、でっかいギャルっ娘だ。
平泳ぎするでっかいギャルっ娘の頭の上に乗せられている。
揺れが少なくて乗り心地は意外と悪くない。
俺を簀巻きにした張本人、鬼人の少女は微笑みながら謝罪するが……。
簀巻き状態から解放するつもりはないらしい。
いやまあ、俺が逃げない保証はないし、正しい扱いではあると思うけどさ。
思うけどさ!!
「ドナドナドーナードーナー」
「なんや物悲しい音色やね」
「俺の心情を語った歌だよ」
自分の意志に関係なく連れて行かれるのは、何というか複雑な気分だ。
でもあそこで俺が行かないと言ったらクウラが酷い目に遭うし、アシュハラだって何かしらの被害を受けていたかも知れない。
ん? いや、これって自分の意志で選んだことになるのかな?
もう何でもいいや。
「あ、俺はレイシェル。シクヨロ」
「急に自己紹介してどないしたん? まあ、ええけど。うちはイバラ、このでっかいのがスズや。よろしゅうな」
お? 名乗ったら名前を教えてくれたぞ。
バイオレンスな性格かと思ったら、意外と真面目なのだろうか。
と、その時だった。
「え、うわ、何あれ!? 鬼ヶ島!?」
「正解」
水平線の向こうに鬼ヶ島が見える。
一目見て分かった。何というか、形が鬼ヶ島って感じだ。
あれが鬼ヶ島じゃなかったら何ヶ島なのか知りたいところである。
ものの数分で鬼ヶ島に上陸した俺は、そのままイバラに担がれ、どこかへ連れて行かれてしまう。
連れて行かれた先は地下牢だった。
「ここでしばらく待っとってほしいわあ」
こうして俺は鬼ヶ島の牢屋に放り込まれてしまったわけだが。
どこにでも出会いというものは転がっている。
「誰……?」
「え、あ、はい。レイシェルです」
「れいしぇ……?」
同じ牢屋の中から声が聞こえた。
牢屋と言ってもかなり広く、ここは日の光も届かない地下牢。
真っ暗で自分の爪先すら見えないのだ。
しかし、しばらくして暗闇に目が慣れてきて、同じく牢屋の中にいる者たちの姿が浮かび上がってくる。
「兎の、獣人……?」
「あ、はい。わたし、兎人族のラピと申します」
ウサミミを生やした少女だった。
かなり幼い。十ニ、三歳くらいだろうか。梵天のような尻尾がある。
青みがかった銀髪で眠たげな青い瞳が美しい。
しかし、どうしてもツッコミたいというか、気になることが一つあった。
少女の格好だ。
ラバー製と思わしき材質の、艶のある黒のバニースーツ。
更には兎を彷彿とさせるしなやかな脚を包む網タイツを穿いていた。
暗闇の奥にはラピ以外にも獣人が多くいる。
猫獣人や犬獣人など、様々な種族の獣人がいるようだが、こちらを警戒して近づいてこない。
話せそうなのはラピ一人みたいだ。
「えっと、ラピちゃん? たちは、どうしてここにいるんだ?」
「わたし、わたしたちは、元々アシュハラで暮らしてたんです。でも、鬼ヶ島の鬼人たちに拐われてしまって」
「あ、ああ、そっか」
そりゃあ鬼ヶ島に獣人がいる理由とか、拐われてきた以外に無いよな。
「……その格好は?」
「え? 兎人族に伝わる伝統衣装ですが……」
バニースーツが伝統衣装、だと!?
ほぼ間違いなく獣人を生み出したという先輩転生者の功績だろう。
まさかここに来て先輩の偉大さを知るとは。
というか先輩がどの時代の日本からやってきたのか分からなくなるな。
アシュハラの文化を考えるなら中世日本人だと思うが……。
多分、先輩は数千年前の人間だ。
この世界と地球では時間の流れが違うとか、そういうパターンだろうか。
「あの……?」
「あ、ご、ごめん。実は俺も拐われちゃってさ。参っちゃうよね」
「そ、そうなんですね。でも、その、さっきレイシェルさんを連れてきたのってイバラさんですよね?」
「ん? えーと、そうだね」
俺が頷くと、ラピはどこか困惑した様子を見せる。
「そんな、イバラさんは人攫いはしない人だと思ってたのに……」
「ん? イバラのこと詳しいのか?」
「詳しい、というより、わたしたちが食べられそうになったところを助けてもらって」
ラピの話をまとめると。
イバラは鬼人たちに拐われて食べられそうになっていた獣人たちを助けたらしい。
「獣の血の匂いが嫌いだから鬼ヶ島で獣人を食べるなって。多分、わたしたちが食べられないように他の鬼人たちに言い聞かせてくれたみたいで」
「俺の知ってるイバラはもう少し過激というか、怖い人なんだけど……」
「げ、言動はたしかに怖いです。でも、その、ご飯を持ってきてくれるし、病人にはお薬を持ってきてくれますし」
「う、うーむ」
イバラの行動が分からん。
俺に誰かを治療してもらいたいようだったが、かと言ってすぐ病人ないし怪我人のもとへ連れていくわけでもなし。
ん? 待てよ、俺をこの牢屋にぶち込んだってことは……。
「この牢屋に病人とか怪我人っている?」
「い、いえ、今はいません」
うむ、早速読みが外れてしまった。
「うっ」
「お、ど、どうした!?」
「す、すみません。足がもつれてしまって……」
急にふらついたラピを抱き止めた時、俺は気付いてしまった。
ラピの片足の腱に深い傷痕があったのだ。
「これは……」
「わたしたちを食べようとした鬼人たちが、逃げられないようにって」
「……酷いことするな」
「だ、大丈夫です。イバラさんのお陰で食べられずに済みましたし、生きてるだけでも儲けものですから。走れなくなったくらいへっちゃらです」
「……」
ラピが笑顔を見せる。
まるでこちらを心配させないための、頑張って作った笑顔だ。
俺は思わずラピの頭を撫でる。
ついでにラピのもふもふなウサミミもお触りしまくる。
「あ、あの、レイシェルさん?」
「俺はそういうのに弱いんだ」
俺はラピの足に触れて『完全再生』を行使する。
「え?」
「どうだ? もう平気だろ?」
「あ、え? う、動く? 力が、入る?」
兎らしくピョンピョンと跳ねて、足が動くことを確認したラピ。
我ながらいい仕事したぜ。
「あの、ありがとう、ございます」
「ははは、言われるほどのことじゃ――おごふっ」
「ありがとう、ございます!! ありがとうございます!! もう走れないと思って!! 治癒魔法でも治らないかもって!! だから、あ、ありがとうございます!!」
「……どういたしまして」
まるでタックルするような勢いで俺の胸に抱きついてきたラピ。
あらやだ。この子ったら可愛すぎる。
と、ラピの足の腱を元通りに治療したからだろうか。
こちらを警戒していた獣人たちも俺の方に近づいてきた。
「あ、あんた、治癒魔法が使えるのか!?」
「た、頼む!! 妹の脚を治してくれ!!」
「私はいいから!! 早く兄さんを!!」
「おい!! 子供が優先だ!!」
「ちょ、わ、分かったから!! 皆一旦落ち着いてくれ!!」
揉みくちゃにされそうな勢いで囲まれてしまったので、ひとまず全員の脚を治療することにした。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「作者はケモ耳の中だと兎と狐が好き。猫とか犬、狼も好き」
レ「結論は?」
作者「全部好き。新作『やらかし女神様と始めるスキル農園。~収穫したスキルは産地直送します~』を投稿開始しました。時間がある方はどうぞ」
「ドナドナで笑った」「ラピかわいいやん」「作者が本性現したね」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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