第70話 捨てられ王子、和風な国に行く





 さて、俺はアガードラムーンが降り立った海域のすぐ近くにある群島国家に護衛であるクウラと共にやってきた。


 国の名前はアシュハラ。


 小さな島々が集まった国だが、その様相を見て俺は感動していた。



「な、なんか和風だ!!」



 まず群島の中心にある島には見上げるほど大きな桜と思わしき大樹が生えていた。


 その桜はきっと神聖なものなのだろう。


 大きな鳥居があり、言葉では言い表せない荘厳さを放っている。

 そして、その大樹を中心に和風な街並みが広がっているではないか。


 初めて訪れたはずなのにどこか懐かしいと感じてしまう。



「凄いなあ」


「お気に召していただけたようで何よりです」


「え? おお!? み、巫女さん!?」



 港で船を降りたところであまりの絶景に感嘆していると、知らない少女が声をかけてきた。


 金色の髪の少女だった。


 しかし、普通の人間ではない。

 狐のようなピンと伸びた耳ともふもふそうな尻尾が生えている。


 アガードラムーンにも獣人はいるが、こうして間近で見る機会は滅多にない。


 気になるのはその少女の装いだ。


 真っ赤な袴と純白の衣は前世の大晦日にお参りに行った時、神社で見た巫女そのものだった。


 更にはこの国の文字で何かが書かれている紙で顔を隠しており、巫女服と相まってどこか神聖な雰囲気をまとっている。



「えっと、貴女は……」


「わたくしはキンコと申します。貴方を天帝陛下のもとへご案内するため、参上しました」


「あ、わざわざありがとうございます」


「いえ、礼を言われることでは。牛車を用意しました、こちらに」



 俺はキンコの案内に従って牛車に乗り込み、天帝とやらが待つ城へと向かう。

 その途中、同じ牛車に乗っているクウラがこっそり耳打ちしてきた。


 ふわっとした甘い良い匂いがする。


 しかし、クウラの次の発言を聞いて俺は匂いに興奮する余裕を失くす。



「……気を付けて」


「え?」


「……隠れるのが上手い奴らが三十人はいる。かすかに殺気も感じる」


「まじか」


「……まじ」



 キンコの護衛か、あるいは俺たちの監視かは分からない。


 しかし、おそらく後者だろう。


 ただキンコの護衛ならわざわざ全員が姿を隠す理由はないからな。


 同時に少し不安になる。


 アルカリオンが信頼して俺の護衛を任せたクウラの実力を疑うわけではないが、どの程度の実力かは知らないのだ。


 大丈夫だろうか。と、そう思った時。



「ご心配なく。彼らは忍と言いまして、我が国の密偵です。今回の彼らの任務はわたくしの護衛ですね」


「……そう」



 キンコはクウラが何者かが隠れていることに気付いたことに気付いた。


 何かこう、強者感がある。


 多くを語らないクウラもそうだが、余裕の笑みを浮かべている(紙で顔は隠れているが)キンコの短い会話がカッコイイ。


 俺もそういうやり取りしてみたい。



「……でも飼い犬の躾はしておいた方がいい。この男は何もしないが、害せばアガードラムーンが全力で貴国を潰しにかかる」


「……部下にも言い聞かせておきます」


「い、いやいや、流石に大袈裟……いや、大袈裟でもないのかな……」



 アルカリオンは確実にやる。というか彼女一人でも事足りる。


 竜化してブレス吐けば勝ちだからな。


 サリオン辺りもマジギレしそう。ライムが物量で攻めてくる可能性も……。


 冷静に考えたら俺の周りって凄い人が多いなあ。


 間違っても死なないようにしよう。もしそうなったらアシュハラの景観が火の海で真っ赤な色に染まりかねない。



「到着しました、ここが天帝陛下のおわす宮殿です」



 そうしてやってきたのは、神社とお城を混ぜ合わせたような建物だった。


 敷地面積そのものもかなり広い。


 港から見た時は城下町かと思っていたが、この街自体が宮殿の一部だったらしい。


 すれ違う人々は総じて身だしなみが整っており、使用人と思わしき人を数人連れていて上流の人間に見える。



「お気付きかと思われますが、実はこの島自体が宮殿のようなものでして。ここにいるのは兵士と下女、天帝陛下の寵愛を賜った男性のみです」


「ほぇー」



 全体的に厳かな雰囲気に包まれている。


 当然というか何というか、着物を着ている人ばかりで洋装の俺たちは浮いていた。


 地味に集まっている視線が痛いなあ。



「こちらでしばらくお待ちください」



 そうこうあって、畳張りの部屋で待機する。


 しばらくしてキンコが戻ってきて、入り口の襖の前で正座する。



「天帝陛下のおなりです」



 キンコが襖を開くと、その向こう側から二人の女性が入ってくる。


 一人は側付きなのだろう。


 キンコと同じ巫女服を着ており、顔を紙で隠している。

 こちらは髪の色が綺麗な銀色だったが、狐の耳と尻尾はキンコと同じだ。


 銀髪だから名前がギンコだったら少し笑う。



「お、おお……」



 そして、問題はもう一人。


 髪の色が左右で異なり、白と黒のツートンカラーだった。


 顔立ちは日本人形のように端正で、ローズマリーやアルカリオンを始めとした美少女美女を見慣れている俺でも思わず感嘆の息を漏らしてしまう。


 この女性が天帝さんだろうか。


 背丈は俺よりも高く、ローズマリーと同じくらいだろうか。


 あとおっぱいがとってもデカイ。


 着物を大きく着崩しており、豊満なおっぱいの谷間が気になる。


 どこか妖艶な雰囲気で目を離せなかった。


 天帝さんも獣人で、キンコ同様に狐の耳と尻尾がある。

 驚いたことにその尻尾は九つもあった。いわゆる九尾だろう。


 妖艶さと神聖さが合わさった、不思議な雰囲気をまとう美女だった。


 天帝さんが高座に座り、声を発する。



「よくぞ参られたな、天上国の客人。朕はアシュハラの天帝、ミタマと言う。客人の名は?」


「レイシェル・フォン・アガードラムーンです」



 まずはお互いに挨拶をし、他愛ない話をする。


 いつ本題、つまりは領海侵犯の話に入るのかと思っていると事態は唐突に動いた。


 天帝さん改めミタマが扇で口許を隠す。



「すまぬが、朕は多忙な身。ここにいるキンコとギンコにそなたの世話を任せる故、ゆるりと寛がれよ」


「あ、はい」



 あれ!? 領海侵犯の件は!?


 というかキンコに似ている銀髪の狐っ娘の名前はギンコなの!?


 困惑を表情に出さないよう努めていると、本当にミタマは多忙なのか、そそくさと謁見の間を出て行ってしまった。


 残されたのは俺とクウラ、キンコとギンコの四人のみ。



「では、お部屋へご案内します。こちらへ」


「こちらへ」


「あ、はい」



 俺はミタマの目的が分からないまま、キンコとギンコの後ろに続くのであった。










 ……その日の夜。



「レイシェル殿、今宵は我ら姉妹が伽を務めさせていただきます」


「務めさせていただきます」



 キンコとギンコが俺の寝室に入ってきた。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「狐っ娘姉妹に夜這いされるシチュエーションは男の子なら一度は妄想するよね」


レ「よね!!」


作者「あと土日は連続で投稿します」



「狐っ娘は最高」「そんな妄想しない定期」「する定期」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る