第71話 捨てられ王子、勝負に勝って試合で負ける
案内されたのは畳の匂いがどこか懐かしさを感じさせる部屋だった。
ちょっと旅館っぽい雰囲気だ。
しかも、しかもね。この国ってば温泉があったのだよ。
料理も魚介類が中心で美味しいし、特にアワビのような貝が最高だった。
本音を言うとお刺身も食べたかったが……。
流石に生魚となると厳しいのか、刺身が食卓に並ぶことはなかった。
問題が起こったのは夜。
この世界では珍しい敷き布団に感動し、早めに寝入った時だった。
「レイシェル殿、夜分遅くに失礼します」
「んぅ、え? え?」
部屋にキンコとギンコが入ってきた。
驚いたのはその格好である。赤と白の布面積が小さいビキニだった。
いわばマイクロ巫女ビキニだ。
普通の巫女服では分かりにくかった身体の凹凸が露わになり、どこがとは言わないが緊張で硬くなってしまう。
和風な国なのにビキニって。
「おや、もうお休みになっておいででしたか」
「え、あ、はい。えっと、な、何かありました?」
「はい。とても大事な用がありまして」
そう言ってキンコとギンコは俺を両脇から挟み込むように近づいてきた。
あまりにも自然な動作で反応が遅れてしまう。
「我らが天帝陛下より賜った命はレイシェル殿のお世話です。当然、夜のお相手も我らの役目になるのです」
「なるのです」
「よろしくお願いします」
「承知しました。ここから先は我ら姉妹にお任せください」
「お任せください」
くすっと微笑むキンコと、彼女の言葉に相槌を打つギンコ。
きっとこの場にローズマリーがいたら「よろしくお願いするな!!」と言うかも知れないが、ここまで誘われて断るのは男じゃない。
俺はキンコとギンコに身を委ねる。
狐っ娘姉妹のテクニックは中々のもので、とても幸せな時間だった。
でも、所々で俺を懐柔しようとしていることが窺えてしまう。
これでは満足に楽しむこともできないため、まずは全力で二匹のエロ狐を堕としにかかった。
きっとこの二人はプロなのだろう。
しかし、俺は今まで多くの美少女や美女を相手に戦ってきたのだ。
ライムのような圧倒的な分裂体の数で襲ってくるわけでもない限り、俺の辞書に敗北の二文字はない。
「きゃんっ♡ あ、あの、レイシェル殿、もう少し手加減をほおっ♡」
「んひっ♡」
行為の途中、たまに耳や尻尾をもふる。
しっかり手入れしているのか、キューティクルがあって触り心地が最高だ。
そうこうして太陽が昇り始めた頃。
「れ、れいしぇる殿ぉ♡ もっとお情けをぉ♡」
「お情けをぉ♡」
すっかり甘えん坊になったキンコとギンコ。
俺はちょうどいいと思って、二人に諸々の事情を訊ねることにした。
肌を重ねたからだろう。
キンコたちはアシュハラが抱えている問題をすらすら話し始めた。
「実は我がアシュハラは、ある勢力と戦争状態にあるのです」
「うわぁ、また戦争かあ」
アガードラムーンも先日まで戦争していた。
あっちへ行ってもこっちへ行っても戦争ばかりで嫌になる。
もっと平和的に物事を解決する方法がどこかに転がっていないだろうか。
それにしても、相手はどの国なのか。
アシュハラは景観こそ美しいが、文明レベルがそこまで高くはない。
群島国家故に造船技術に関しては目を見張るものがあるが、それも近世程度。
ついでに言うならアシュハラは大陸から結構な距離があるのだ。
完全に孤立していると言ってもいい。
わざわざ大陸の国が戦争を仕掛けてくるほどのメリットは……。
海底資源は豊かだが、それを採掘できるのはこの世界でアガードラムーンだけだろう。
一体どこがアシュハラを狙っているのか。
いや、キンコは『勢力』って言ったし、相手が国とは限らないのか?
「その勢力って?」
「……鬼ヶ島の鬼たちでございます」
「鬼って、オーガとか?」
「それは大鬼のことですよね? それとは別物です」
「あ、違うんだ」
一般的に鬼と言ったらオーガである。
しかし、剣や鎧を完全武装した兵士が五人もいれば勝てるような相手。
苦戦するとは思えない。
「鬼人という、古くからアシュハラの島々を荒らしている者共です」
「鬼人?」
「強者こそ正義であり、弱者は蹂躙するものという考え方が一般的な蛮族です。しかし、奴らは幼子ですら怪力無双。一人の鬼人に我が国の戦士たちは百人を殺されます」
「……それは、強いな」
獣人は力持ちで素早く、一人で人間の兵士三人に匹敵すると言う。
それを容易く百人も殺すなら、人間換算で鬼人一人を倒すのに三百人を要することになる。
「それに、奴らは人を食います。以前は家畜を奪うばかりでしたが、最近は人も拐って……」
「う、うわ、まじか」
「この度、貴国が我が国の領海に降り立ったことは救いでした。陸地を浮かせる、我々では到達し得ないであろう超技術を有した貴国であれば、鬼人共をどうにかしてもらえるのではないか、と」
「なるほど」
「正直、領海侵犯に関する謝罪は貴国の要人を我が国に招くための方便に過ぎません。これを機に交流を深め、鬼人に対抗するための協力を取り付けたいというのが本音なのです」
「……ん? じゃあ、対価として魅力のある少年を連れてこいっていうのも方便だったのか?」
「あ。いえ、そちらは天帝陛下の趣味です。天帝陛下はちょうどレイシェル殿のような見目のよい少年をおか――可愛がることが好きでして」
今、犯すって言いそうになった?
まあ、あんな絶世の美女に犯されるなら嬉しいというのが本音だが。
「てか天帝の男に手を出していいの?」
「あらかじめ我々が手解きしておくことで天帝陛下との行為がトラウマにならないようにしているのです。その、寝所の天帝陛下は、凄いので」
「あ、そ、そう」
「はい。……レイシェル殿は特にお気を付けください。最近は相手が幼い少年なら天帝陛下も優しくなったのですが、合法ショタとなると遠慮しないでしょうから」
「ショタ扱いはやめい。たしかにチビだけど。……そ、そんなに激しいの?」
「激しいです。ただ、そうですね」
キンコがもじもじしながら言う。
「レイシェル殿であれば、天帝陛下の心を奪えてしまうかもしれませんね。その、我々のように」
「え?」
「な、なんでもありません。では、そろそろ我々は失礼します。ギンコ――って、寝てる!?」
慌てて部屋を出ていこうとするキンコだったが、妹のギンコは俺の布団でぐっすりだった。
寝顔が可愛い。
「むむむ、お客人の寝室で眠るなど……」
「朝まで付き合わせちゃったから、しばらく寝かせておいてあげよう。あ、それと」
「?」
俺はキンコを見つめる。
「鬼人の件は国に伝えておくよ」
「っ、ありがとうございます、レイシェル殿」
鬼人の存在は他人事ではない。
資源を採掘する関係上、最長で半年もアシュハラの近くにいるのだ。
もしかしたら鬼人が攻め入ってくるかも知れない。
何より俺はもうキンコとギンコにすっかり情が湧いてしまっているからな。
困ってる話を聞いて見捨てるとか無理。
キンコが感謝の言葉を述べて退出し、俺はギンコと二人きりになった。
「すぅー、すぅー」
「……ちょっとくらい、悪戯してもいいよね?」
俺は眠っているギンコにエッチな悪戯をしようとして――
「……先に言っておくなら、今のところ貴方は相手の思惑通りに動いている」
「うおわ!? って、クウラか。え、思惑通りって?」
「……肌を重ねて情を湧いた相手が困ってるから助けてほしいと言ってきた。詐欺の手口と同じ」
「そ、そんなことは……」
……無いとは言い切れないけど。え、待って。
キンコやギンコは堕とせたと思っていたが、演技の可能性もあるのか!?
だとしたらショックなんだけど!!
「……まあ、キンコとギンコが貴方に惚れてしまったのは嘘ではないと思う」
「そ、そうかな?」
「……女の顔だったから、そこは間違いない。でも勝負に勝って試合に負けたことに変わりはない」
「試合に勝って勝負に負けた……」
何故だろうか。
キンコとギンコ、それから二人の主であるミタマを敵には回さない方がいい気がしてきた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「わるーい狐っ娘に騙されるシチュエーションは興奮するよね」
レ「分かる。狐につままれたい」
「キンコちゃんかわいい」「わいはギンコ派」「合法ショタ扱いで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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