第69話 捨てられ王子、割と最低なことを言う
更に数日後。
ラ◯ュタもといアガードラムーンが空中国家となってしばらく経った頃。
アガードラムーンは順調に目的の海域に到着し、海底に眠る資源を採掘するため、今は大型のドリルを建造している。
海底と言ってもそこまで深いものではなく、そう大変な作業ではないとのこと。
しかし、必要な資源の量が量なので採掘には三ヶ月から半年はかかってしまうらしい。
もしかしたらアガードラムーンを狙う国が追ってくるかも知れないが……。
そうなった時の対策もアルカリオンは考えているというので流石だ。
さて、そのアルカリオンだが。
「坊や、今少しいいですか?」
「……もうアルカリオンが天井裏から出てきても驚かないよ」
「い、嫌な慣れ方をするな、レイシェル。母上もいい加減普通にドアから入ってきてください」
俺がローズマリーとお茶をしていたところ、アルカリオンが部屋に入ってきた。
天井板を外して暗闇の向こう側から顔を覗かせている。
よく色々なところから出てくるから、最近はあまり驚かなくなった。
アルカリオンが音もなく床に着地する。
しかし、そのトンチキ行動とは裏腹にアルカリオンの面持ちは真剣だった。
「アルカリオン、何か相談事?」
「……相談というほどではありませんが」
「何でも言って。アルカリオンのお願いなら頑張るから」
「では、遠慮なく」
アルカリオンは相も変わらず無表情で、淡々と突拍子もないことを言う。
「ちょっと獣人の国に行ってもらいたいのですが」
「おっけー!! ってなると思う!? どゆこと!?」
まるで「ちょっとコンビニで買ってきて」みたいな軽いノリで言うアルカリオン。
流石に流れに任せて頷くのは無理だよ?
いや、頼ってくれたのは嬉しいし、何でもするとは言ったけどさ!!
ちょっと思ってたのと違う!!
流石に見かねたらしいローズマリーが、詳しい事情を問う。
「ま、まずは事情を説明してください、母上」
「ついさっき、問題が生じたのです。我々が資源を確保するために降り立ったこの海域は、ある国の領海だったようです」
「え? 国? でもこの辺りって……」
「ああ、たしかにこの辺りには小さな島々が点在する。しかし、国などあったのですか?」
「そう思っていたのですが、違いました。どうやら最近になって島々で暮らす獣人たちが寄り集まり、一つの国家を形成していたようなのです」
「へぇー」
つい最近なら把握していなくても不思議ではないのかも知れない。
俺たちはその国の領海に侵入してしまった、と。
「先程、その国の海上警備隊が接触してきました。我々の領海侵犯に対し、相応の謝罪と対価を要求する、とのことです」
「謝罪はともかく、対価とは? ……まさか、それが?」
「はい。先方の国の支配者が、我が国で最も魅力ある男を連れてこいと言ってきまして。私にとっては、坊や以外に魅力のある男性がいません」
アルカリオンにそう言われるのは嬉しいなあ。
「しかし、何故そのような要求を?」
「軽く視たところ、かの国では天帝を名乗る女性の支配者がいるそうです。それから無類の少年好きとも」
「……まさかとは思いますが、母上」
「なんでしょう? ローズマリー」
小首を傾げるアルカリオンにローズマリーは疑わしいものを見るような目を向ける。
アルカリオンが少し視線を逸らした。
「向こうが男を要求してきたのをいいことにレイシェルを送り込み、天帝とやらを籠絡させるつもりですか?」
「……」
「それで領海に侵犯した問題を有耶無耶にするつもりなのでは?」
「……」
「先程から目を逸らしていないでこちらを見てください、母上!! 見損ないましたよ!! 国益のためにレイシェルを差し出すとは!!」
「違うのです、ローズマリー。母の話を最後まで聞きなさい」
ローズマリーが声を荒らげた。
すると、アルカリオンは無表情ながらも焦った様子で弁明を始める。
その話は平行線だった。
「決して坊やを利用する意図はないのです。ただ、現状を解決する手段が他になく――」
「だからと言って――」
ローズマリーとアルカリオンの会話に耳を傾けながら、俺は考え込む。
正直に言おう。俺は普段、何もしていない。
美味しいものを食べては柔らかいベッドで眠り、女の子とエロいことして過ごす怠惰な日々を満喫している。
たまーに治療院に行って怪我人を治療している以外は本当に何もしていない。
だからこそ、たまには役に立ちたい。
しかし、天帝を名乗る凄そうな女の人を籠絡とかできる自信はない。
取り敢えず俺が今やるべきことは――
「ひゃんっ♡」
俺は不意を突くようにローズマリーのおっぱいを後ろから揉みしだいた。
相変わらず柔らかい最高のおっぱいだ。
「な、何をするのだ、レイシェル!! 今は真面目な話をしているのだぞ!!」
「だって、二人が喧嘩してるところ見たくないし」
「む、べ、別に喧嘩していたわけでは……」
自覚があるのか、少し歯切れが悪そうに俺とアルカリオンを交互に見つめるローズマリー。
「それに俺は、普段から自分で何でもできちゃうアルカリオンが頼ってくれて嬉しいんだ」
「むぅ……」
「話を聞いた限りだと人質とかじゃなくて国賓って感じだし、悪いようにはならないと思うよ」
「そ、それでも私はお前が心配なのだ。お腹の子のためにも……」
俺は新しい生命が宿るローズマリーのお腹を優しく撫でた。
妊娠発覚から一ヶ月程度が経っている。
たしかに身重のローズマリーと離れ離れになるのは心配だし、会えないのは辛い。
「じゃあ、ちゃちゃっと天帝さんを籠絡して問題を解決させて帰ってくるよ!!」
「……まったく、お前という奴は。妻とお腹の子のために他の女を籠絡して帰ってくると宣言する男など、世界広しと言えどレイシェルくらいだろうな」
「割と最低なことを言った自覚はあるよ」
「ふふ、ははは」
ローズマリーが仕方ないと肩を竦めて困ったように笑い、お腹を撫でながら言う。
「私やこの子のことを欠片でも忘れたら、許さないからな。もし忘れたらお仕置きだ」
「そんなこと絶対にないけど、どんなお仕置き?」
「忘れられないくらい、お前をめちゃくちゃにする」
「おうふ。そんなこと言われたら困っちゃうよ」
「……もし忘れなかったら、それ以上にお前をめちゃくちゃにしてやるからな♡」
そう耳元で囁きかけてくるローズマリー。
こうして俺の仲裁により、ローズマリーとアルカリオンの喧嘩は何事もなく終わった。
アルカリオンが話を進める。
「とは言え、坊やに万が一のことがあってはいけません。なので私の古い友人であり、実力もある護衛を用意しました。カモン」
「カモンて……。って、うわ!?」
アルカリオンの合図で天井裏から出てきたのは、見覚えのある女性だった。
腰まで届く長い銀髪と半分しか開かれていない真紅色の瞳。
それでいて顔立ちは人形のように恐ろしく整っている。
その身体はボンキュッボン。更にはおっぱいがめちゃくちゃデカイ。
腰はキュッと細く締まっており、太ももも程よい肉付きでお尻も大きく、脚はしゅっと引き締まっていて長い。
「クウラさん、でしたよね?」
その女性は以前、異大陸から帰ってくる時に一緒に船に乗っていたアラクネのボスだ。
アラクネのボスと言っても下半身が蜘蛛なわけではなく、人間と同じ足がある。
でも目は八つあって、しっかりと蜘蛛らしいところもある。
「クウラさんが、アルカリオンの友人?」
「……友人ではない。古い知り合い」
「友人です」
「……そういうことでいい」
あくまでも知り合いを名乗ろうとしたが、アルカリオンの主張に屈するクウラ。
さっきアルカリオンと同じように登場してたし、仲はいいのだろう。
話がまとまって今後の動きを決めた後、アルカリオンが話しかけてきた。
その顔色は無表情ながらも暗い。
「坊や。私は――」
「全然気にしてないよ」
「……まだ何も言ってませんが」
「アルカリオンのことだから俺を利用しちゃった〜とか思ってるんでしょ? 普段何もしてないんだし、たまには何かさせてよ。それにほら、天帝さんが美人だったら役得だし」
「……坊やには敵いませんね。ところで坊や、一ついいでしょうか」
「ん? 何――」
ガシッとアルカリオンが俺の肩を掴み、そのまま抱き寄せられる。
その大きなおっぱいに顔を無理やり埋められてしまう。
「ますます坊やのことが愛おしくなってしまいました。今夜は寝かせません」
「っ、母上!! 抜け駆けは卑怯です!!」
「ローズマリーは身重なので激しい運動をしてはなりません。ここは母に譲るように」
「や、優しくなら大丈夫ですから!! そうだ、レイシェル!! 前に後ろでしてみたいと言っていただろう!? 今日は特別だぞ!!」
俺を取り合う美人母娘と、興味なさそうに部屋を出ていくクウラ。
その数日後、俺は件の国へと出立した。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「冷静に考えてみたら獣人系ヒロインはいなかったな? と思って突入した章」
レ「やったぜ」
「日本じゃぶん殴られること言ってて草」「クウラとアルカリオンのやり取りが笑う」「ケモ耳ヒロインは正義」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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