第66話 捨てられ王子、パイ力に負ける





「……どちら様?」


「トーカはトーカ!! お前、トーカのご飯を横取りするな!!」



 何故ここにトーカがいるのか。


 もしかして俺の危機を知って助けに来てくれたのだろうか。


 何がとは言わないが、文字通り空っぽになってしまって身動きの取れない俺には彼女が聖女のように見えてしまう。


 神様は俺を見捨てていなかったのだ。


 と、俺が感動していた次の瞬間、トーカが目にも止まらぬ速さで突進してきた。


 これには流石のライムも驚いたらしい。


 俺に被害が及ばないよう、ライムは咄嗟に身体の一部を粘液状に変えてトーカをポヨーンと弾いてしまった。



「マスター、危ないから下がっていて」



 いや、俺がいてもお構い無しでいきなり襲ってくるトーカも危ないが、ライムも大概だと思う。


 声を出す気力もないから言わないけど。


 そうして始まったのは、森が焦土と化すほどの激しい戦いだった。


 トーカが極太のレーザーみたいなブレスを吐いたと思ったら、ライムがそれを吸収して逆に放ち返すとか。


 まるで映画のワンシーンを見ているようだった。



「ぎゃは!! お前も中々美味いな!! れいしぇるほどじゃないが!!」


「マスターの神聖な子種を食料扱いするのは不敬。許さない」



 無尽蔵に分裂して数で押すライムと、それを片っ端から捕食していくトーカ。


 恐ろしいのはライムの分裂体だ。


 戦場で癒した兵士たちの血や皮膚を介して知識や技能を吸収したのか、個体ごとに見せる動きが全く違う。


 しかし、ライム本体の完璧な統率によって戦力が何十倍にも膨れ上がっていた。


 それを正面から捩じ伏せるトーカも怖い。


 そうこうしてライムとトーカが増えては食われを繰り返すこと数十分。



「……分が悪い。撤退する」



 ライムが撤退を決断した。


 互角に見えた戦いは、ライムの増える速さよりもトーカの食らう速さの方が微かに上回ったらしい。


 ちらりと俺を一瞥したライムが一言。



「ばいばい、マスター。ライムがもっと強くなったら迎えに行く」


「え、あ、うん……」



 これ以上!?


 ただでさえ成長したのに、ライムはここから更に強くなる気でいるの!?


 どうしよう。うちのスライム、止まらない……。



「あとライムは約束を守るスライムなので、連絡手段を渡しておく。何かマスターに困り事があったら、いつでも呼んでほしい」



 そう言ってライムは手のひらサイズの小さなスライム形態のライムを手渡してきた。


 約束というのはサリオンが提案した、俺をライムに差し出せばアガードラムーンの軍門に降ることについてだろう。


 色々と悪い子に育ってしまったが、約束は守るいい子になって嬉しいような、悲しいような。


 トーカが撤退を選択した彼女に怒鳴る。


 

「あ、待てー!!」



 トーカがライムを追う。


 その場に一人残された俺のもとにやってきたのはサリオンだった。



「まったく、大口を叩いておいて負けてしまうとはのぅ」


「うぅ、ごめん……」


「くっくっくっ、別に責めてはおらんのじゃ。それだけライムが規格外だっただけじゃからな」



 サリオンは俺がライムに負けてしまったことを把握しているらしい。



「幻術に引っ掛かった時点で警戒しておったが、あれは儂ではどうにもならん」


「ラ、ライムってそんなに強いの?」


「うむ、周囲への被害を考えずに戦うならやりようはあるがの。こちらに少しでも制限があったら負けるのじゃ。じゃからトーカを呼んだ」


「あ、そ、そう……」



 トーカがこの森に来たのはサリオンの差し金だったようだ。


 正直、助かった。


 あのままだったら俺は死ぬまでライムに搾り取られてしまうところだった。


 ……いや、ライムなら俺を殺さないだろう。


 ギリギリ死なない程度に搾り取り、回復したらまた搾り取る。


 もしかしたら生かさず殺さず、永遠にライムの分裂体に種を仕込むだけで一生が終わっていたかも知れない。


 思わずヒヤッとする。


 すると、サリオンは俺が更にヒヤッとすることを淡々と言い始めた。



「あれに勝つのはアルカリオンでも難しいじゃろうなあ」


「ま、まじか……。じゃあ、トーカ以外にこの世でライムを止められる人はいないのか?」


「うーむ。アイルインなら可能性はあるかの?」


「あのアイルインが?」



 お酒ばかり飲んでるイメージがあるから、彼女が戦闘する姿が思い浮かばない。

 でもまあ、サリオンが言うならそうなのかも知れない。


 いや、それよりも。



「はあーあ」


「む、落ち込んでおるのじゃ? それともライムの躾に失敗してグラマラスな儂のご褒美を貰えなくてショックなのかの?」


「グラマラスなサリオンとめちゃくちゃエッチしたかったです」


「お、おう、正直に言われると反応に困るのじゃ」


「……な、なあ、サリオン」



 俺はダメ元でお願いしてみることにした。



「ダメなのじゃ」


「まだ何も言ってないよ!!」


「どーせ次は勝つからご褒美の前借りでもしたいとか言うんじゃろ?」



 くっ、心を読まれてる!!


 どうにかサリオンにお願いしてみるが、彼女は首を縦に振らない。



「うぅ、仕方ないよな。頑張ったけど、あれだけ自信満々で勝てなかった俺が悪いのは事実だもんなあ」


「……むぅ。まあ、頑張ったご褒美はくれてやるのじゃ」


「え?」


「言っておくが、エッチなことはしないのじゃ」



 そう言うとサリオンは地面に正座し、動けない俺の頭を自らの膝の上に乗せる。


 こ、これは膝枕か!!



「よしよし、よく頑張ったのじゃ。いい子いい子、なのじゃ」



 サリオンが頭をナデナデしてくる。


 上手く言えないが、サリオンのナデナデは妙に落ち着く。


 しばらく頭を撫でられて過ごしていると、ライムを追いかけていたトーカが帰ってきた。



「くっそー!! ご飯泥棒に逃げられた!!」


「おかえりなのじゃ、トーカ」


「あ!! お祖母ちゃんまでトーカのご飯を取らないで!!」


「おお、すまんすまん」



 トーカに謝りながらも膝枕とナデナデをやめるつもりはなさそうなサリオン。


 そして、更に頬を膨らませるトーカ。



「おい、れいしぇる!! ご飯寄越せ!! 動き回ったからお腹が空いてイライラする!!」


「え、あ、ちょ、今はすっからかんで……」


「うるさい、いいから食わせろ!!」



 せっかく履いたズボンをトーカに再び下ろされてしまう。


 しかし、当然ながら俺の愛刀は反応しない。


 それくらい、俺は精も根も丸ごとライムに搾り取られてしまったのだ。


 ど、どうしたものか。


 せっかくトーカに助けてもらったのにお返ししないのは申し訳ないし、どうにかしてあげたいところだが……。



「話には聞いておったが、ふむ」


「サリオン?」


「トーカや。こういう時は――」



 サリオンがトーカに何かを耳打ちする。


 すると、トーカは半信半疑といった面持ちでサリオンを見つめた。



「お祖母ちゃん、それ本当?」


「いいからやってみるのじゃ」


「うーん。まあ、お祖母ちゃんが言うなら……」



 何故かトーカはサリオンに促され、身にまとっていた服を脱ぎ始めた。


 その小さな身体に不釣り合いな大きなおっぱいが露わになる。


 うお、でっか!!


 大きさはローズマリー以上、下手したらアルカリオンのギガおっぱいに届きうる素晴らしいおっぱいだった。



「おら!!」


「!?」



 脳が理解するまで時間がかかった。


 トーカが何を思ってか、何故か急に俺に抱きついてきたのだ。


 大きなおっぱいに頭を包まれてしまう。



「おらおら!! さっさと私のご飯作れー!!」



 どたぷんっ♡ ばふぱふ♡ むぎゅー♡


 始まったのはおっぱいによる暴力、略してパイ力だった。


 しかし、その効果はてき面。


 精根尽き果てたはずの愛刀に少しずつ活力が溜まってきている。これはアカン。負ける。



「おりゃ!! これならどうだ!!」


「あふっ!?」



 左右から頭を圧迫される。


 息をしようにもトーカの怪力によって空気が入る隙間すらない。


 このままでは窒息してしまう。


 死に対する明確な恐怖が生物の本能的欲求、子孫を残したいという気持ちが湧いてきた。


 更には豊満なおっぱいを前にして「目の前のメスを孕ませたい」という男ならではの欲求が溢れてくる始末。



「つ、作りゅぅ!!」



 俺はトーカのおっぱい攻撃で回復した。


 萎れていたはずの愛刀は完全復活を果たし、その全てをトーカに捧ぐ。



「……っ……?」


「トーカ? どうしたのじゃ?」


「……お祖母ちゃん、何か変。トーカ、れいしぇるを見てると胸の奥がキュッてする」


「ほほう!! くっくっくっ、レイシェルも罪な男なのじゃ。それでこそ儂の見込んだ男!!」



 それ以降、トーカは食事の効率を上げるためと称しておっぱい攻撃をしてくるようになった。


 はい、最高です。








―――――――――――――――――――――

あとがき


作者「拙者、エロいことはもうしてるけど自分の情緒に疎くて好きという感情が分からない女の子に興奮する侍」


レ「久しぶりにまともだ!!」


作者「お知らせ。投稿頻度を上げます。二日に一話」



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