第59話 捨てられ王子、溺れる
「う、うぅ、ここは……」
俺は痛む身体を起こした。
ひとまず身体を『完全再生』で治療し、痛みを無くしておく。
それから辺りを見回して目を瞬かせた。
「ここって、治癒院かな?」
真っ白な部屋と清潔なベッド。
ベッド脇のテーブルにはお見舞い品と思わしき果物やらが置いてある。
「俺、たしか船から落ちて……っ!! 皆はどうなったんだ!?」
「船に乗っていた者たちは全員無事ですよ」
「え?」
どこからか聞き覚えのある声が聞こえた。アルカリオンの声だ。
しかし、辺りを見回しても彼女はいない。
まさか彼女に会いたいという気持ちが強すぎて幻聴でも聞いたのだろうか。
そう思ったのだが、違うらしい。
「ここです、下です」
「え? ――ひぃ!?」
声が聞こえてベッドの下を覗き込むと、アルカリオンがいた。
薄暗いベッドの下でその瞳を黄金に輝かせていて怖い。
「アルカリオン!? なんでそんなとこにいんの!?」
「坊やの顔を見たくて、坊やが気を失っている間はここにいました。ローズマリーに見つかると仕事に連れ戻されるので」
「あ、そ、そっか……」
そう言いながらベッドの下から這い出てくるアルカリオン。
俺はアルカリオンから詳しい話を聞いた。
「坊やが乗っていた船を砲撃したのは、沿岸を警備していたアガードラムーンの軍艦です」
「……え!? うちの軍艦!?」
「はい。正体不明、所属の分からない船が近づいてきたので砲撃したそうです。現状、アガードラムーンは敵に囲まれていますから、貴重な港を守るために敏感になっていたのでしょう。謝罪します」
「いやいや!! 全員無事なんでしょ? 謝ることないよ」
俺がいなくなってからのアガードラムーンは大変だったらしい。
貴族諸侯が反乱を起こしまくり、元々帝国の貴族だった者たちの八割以上が独立を宣言、同時に宣戦布告してきたそうだ。
驚いたことに敵は銃を使ってきて、イェローナがそれらを解析、改造した。
その結果があの戦艦とのこと。
いや、元々下地はあるなーと思っていたが、まさか本当に近代兵器を作るとは思わなかった。
「国土は全盛期の三割ほどになりましたが、その分防御力が向上し、現在は一部の国と停戦交渉に入っています」
「そ、そうなんだ?」
「それもこれも、坊やのお陰です」
俺が首を傾げていると、アルカリオンは相変わらず無表情ながら嬉しそうに言った。
「坊やのことを慕っている、元王国軍兵士たちが味方してくれたのです。彼らが防衛線を構築し、遅滞戦闘に努め、国を守ってくれました」
「……そっか。あいつらに迷惑かけちゃったな。今度お礼言わないと」
「あと坊やが学園で手を出した貴族の子女たちも味方してくれました。中には親が反乱を起こした者もいましたが、坊やのためにと縁を切ってまで戦ってくれました」
「そっか!! 今度お礼言わないとね!!」
ちょっぴり不満そうなアルカリオン。可愛い。
「……ごめん」
「? 何を謝るのです?」
俺は申し訳なさで胸がいっぱいだった。
アルカリオンが苦労している中、俺はそこまで危険な目に遭っていない。
ラミアやサキュバス、ダークエルフやアラクネとただエッチなことをして船を作っていただけである。
「俺、ローズマリーやアルカリオンが大変なことくらい想像できたはずなのに、その、転移先で、出会った人たちと、その、エッチなことばかりしてました……」
「……ふむ、なるほど」
アルカリオンは何かを考えながら、俺の顔をじーっと見つめて頷いた。
「では、坊やには罰が必要ですね」
「……はい。何でもします」
「今、何でもとおっしゃいましたね?」
「え? あ、うん。まあ、はい」
俺がそう言うとアルカリオンは一切の躊躇なく服を脱ぎ捨てた。
うお、でっか!!
久しぶりに見たアルカリオンのおっぱいは大迫力だった。
……いや、待て。
気のせいか、最後にアルカリオンのおっぱいを見た時より大きくなっているような気がしなくもない。
「アルカリオン、な、なんかおっぱい大きくなった?」
「毎日坊やのことを想って慰めていましたので。大きさだけでなく、更に柔らかくなっていますよ。ちなみにローズマリーも同様です」
「そ、そっか。――むぐ!?」
俺はアルカリオンに捕まってしまい、その大きなおっぱいに無理やり顔を埋められてしまった。
そして、アルカリオンがめちゃくちゃ頭をナデナデしてくる。
「ああ、坊や。私の可愛い坊や。やっと帰ってきてくれたのですね。もう二度と離しません。坊やには一生私の、いえ、ママのおっぱいの中にいてもらいます。外出する時も、他の女とエッチをする時もママのおっぱいに甘えなさい」
「ちょ、アルカリオンさん!? お、落ち着いて!?」
「おや、坊やはママのおっぱいが気に入らないのですか? ならば仕方ありませんね。坊やが一生ママのおっぱいが出たくないと思うまで、めちゃくちゃエッチします。お覚悟を」
アルカリオンの目は本気だった。
本気で俺をおっぱい漬けにして一生離さないつもりの目だった。
これはやばい。
今のアルカリオンからは、サキュバスたちと相対した時と同じくらい危険な匂いがプンプン漂ってくる。
会えなかった時間が二人の愛を育むと言うが、アルカリオンは愛が爆発したらしい。
そして、俺はその甘美な誘惑に抗えない。
辛うじて残っていた理性も、続くアルカリオンの一言で完全に崩壊した。
「坊や、ママと赤ちゃんを作りましょう」
「……ぇあ?」
「坊やとの繋がり、愛の結晶。それがほしいのです。ああ、当然ながら赤ちゃんができたからと言って坊やに注ぐ愛が減ることは欠片もありません。坊や、私と子を成しましょう。いえ、作ります。坊やが何と言おうと、産みます」
「あぅ、あ……」
アルカリオンは俺をベッドに押し倒してきた。
そして、大きなおっぱいに俺を閉じ込めながら子作りしようとする。
と、ちょうどその時だった。
「何をやっているのですか、母上!!」
「おや、ローズマリーに見つかってしまいました」
真っ赤な髪を靡かせながら、ローズマリーが病室に入ってきた。
ああ、本当にローズマリーだ。
これはもしかしなくてもローズマリーに怒られてしまう奴だろう。
と、思っていたら……。
「約束では私が先ですっ、母上!!」
「え?」
「ふぅ♡ ふぅ♡ レイシェルっ♡ お前という奴は目を離したらすぐどこかに行ってしまう♡ もう一生離さない♡ お前は私のものだ♡ 一生私のおっぱいの中にいろ♡」
いつだったか。
初めて俺とローズマリーが肌を重ねた日、媚薬を盛られた時と同じ彼女だった。
大きなおっぱいに両側から包み込まれる。
圧死してしまいそうなくらい強く、それでいて優しく。
俺の脳は溶けた。
「レイシェルっ♡」
「坊や」
二人は同時に、囁きかけてきた。
その吐息が俺の心臓の鼓動を早まらせ、血液が一ヶ所に集中する。
ああ、ダメだ。
「「レイシェル(坊や)、私たちのおっぱいに溺れろ(溺れなさい)」」
二人は本当に俺を離さなかった。
それから一ヶ月間、俺は二人の身体に溺れるのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「読者の次の台詞は『溺れるってそっちかよ!!』だ!!」
レ「……(溺れているためノーコメント)」
「ベッド下から出てきたの草」「溺れるってそっちかよ!! ……ハ!?」「あとがきで笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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