第58話 捨てられ王子、海に落ちる






「陸地が見えたぞー!!」



 出港からどれ程の時間が経っただろうか。


 目のいい者がそう大声で叫ぶと、甲板に乗組員たちの歓声が響いた。


 ここ最近、ずっと魚ばかりだった。


 幸いにもアラクネの中に野菜を育てるのが趣味の者がいたこともあり、船内菜園でビタミン不足に陥って壊血症になることはなかったが……。


 やはり単調な食事は飽きてくる。


 アイルインに至っては最初の数日でお酒を飲み干してしまったから素面だ。


 あ、いや、酔ってはいるか。



「アイルイン、大丈夫?」


「あ、う、うん。うぷっ、おええ」



 アイルインは船に弱かったらしく、甲板から大量のゲロを海に吐いていた。


 ああ、虹がかかっている……。


 しかもお酒が抜けきっているせいか、メンタルまで弱々しいのだ。



「うぅ、ごめんね、レイシェル君。こんなのが義理の姉なんて嫌だよね。いつもいつもお酒に逃げてばかりでちっともお姉ちゃんらしいことできないし、いつか妹たちにまで追い抜かれそうで不安で、本当ならそれは姉として喜ばなきゃいけないのに――」



 とまあ、こんな感じである。


 このままだと本当に壊れてしまいそうで、お酒をあげたくなってしまう。



「アイルイン、あと少しで陸地だから!! お酒もたくさん飲めるから!! 元気出して!!」


「ダメだよ。お酒に逃げてばかりじゃ、私はもっとダメ人間になってしまう……。お母さんの娘として相応しく振る舞わなきゃ、でも、うぅ、不安と恐怖で心臓が潰れそう……」


「ん、んー」



 アイルインは扱いが難しい。


 アルコールが入っていたらどうしようもない性格になる。


 しかし、酒が抜けたらこうなってしまう。


 酒をあげたら面倒だし、抜いたら可哀想になってくるとかどうしたらいいのだろうか。



「おい、れいしぇる。食事の時間だ」


「ん? あ、トーカ。え? もう? あとちょっとで陸地に――」


「うるさい。いいからいつもの食わせろ!!」


「ちょ、分かった!! 分かったからズボン下ろそうとしないで!!」


「もうお腹ペコペコなんだ!!」



 色々と心配になるアイルインを甲板に置いて、俺はトーカに腕を引かれながら船室へ移動。

 そして、無理やりズボンを下ろされてトーカの食事の時間が始まった。


 トーカに物理的に襲われてしまった日以来、彼女は俺で食事をするようになっていた。


 俺の想像通り、やはり俺のナニから放たれる数億の生命エネルギーは栄養満点でトーカのお気に召すものだった。



「うっ、ま、また上手くなったな……」



 トーカはサキュバスのように肌から『それ』を吸収できるわけではない。


 あくまでも経口摂取。


 そのせいか、トーカの搾り取るための技能は日に日に向上していた。


 しかし、あくまでもこれは食事だ。


 それ以上のことはされないし、トーカもさせてくれなかった。


 だから俺は消化不良でラミアやサキュバス、ダークエルフやアラクネの女性とエッチなことをして気を紛らわせるのだ。


 ああ、ローズマリーやアルカリオン、皆が恋しくて堪らない。

 帰ったら離れ離れになっていた分、全力で皆と愛し合おう。


 と、その時だった。



「うお!? な、なんだ、今の揺れ!?」



 何故か船が激しく揺れ、俺はよろめいて倒れそうになる。


 しかし、それをトーカが支えてくれた。



「おい、気を付けろ」


「あ、ああ、ごめん。ありがと。って、それより今の揺れは……」


「……襲撃だな」



 何故かニヤリと笑って言うトーカ。



「な、なんで笑ってんだ!? 襲撃ってことは敵が来てるんじゃ!?」


「お前は知らないのか? 敵なら遠慮なく食っていいんだぞ」



 そう言ってトーカはウキウキわくわくしながら船室を飛び出した。


 甲板に向かったらしい。


 流石に危ないと思って止めようとしたが、足が早くて追いつけなかった。


 俺が甲板に辿り着いた頃にはトーカが海上に飛び出し、片方の足が沈む前に一歩踏み出すことで水上を走って行ってしまった。



「う、うわー、忍者かよ。って、言ってる場合じゃない!! 何あの船!?」



 今、俺たちを襲っている船は信じられない姿形をしていた。


 それは小島のようだった。


 俺たちの乗っている船もそれなりに大きい金属製のものだが、襲ってくる船の大きさはこちらの五割増しくらいだろうか。


 しかも驚いたことに、武装していた。


 超大型バリスタが可愛く見えるような、巨大な鉄の筒がハリネズミのように無数に整列している。


 大砲だ。


 それも戦列艦のような中世ヨーロッパの船ではなく、もっと近代的な……。

 戦艦とか、そういうものに載っている回転砲塔式の大砲である。



「やばいやばい!! 狙われてる!! うわ、撃ってきた!?」



 途端に大砲が真っ黒な煙を吹き上げた。


 それはまるで襲ってきた船が勝手に爆発したように見えるが、そうではない。

 アイルインも何となく察したのか、舵を握って乱暴に切った。


 その直後に船の真横で水柱が上がる。


 あと少しアイルインの神回避が間に合わなかったら木っ端微塵になっていただろう。



「アイルイン!! ど、どうすんのこれ!?」


「ど、どうしよう!? どうしたらいい!?」



 アルコールが切れているせいか、余裕があまりないアイルイン。


 そうこう慌てているうちに敵は次を撃ってきた。


 再び舵を切って回避するが、無数に飛来する砲弾を前に全て躱すことは叶わず、二発被弾。


 ダークエルフの技師たちが悲鳴を上げる。



「浸水!! 第一区画に水が!!」


「レイシェル君!! 君は船を修復して!! 他の皆で入ってきた水を魔法でも何でも使っていいから出して!!」


「わ、分かった!!」



 俺はアイルインの指示に従って『完全再生』で船を修復する。


 この状況で的確な判断を下せるアイルインは、正直今まで見てきた中で一番カッコよくて頼りになる。



「修繕終わった!!」


「じゃあ次は第三区画の穴を修復して!!」


「了解!!」


「ってうわあ!? また撃ってきた!? ああもう!! 助けてお母さん!!」



 敵の猛攻が止む気配はない。


 下手したらこのまま……。そろそろ死を覚悟した方がいいだろうか。


 いや、まだ大丈夫だ。


 俺がいる限り、船に穴が空いてもどうにか直すことができる。


 と、思っていたその時だった。



「お、おい!! あっちに穴が!! 水が大量に入ってきてるぞ!!」


「ヘク!! 危ない!!」


「うわ!?」



 船に穴が空いたことを言いにきたヘクに、敵の撃ってきた砲弾が当たって砕けた金属の破片が当たりそうだった。


 俺の悲鳴のような叫びに気付いたヘクは何とか回避したが、その瞬間。



「え?」



 なんとヘクは甲板から海の上に放り出されてしまっていた。


 アイルインや他の船員は慌ただしく動いていて気付かない。


 俺は咄嗟にヘクに手を伸ばした。



「危ない!!」


「――は? なっ、おま、何やって!?」



 ヘクをどうにか甲板の方に引き戻し、その拍子に俺が海に投げ出されてしまう。


 ああ、やばっ。


 俺はすぐ海の荒波に飲まれてしまい、意識を失うのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「爆乳ロリの即尺……うらやましい!!」


レ「草」



「うらやましい!!」「アイルイン、かっこいいよ」「これはヘクも惚れるな」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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