第57話 捨てられ王子、食われるのを回避する






「お前ら、美味そうだなあ。じゅるり」



 太陽を彷彿とさせる橙色の髪、肉食獣のようなギザギザの歯。

 その黄金の瞳孔は開ききっており、本能的に恐怖を感じてしまう。


 ローズマリーやアルカリオンのような、性的に飢えている獣ではない。

 性欲ではなく、食欲を感じる。



「アイルイン姉者!! こいつら食べていい!?」


「ダメだよ〜。ここにいる人たちは食べ物じゃないから~。それより初対面の人にはしっかり自己紹介しなきゃだゾ~」


「ぎゃはは!! そうだった!! 自己紹介してなかった!! 私、トーカ!! 好きなものは美味しいもの!! 嫌いなものはない!! アイルイン姉者!! 自己紹介できたから褒めて!!」


「偉い偉い~」



 第六皇女の名前はトーカと言うらしい。


 アイルインに懐く姿は可愛いし、おっぱいが大きくてそそられるものはあるが、どうも恐怖が勝ってしまう。


 それは俺以外の船に乗る者たちも例外ではないようで、トーカから距離を取っていた。



「んでトーカ。こんなとこで何やってたの~?」


「お昼ご飯を食べてた!! あの海蛇は肉が固かったけどちょうどいい歯応えだったぞ!! 姉者も食べるか!?」


「あれは海蛇じゃなくてリヴァイアサンだよ~。でもま、食糧が足りるか不安だったし、一部持っていこうか」


「じゃあトーカが切り分ける!!」



 そう言ってトーカは甲板から飛び下り、リヴァイアサンの身体を解体し始めた。


 ざっくばらんとでも言うべきか。


 トーカの腕がトゲの生えた触手に変形し、リヴァイアサンを切り刻む。


 一応言っておくが、リヴァイアサンの鱗はワイバーンの鱗よりもずっと固い。

 普通の魔法は通用しないし、ちょっとやそっとでどうこうなるものではない。


 なのに、何あの腕は!?



「びっくりっしょ~」


「え? あ、う、うん。……トーカは何者なんだ? なんというか、えーと」


「怖い?」


「……あんまり言いたくないけど、うん」



 トーカから異質な何かを感じる。


 言葉では言い表せないが、存在そのものがよくないもののような……。



「トーカはね、オリジンキメラっていう、言わば人工的に作られたママのコピーなの」


「……え? アルカリオンの?」


「そ。ママの六人目の旦那、っていうか女だから嫁なのかな。が、頭のネジが緩いマッド野郎でさ~。ママの生物情報を元に錬金術で作ったの」



 生物情報って、遺伝子のことか? いや、待て。それよりも気になる情報が!!



「アルカリオンに嫁、だって!?」


「あれ? 言ってなかったっけ? ママの六人目の旦那は嫁だよ~」



 待て待て。


 流石の俺でも情報が追いつかないぞ。アルカリオン、女もイケるのか……。


 妻の意外な一面を知ったな。



「で、話を戻すけど、人工的に作られたあの子は根本的にはママと同一の存在なの。でもそのせいで、生命を維持するために膨大なエネルギーを要する」



 アイルインの説明は難しかった。


 アルカリオン、というか純粋な竜の心臓には一回の鼓動で街一つを賄うエネルギーを生み出す力があるらしい。


 トーカにはその心臓が無い。


 しかし、身体はアルカリオンとほぼ同じで活動に絶大なエネルギーを要する。



「だからこそ、トーカを作ったイカレ女はトーカに食べたあらゆるものをエネルギーに変換し、その副次的効果として生物情報を吸収できる能力を与えた」


「……分かりやすく言うと?」


「食った相手の能力を吸収、食べれば食べるほど強くなる」



 何それチートじゃん!!



「だからまあ、気を付けてね?」


「え?」


「多分だけど、君の力のことがトーカにバレたら食べられるよ。物理的に~」


「……まじ?」



 俺の力、つまりは『完全再生』のことだろう。


 デカ乳女神様からもらったチート能力も吸収できるのか!?



「わ、分かった。気を付ける」



 とまあ、しばらくはトーカを警戒して過ごすことにしたわけだが。


 その日の夜。



「おい、お前」


「んぅ……」


「……おい、起きろ」



 船室のベッドで眠っていると、お腹の上に重みを感じた。

 そして、身体を揺すられて瞼を開いたらトーカの顔がすぐ目の前にあった。


 ついでに言うなら、その小さな身体とは不釣り合いな爆乳の柔らかさが伝わってくる。



「……あ、あの、これはどういう……?」


「お前、凄い力持ってるらしいな!! 今からお前を食う!!」


「!?」


「抵抗したら手足を折る。大丈夫だ、お前はトーカの中で生き続けるからな!!」



 ひぇ!? ちょ、ええ!?



「い、一旦落ち着こう。俺が凄い力を持ってるって誰から聞いたんだ?」


「お前と似たような匂いがする女からだ!!」


「え、誰!? そんな人いるの!?」


「いる。お前と一緒にいた銀髪の女だ。メイド服を着てた」


「……もしかしてヘクのことか?」



 俺とヘクが似たような匂い……。


 いや、まさか。でもその可能性は否定できる材料はない。



「もしかしてヘクは、俺の妹だったりするのか!?」



 俺に兄弟はヘクトンしかいない。


 しかし、冷静に考えてみたら王族の子供が二人だけというのはおかしな話だ。


 可能性として有り得るのは前アガーラム王、つまりは俺の父が残した隠し子という線!!

 もしそうだったら愛刀が反応しなかった理由にも納得が行く!!


 なんせ兄妹だからな!!


 でももしそうなら、ヘクが俺の命を狙った理由がいまいち分からない。


 今だってヘクがトーカに俺の力を話したからこうなっているのだ。

 もしかしてヘクは、誰かに騙されているのだろうか?


 分からん。分からんが、考えるのは後だ!! 今はこの状況をどうにかせねば!!



「お、落ち着こう!! 俺を食べるのはやめてもらえないかな!?」


「お前は目の前に食べたことのないものがあって食べたいとは思わないのか?」


「思わない!!」


「食わず嫌いはよくないぞ。まずはトーカのように食ってみるといい!!」



 そう言って大きな口を開けるトーカ。



「ま、待った!! 食べるのは待った!! 血!! 血とか飲ませるから!!」


「血ぃ? 足りない!! もっと生命に満ちた部位がいい!! 心臓か脳か!! ああ、栄養のある肝臓でもいいぞ!!」


「どれも嫌だ!!」



 どうする? どうしたらこの状況を切り抜けられる?


 せめて食われても文句のない、生命に満ちた部位を差し出さないと。できるだけ痛みがない場所を――



「……」


「おい、抵抗をやめたということは食っていいということだな!?」


「生命に満ちる、か。ここならどうだ?」



 俺の愛刀は大きくなっていた。


 だって仕方ないじゃん。爆乳がずっしりと伸しかかってきたら男はこうなるのよ。


 いや、それよりも。


 愛刀には億単位で生命が詰まっている。サキュバスたちとの激戦で鍛えられたこともあり、俺の愛刀は生命力を無尽蔵に生み出せる。


 これなら、きっと!!


 俺は物理的に食われるのを避けるため、性的に食われにいくのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「猟奇的爆乳美少女に爪先から少しずつ食べられたい」


レ「お前が一番猟奇的」



「アルカリオンが女でもイケると判明した」「何故ヘクに関しては鈍感なんだ」「作者が一番猟奇的」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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