第56話 捨てられ王子、リヴァイアサンの登場より驚く






 船作りに勤しむこと一ヶ月半。


 アラクネ、ラミア、ダークエルフ、サキュバスの四種族が揃ったことで大型船は信じられない速度で完成した。


 特に凄いのはアラクネだ。


 アラクネ一人で普通の人間の成人男性十数人に匹敵する怪力を有していた。


 下半身の蜘蛛から出る糸は滑車を用いて人力クレーンを作り、地球の常識ではあり得ないような速度で船を建造することができた。


 そして、ついに出港の日がやってきた。



「よーし、野郎ども〜!! こんな荒れた大地とはおさらばだ~!!」


「「「「「わあああああああああああああああああああああああああっ!!!!」」」」」


「出港~!!」



 どういうわけかアイルインがキャプテンを務めることになり、俺は取り巻きAに就任。


 取り巻きAって何だよ、Bもいるのか?


 と思ったら、どうやらヘクが取り巻きBに就任したらしい。


 副キャプテンにはラミアの女王ミカエラが就いて、船の整備はダークエルフの皆さん、乗組員はアラクネとラミア、サキュバスになった。


 そう、この大陸でお世話になった人たちが揃いも揃って船に乗っているのだ。

 その他にも何種族か混じっているが、大体はその四種族。


 船を作る提案をした際、アイルインは希望者を連れて行くと宣言したらしい。


 この大陸は過酷だ。


 ほぼすべての者がアルカリオンたちが今いる大陸への移住を希望した結果、大型船による数百人規模で移動することになったのだ。


 さて、ここでまた新たな問題が一つ。



「おえっ、おろろろろ」


「……お、おい、お前、吐くのをやめろ、僕も気持ち悪く――おろろろろ」



 俺は船酔いが酷かったらしい。


 吐き気が止まらない。頭がガンガンして歩くことすらままならない。


 そして、俺の隣ではヘクがもらいゲロしていた。



「んぐっ、ぷはあっ!! あーあー、持ってきたお酒飲み干しちゃったな~」



 甲板の真ん中でアイルインが酒を樽ごと呷り、中身を空にしてしまう。


 でもまあ、特に何も言うまい。


 この船を動かせているのは他ならぬアイルインのお陰なのだから。


 完成した船は魔力で動く動力船だ。


 船員の有する魔力を自動的に吸い上げて推進力に変えている。


 しかし、船員全員の魔力を吸い上げても鉄の塊であるこの船を動かすに至る推進力は得られないのが現実だ。


 ダークエルフの皆さん、ノリと勢いで作ったせいで燃費というものを考慮しなかったらしい。


 そこでアイルインが「じゃあ私が燃料役になるから船長やりた~い」と言い始めたことで解決したのだ。


 アイルインの魔力は凄まじい量だ。


 そのため、アイルインから魔力をかなり多めに吸い上げるようダークエルフたちが改良した。


 お陰で船を動かすだけの推進力を得て海上を進むようになったため、多少のアルコールを摂取しても許そうという気になる。



「はあ、問題はリヴァイアサンの襲撃だよなあ」



 船上では魔法を使えなくなる等のデメリットはあるが、船首には魔力の矢を放つ超大型バリスタが取り付けられている。


 これはリヴァイアサン対策とのこと。


 リヴァイアサンは幼体で全長数百メートルはある文字通りの怪物らしい。


 大事なことなのでもう一度言う。


 幼体で、全長数百メートルもあるのだ。成体だとキロに及ぶこともあるとかないとか。


 アイルイン情報によると、リヴァイアサンは下手したら人間よりも知能が高く、武装している船を襲うことはあまりないらしい。


 あくまでも『あまりない』なので襲われてしまった時は神に祈るしかないそうだ。


 ちょっと嫌すぎる。


 神様仏様、俺をこの世界に転生させたデカ乳女神様。

 どうかこの船旅でリヴァイアサンにだけは遭遇しませんように!!


 と、俺の必死な祈りは通じなかったらしい。



「「「「「「「!?」」」」」」」



 皆が一斉に目を見開いた。


 信じられないほど大きな生き物の影が海の中から這い出てきて水上に姿を現したのだ。


 俺を含めた船員たちは驚愕し、死を覚悟する。しかし、諦めるのは早い。


 俺はここ一ヶ月、船造りに邁進していた。


 ずっとずっと船が造られていく様を間近で観察していたのだ。

 ダークエルフらの書いた設計図もあり、船の構造はしっかり理解している。


 つまり、船が壊れても完全に転覆したりしない限りは大破しようとも『完全再生』で直すことができる。


 それを事前に知らせたこともあってか、パニックになる船員は少なかった。


 サキやヘクは涙目になって失神してしまうが、ミカエラやクウラは部下たちに指示を飛ばして超大型バリスタに人員を配置。


 戦闘準備が整った。



「アイルイン!! いつでもバリスタ撃てるって!!」


「あー、必要ないかな~」



 と、そこでアイルインがおかしなことを言い始めた。

 目の前にリヴァイアサンがいるにも関わらず、応戦する必要が無いと言う。


 まさかアルコールを摂取して半ば無敵の人状態のアイルインがリヴァイアサンに尻込みしてしまったのか。


 そう思っていたら、彼女はリヴァイアサンの身体を指差して言った。



「あそこ、見てごらん」


「え? ――ええ!? リヴァイアサンの脳天が抉れてる!?」


「多分『何か』に頭を食べられて、必死で海の中まで逃げたけど、力尽きちゃったんだろうね」


「リ、リヴァイアサンを食べる『何か』って何だよ」


「さあ? でもあの噛み痕、どっかで見たことあるような……」



 アイルインが首を捻っていた、その時だった。


 海中からリヴァイアサンの影を追うように小さな『何か』が海中から飛び出してきた。


 美しい少女だった。


 年齢は十三、四歳くらいと少し幼いが、太陽のように光り輝く橙色の髪と瞳孔が開ききって知性を感じさせない黄金の瞳。


 まるで野生の獣のような雰囲気をまとわせるその少女に誰もが目を見開いた。


 何より驚いたのは――


――ぶるん!!


 その小さな身体には不釣り合いなほど大きなおっぱいである。


 で、でっか!!


 あの身体でローズマリー級の爆乳とかどういう発育してんだ!?



「ぎゃははははは!! 死んだ!! ようやく死んだか!! 頭を食べても動いた時は焦ったな!!」



 リヴァイアサンの骸を踏みつけながら、下品な笑い声を上げる少女。


 その少女の異質さに息を飲む。


 状況から察するに、リヴァイアサンを襲って食ったのは彼女なのだろう。


 もし仮に、リヴァイアサンを殺せるほどの力を持った少女がこちらに殺意や敵意を向けてきたらどうなるか……。


 嫌な想像をして背筋が冷たくなる。



「アイルイン、い、急いでここから離れよう!!」


「あ、それも必要ないよ~」


「え?」


「おーい!!」



 アイルインは何を思ってか、大きく腕を振って少女に存在をアピールし始めた。


 全員がギョッとする。



「な、何やってんの、アイルイン!?」


「ダイジョブダイジョブ~、お姉さんに任せて~」


「ちょ!?」



 と、そこで少女がこちらに気づいた。


 少女はこちらに目を凝らし、アイルインを見るとぱあっと明るい表情を浮かべる。



「アイルイン姉者だー!! こんなところで何してんだー?」


「「「「「「え?」」」」」」


「あれ、うちの妹~。ちなみに六女ね~。どうどう? かわいいでしょ~」


「「「「「「ええ!?」」」」」」



 リヴァイアサンの登場よりびっくりした。





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「肉食系(物理)女子が好き」


レ「分か……る」



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