第55話 捨てられ王子、愛刀が反応しない
「……」
「……えっと」
「……」
アイルインがアラクネとダークエルフを説得し、船を作るための下地を作った。
それはとても喜ばしいことなのだが……。
俺はおそらく、過去一番の苦境に陥ってしまっている。
その原因は無言で俺を見つめてくる美女にある。
「ね、ねぇ、アイルイン。こちらの女性は……」
「ん~? あー、その子はアラクネのボス。名前はたしか、えーと、ク、クー、クーなんとかちゃん」
「クウラ」
「あ、そうそう。クウラちゃんだ~」
「アラクネって……」
俺はその女性の身体を爪先から頭までまじまじと見つめてしまう。
恐ろしく整った人形のような顔立ちの美しい女だった。
長い銀髪と半分しか開かれていない真紅色の眼。
その身体はボンキュッボンで、おっぱいがめちゃくちゃデカイ。
腰はキュッと細く締まっており、太ももも程よい肉付きでお尻も大きく、脚はしゅっと引き締まっていて長い。
そう、脚があるのだ。
他のアラクネはイメージ通りの女性の上半身と蜘蛛の下半身というアラクネ然とした容姿なのに、クウラのみが人間とあまり変わらない。
「あんまり蜘蛛要素無い、ですね」
「そんなことないよ~。目だって八つあるし」
「え? いや、どう見ても二つじゃないですか。お酒の飲み過ぎで視力おかしくなりました?」
「え~? レイシェル君ったらひどーい。お姉さんのことただの酔っぱらいだと思ってんの〜? こうなったらクウラちゃん、見せてあげて~!!」
そう言うと、クウラが目を開いた。
人間と同じ位置にある目ではなく、その周りにあった線のようなものがカッと見開かれたのだ。
うわ、目が八つもある!?
「……気持ち悪い?」
「え?」
「……私たちアラクネは、昔から只人に嫌われている」
「あー、いや、気持ち悪いというより、初めて見たからビビってる感じ」
「……そう」
包み隠さずに言うと、クウラは目を八つある目のうち六つを閉じてスタスタとどこかに行ってしまった。
「あ……怒らせちゃったかな」
「んー。いや、多分大丈夫だと思うよ。彼女、あれでママと気が合いそうなくらいには愉快な性格してるから。それよりも――」
「あ、ああ、凄いよな。ダークエルフって」
アイルインが砂浜に目を向ける。
そこには五分の一くらい、船底を造っていると分かる程度には建造が進んだ船があった。
しかし、それだけじゃない。
俺はダークエルフの有する技術に背筋が冷たくなるような寒いものを覚えた。
「ダークエルフ、まさか金属で造船するとは」
そう。
ダークエルフたちの造る船は木造ではなく、金属製の近代的な船だった。
自然と見た目が戦艦っぽくなっている。
「……まだこの大陸をアルカリオンが治めてた頃は、今より文明が発展してたのかなあ」
無事にアルカリオンと再会できたら、ちょっとその時の話を聞いてみよう。
と思ったのだが、アイルインは少し困ったように笑って言った。
「んー、それはやめて欲しいかな」
「……俺の考えてること読まないでくれるか?」
「視えちゃったもんは仕方ないでしょ~」
「で、なんでダメなんだ?」
酒を飲んでいるにも関わらず、アイルインの言葉は真剣だ。
本気でこの大陸の話をアルカリオンにするのはやめて欲しいと思っているようだった。
「ここってさ、ママにとっては楽しい思い出だけじゃない場所なんだ」
「……あっ、そっか」
この大陸でアルカリオンは伴侶を失った。
きっと俺がアルカリオンと出会う数百年前に夫だった人物だろう。
それも不慮の事故ではない。
何者かの暗殺だったとラミアのお姉さんたちが言っていた。
「わ、分かった。やめておく」
「……ありがと。さーて、じゃあお姉さんは働き者な皆にお酒を振る舞ってくるね〜!! ご褒美は大切だし~!!」
そう言ってルンルンと走り去るアイルイン。
と、アイルインと入れ違いになるタイミングでヘクがやってきた。
俺は大きく手を振って声をかける。
「あ、おーい!! ヘクー!!」
「ゲッ」
すると、ヘクは俺の顔を見てあからさまに顔をしかめて睨み返してきた。
流石にその反応は傷つくが……。
ヘクの格好は浜辺だからか、いつものメイド服とは少し違っていた。
やたらと露出度の高いマイクロビキニメイド服である。
俺はヘクをまじまじと見つめる。
「な、何見てんだよ!!」
「……いや、エロいと思って」
「っ、き、きもいこと言うな!!」
エロい。たしかにエロいのだ。
でも何故か、愛刀がちっとも反応しない。
理性ではヘクとエロいことをしたがっているのに本能が拒否している。
生理的に受け付けない、とはこういう状態のことを言うのだろうか。
下半身が蜘蛛のアラクネですら上半身のおっぱいを見たら反応した我が愛刀が、欠片も動きを見せないのである。
これには流石の俺も驚愕してしまう。
「で、何か用だったか?」
「……お前も見てないで手伝え!!」
そう言って隠し持っていたハンマーを投げ渡してきた。
危なっ。
当たってもすぐに『完全再生』で治せるが、痛いものは痛いからな。
ギリギリで躱せてよかったぜ。
◆
深い海の底。
それは荒れ狂う海を体現したかのような生物であり、海において勝る生物はいない。
海上最強の竜、リヴァイアサン。
知能は並みの人間よりも遥かに高く、深海は自分にとって敵の攻撃が及ばない絶対有利な場所だと理解している。
その、はずだったのに。
「キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
リヴァイアサンは海の上に打ち上げられ、宙で苦悶していた。
何が起こったのか分からない。
ただ海の支配者である自分がたった一体の敵に、それも恐ろしく小さな敵に追い詰められていることだけは分かっていた。
その敵は人に近しい形をしていた。
しかし、手足に頑強な鱗をまとっており、太陽のような橙色の髪が特徴的だった。
更に言うなら竜の翼を生やし、宙に浮いている。
この人の形をした怪物は、安全領域である深海にばた足で侵入し、リヴァイアサンを海上まで投げ飛ばした。
それだけで目の前の人間が自分以上の怪物であると分からせられてしまう。
精一杯の威嚇も、その怪物には無意味だった。
「お前、うるさいぞ」
「キュア!?」
頭を掴まれ、小島くらいはあろうかという巨大な身体を何度も海面に叩きつけられる。
「ぎゃははは!! お前、本当にリヴァイアサンか? 弱っちくて朝ご飯にもならないぞ!! でもまあ、食ったら少しは強くなりそうだ。安心しろ。肉だけじゃない、血も骨も全てワタシの糧にしてやる!! ぎゃはははは!!」
「キュア……」
リヴァイアサンは理解してしまう。
自分に待っている未来が避けようのない破滅であることを。
賢いが故に、悟ってしまうのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「水着メイド服は最強説を推したい」
レ「分かる」
作者「時間のある方は新作『S級ギルドを辞めたら俺をクビに追いやった爆乳美女たちが土下座で謝罪してきた件』も是非ご覧ください」
「アルカリオン並みに愉快……」「最後の誰やろか」「水着メイド服は最強装備やで」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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