第54話 捨てられ王子、サキュバスたちを負かす





 時を遡ることしばらく。


 俺はサキュバスたちの食料として喰われる毎日を過ごしていた。


 正直、怖かったです。


 だって揃いも揃って俺を『男』ではなく『餌』として見てくるのだ。

 恐怖を感じながらも反応してしまう我が愛刀が恨めしい。


 しかし、ある日の出来事。



「ねぇねぇ? 貴方、凄いのね?」


「え?」



 旧魔王領にある城跡地の地下の牢屋に入れられていた俺に話しかけてくるサキュバスがいた。


 ピンク色の髪と青い瞳の幼い少女だ。


 サキュバスの特徴である露出過多な衣装を着ているが、その目は俺を食料ではなく、一人の人間として見ているようだった。



「えーと、君は?」


「私はサキ。こう見えてもサキュバスの女王なの」


「……女王?」


「ええ!! サキュバスの中で一番偉いんだから!!」



 たしかに可愛らしいが、アルカリオンのような存在感は感じない。

 アイルインにお酒を飲まされてダウンしていたラミアの女王、ミカエラの方がまだ威厳がある。



「そのサキュバスの女王が、俺に何の用かな?」


「搾っても搾っても死なない男が手に入ったって聞いて会いに来たの。そういう男は女王の番、専用の食料になるのよ!! 今日は貴方と顔合わせに来たのよ」


「あー、サキュバスにとっての番ってそういうものなのか……」



 俺がいまいち状況を飲み込めないでいると、サキは牢屋の鍵を開けて中に入ってきた。



「ねぇ、私と一つ契約しない?」


「契約?」


「そ。実は私、サキュバスの女王だけどちっとも周りが従ってくれないの」


「ふむ?」



 話を聞いたところによると、サキは母親である先代のサキュバスクィーンからその地位を受け継いだ、いわば七光りの女王。


 そのせいか、彼女に従うサキュバスは少ないのだとか。


 例の男性ダークエルフ誘拐もサキの命令を無視して一部のサキュバスたちが腹を空かせて暴走した結果らしい。



「だからね、私が改めて皆から女王様として認められるために貴方の力を貸してほしいの。もし協力してくれるなら、貴方を解放するわ」


「……俺は何をすればいい?」



 せっかく向こうから自由の身になるチャンスがやってきたのだ。

 これを断る理由はない、そう思って俺はサキの提案に頷いた。



「簡単よ。今から貴方を解き放つから、片っ端からサキュバスを抱いてチン負けさせるのよ!!」


「チン……うん、え? 何故に?」


「貴方は知らないでしょうけど、サキュバスにとって男は餌。その餌に負けることは、自分がそれ以下であることの証明になるの」


「ふむ? あー、なるほど。何となくどうしたいか分かった。サキュバスたちを負かした後、俺はわざとサキに負ければいいんだな?」


「そうよ!!」



 要は八百長に付き合え、と。


 まあ、俺にとっては悪いことではないが、その作戦には少し問題がある。



「俺、サキュバスを相手にそこまで善戦できないぞ」



 サキュバスは一人一人が絶倫だ。


 食欲がそのまま性欲に直結しているせいか、一日に三回は俺のところに来る。


 間食やデザート感覚で俺を食べに来るサキュバスも少なくないため、多い時は十回も来る時もしばしばある。


 そのせいで、俺はほぼ二十四時間誰かに搾られているのだ。

 とてもではないが、誰も彼も俺一人でどうにかなる相手ではない。



「心配無用!! ここに特別なお香を用意したの!!」


「お香?」


「気になったことはないかしら? サキュバスは男を『餌』として食べるわ。なら、いつ『男』と交わって繁殖していると思う?」



 ……知らない。


 たしかにここしばらく、俺は喰われっぱなしで考えていなかったが、不思議な話だ。



「その答えがこのお香なの!! これを嗅いだサキュバスは『食事』ではなく『繁殖』を優先するようになるの!!」


「な、なるほど?」


「ちなみにこのお香には絶大な媚薬効果があって、男の人が嗅ぐとサキュバスを相手にしても負けないくらい絶倫になるんだから!!」



 何それ凄い。


 でもそれなら、元々回復の早い俺自身の愛刀と相まってサキュバスを相手取れるかも知れない。


 今まで散々やられてきた分、やり返そう。


 そう思ってサキがお香を焚き始めるのを見守っていたのだが……。


 サキが思い出したように言った。



「あ、このお香って嗅ぐと著しく理性が弱くなるから気を付けてね」


「え? ちょ!!」



 それだけ言い残して地下牢から去っていくサキ。


 後から遅れてやってきたサキュバスたちはお香の匂いを嗅いだ瞬間、様子が変わった。

 いつもの『餌』を見る目ではなく、『男』を見る目だった。


 その効果は絶大で、来るサキュバス全員を余裕で返り討ちにしてしまった程だ。


 そうこうしているうちにサキがやってきた。



「ふっふーん!! よくも私の配下たちを好き放題してくれたわね!! 私が皆に変わって成敗して――」


「ふぅ!! ふぅ!!」


「……あ、あれ? お香、効きすぎてる? ちょ、待って、一旦落ち着いて――」



 理性を失っていた俺は、うっかりサキすらも負かしてしまったのだ。


 我ながらやらかしてしまったと思う。



「レイシェル様ぁ♡」


「私たちをまとめて相手してもまだ大きく……♡」


「素敵♡」



 俺が正気に戻った頃にはサキも含めたサキュバスたちが力尽き、皆が平伏していた。


 まるで俺を神のように崇めるのだ。


 正直、言葉では言い表せない全能感と優越感が癖になりそうだった。


 そうこうして更に一ヶ月が経った頃、ようやくアイルインが迎えにやってきたのであった。


 納得できない、というか腹立たしいのが……。



「イェーイ!! お姉さんがダークエルフやアラクネと話を付けてきたからもう大丈夫〜!! さっさと船作ってお家に帰ろ~!!」



 酔っぱらいのくせに気が立っていたはずのダークエルフを諌め、全く関係のないアラクネを交渉に巻き込んでいたことだろう。


 ダークエルフの技術とアラクネのマンパワー。


 その二つが揃うだけでも船作りはぐっと楽になるに違いない。


 アイルインって酒を抜いた状態で働かせたらガチの有能なんじゃないだろうか。

 いや、今回に到ってはアルコールを抜いてすらいないのにこの働きよう……。


 もしかしてアイルインって、やる気がないだけでめちゃくちゃ有能なのでは?







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「ただアイルインが有能な話でした」


レ「最近エロいことしかしてない気が……」



「サキちゃん負けてて可愛い」「アイルイン有能やん」「レイシェル、それがお前の特技だろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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