第53話 Sideローズマリー②
「イェローナ姉上、これは一体……?」
「いやあ、敵の武器が初めて見るものでしてな。思わず興が乗りに乗って作ってしまいましたぞ」
ローズマリーの目の前にはワイバーンよりも大きな金属の筒があった。
それは敵から鹵獲した武器――銃を大きくしたようなもので、異様な存在感を放っている。
「敵の使う武器……。捕虜にした敵兵曰く、『銃』でしたかな? 某はそれを見て思ったのですぞ」
「な、何をです?」
「――これ、でっかくしたら強いのでは? と」
そこでイェローナは大量の鉄を使い、巨大な銃を作った。
地球人が見たなら、それを大砲と言うだろう。
大型戦艦の主砲クラスの口径で、相応の知識を有する人物が見たらその大砲が絶大な威力を有すると分かるに違いない。
実際、試し撃ちでは帝都の壁と同じ強度の的をたった一撃で粉砕してしまった。
詰める砲弾によっては魔法的な防御すら突破できるかも知れないとのこと。
しかし、問題もあったのだ。
「これ、重すぎて動かせないのですぞ。某含めたドワーフ数十名を動員しても動かせず、弾すらドワーフ数人がかりで運ぶ必要がありますな。その代わり、威力は保証しますぞ!!」
「……ふむ。ならば、帝都に設置して防衛に利用する方が有用か」
ローズマリーはすぐに大砲の使い道を考え、防衛に組み込もうとする。
持ち運べない以上、その場に固定して使う方が良いのは道理だ。
しかし、イェローナが一言。
「というわけで、自由に動かせるように改良したものがありますぞ」
「あるのですか!?」
「ないとは言ってないですぞ。ほらほら、ローズマリー。さっさと駅に行くのですぞ」
「駅?」
ローズマリーは首を傾げながら、イェローナに腕を引かれるまま帝都中央部にある駅までやってきた。
そこにあったものを見て、ローズマリーは目を剥いてしまう。
「こ、これは……」
「名付けて魔導列車砲『ドンちゃん二世』ですぞ!!」
「……凄まじいですね」
それは全長五十メートルはあるであろう巨大な列車だった。
その列車の上に『ドンちゃん二世』を載せた、大型の魔導列車である。
「一応、敵を狙いやすいように砲塔を回転式にしましたぞ。ただまあ、車体と垂直方向に撃つと一発で脱線&車体が転倒するので絶対にやっちゃダメですな。撃つなら車体と水平方向、つまりは線路と同じ向きに撃つよう頼みますぞ」
「な、なるほど。他に注意する点はありますか?」
「……注意というか何というか、これは敵の拠点や陣地、重要施設を一撃で破壊するための兵器ですからな。あまり人には向けないでほしいですぞ」
「そう、ですか」
ローズマリーはイェローナに申し訳なく思う。
イェローナにとって、魔導具は兵器であっても子供同然だ。
子供が人を殺して喜ぶ親はいない。
ローズマリーは『ドンちゃん二世』を使って必要以上に人を殺さないようにしようと心の中で誓うのであった。
「ああ、それと威力は保証しますぞ。なんせ真竜形態の母様の鱗に傷を付けましたからな」
「!? ほ、本当ですか? それは凄いですね」
「『一万発撃たれたら私でも危ないですね』と言ってましたな。まあ、馬鹿みたいに鉄を使う弾を一万発も用意するより、銃を量産した方が戦争ではよさそうですがな。あ、それともう一つローズマリーに見せたいものがありますぞ」
そう言ってローズマリーを伴い、今度はワイバーン用の滑走路までやってきたイェローナ。
そこでローズマリーは再び驚かされる。
「ワイバーン用の装備、ですか?」
「ですぞ。火炎放射は敵に接近しすぎて危険と聞きましたからな。魔鉱等を使って軽く頑丈な素材で作りましたぞ」
「また凄まじいものを……」
それは、ワイバーンのための鎧だった。
きっとこれを装備したらワイバーンは機械のような見た目になるだろう。
ローズマリーが更に注目したのは、その両翼部分である。
「おや、早速気付いたようですな」
「両翼に小型の銃、それと腹の部分に大型の銃ですか」
「ですぞ。鞍そのものを改造し、給弾装置を取り付けたのですぞ。竜騎士が引き金を引けば撃てますぞ」
イェローナ曰く、ワイバーンから魔力を得て飛膜を守る防御魔法を展開する機能もあるらしい。
両翼部の小型機関銃は人体であれば容易く貫通するが、ワイバーンは常に翼をはためかせて飛行するため、命中率は悪い。
対する胴体部の大型機関銃は安定しており、命中率が高く、威力も非常に高い。
ローズマリーは唸った。
「……なるほど。竜騎士の戦術を根本から変える必要がありそうですね」
戦術が変わってしまう。
それは急激な銃器の発展の証明であり、今後の戦略が銃を中心としたものになるということだ。
いつだったか、レイシェルはこの世界には魔法という高威力の武器がある以上、銃が発展する余地はないと考えていた。
それは大きな間違いだった。
たしかに火縄銃やマスケット銃など、原始的な銃なら魔法に軍杯が上がる。
しかし、こと機関銃並みの連射力と威力を有する銃器であれば、魔法の存在など軽く凌駕してしまう。
人を一人殺すのに鉛の玉は一発で事足りる。
魔法のように詠唱する必要もなく、引き金を引くだけで敵を殺せる。
更に言うなら、魔力と相応の知識を要する魔法とは違い、手に持てばわずかな訓練で扱えるようになるのだ。
ローズマリーは嫌な予感がした。
「……戦争が終わり次第、敵の銃器は全て鹵獲して破壊せねば」
銃は危険な兵器。
これ以上の発展をすれば、そう遠くない未来で悲劇が起こると想像するのは容易い。
アガードラムーンに悪意を持つ侵略者を撃退した後は、銃は一丁残らず処分しようとローズマリーは考えた。
「ローズマリー、イェローナ」
と、ちょうどそのタイミングでどこからかアルカリオンが姿を現した。
ローズマリーは急に出現した母に驚く。
「む、母上!?」
「か、母様……」
「イェローナ」
「何度も言っておりますが、お断りですぞ」
「……そうですか」
イェローナが何かを断り、アルカリオンは無表情ながらもしょんぼりした様子でまたどこかに去ってしまう。
一連のやり取りの意味が分からず困惑したローズマリーは、イェローナに聞くことにした。
「何だったのです、今のは?」
「母様、ワイバーン用の装備を見て自分用のものを欲しいと言い始めたのですぞ」
「自分用の? ま、まさか……」
「ですぞ。真竜形態でも使える武装を欲しいとか言ってきたのですぞ。さっき紹介した『ドンちゃん二世』並みの砲を背中に担いでみたいとか」
ローズマリーは想像してゾッとした。
それはつまり、敵の拠点を一撃で粉砕する大型兵器を魔導列車砲のような線路による移動制限なく使えるということ。
ローズマリーの顔が引きつる。
「は、母上はまた世界征服でもするつもりなのか?」
「いや、ただカッコイイから欲しがってたみたいですな。鉄の無駄遣いなのでお断りしましたぞ」
カッコイイからでとんでも兵器を欲しがるアルカリオン。
母上らしい、とローズマリーは思った。
一方その頃、アイルインによってサキュバスに売られてしまったレイシェルはというと――
「はあ、はあ、はあ」
彼の前には無数のサキュバスたちが倒れていた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「作者は列車砲とかメカメカしいドラゴンとか好き」
レ「男のロマンだよね」
「列車砲キタ!!」「しょんぼりアルカリオン好き」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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