第52話 捨てられ王子、売られる
サキュバス。
それは男の精を糧とし、吸い殺してしまう恐ろしい怪物。
見た目は絶世の美女であり、大半の男は絆されて命を捧げてしまう。
そのサキュバスに男である俺を売りに行くというアイルイン。
まさに鬼畜の所業。酷いなんてもんじゃない。
そりゃあ俺だって健全な男ですし、サキュバスに死ぬまで搾り取られたいという願望は少なからずある。
しかし、俺にはローズマリーやアルカリオンのような大切な女がいるのだ。
本当に死ぬわけにはいかない。
アイルインがどういう考えでサキュバスたちに俺を売りに行くのかは分からないが、無策というわけではないだろう。
ただ、今のアルコールを摂取してる状態のアイルインが信用ならないだけである。
こいつはワイバーンの背中から俺を突き落とし、パラシュートなしのスカイダイビングを経験させた張本人。
最初から信じてはならなかった。
アルコールを摂取してない状態のアイルインと話して油断していたのだ。
「なんで僕まで……ぶつぶつ……」
なお、ラミアの集落で隔離されていたヘクも一緒だ。
ヘクが近くにいなかったらアルカリオンが俺を感知できるようになってしまうからな。
ヘクを連れて行かないという選択肢は無い。
とまあ、そんなこんなで北にあるサキュバスたちの活動領域、旧魔王領にまでやってきた。
「やあやあ、サキュバスの皆さ~ん。ちょっとお姉さんと商談しませんか~?」
ダークエルフの男たちを拐ったというサキュバスがいる北の旧魔王領に来るや否や、アイルインは大きな声でそう言った。
旧魔王領は廃墟だった。
今は古びているが、かつてはそれなりに栄えていたのだと思われる。
アイルインの呼びかけに応えるように、サキュバスたちが廃墟の奥から姿を現した。
めちゃくちゃエッチな格好をしている。
マイクロビキニのような布面積が小さい、もう服と言って良いのか分からない服を着ていた。
ただ露出度が高いのではなく、長手袋やニーソックス等など、ところどころを隠すことで逆にエロい格好だ。
思わず二度見してしまった。
しかし、どうもサキュバスたちは商談のために出てきたという雰囲気ではない。
「ふーん? 顔の良い男じゃん。ちょっとそこのアンタ、そいつ置いて行きなさいよ」
「んー、じゃあダークエルフ全員と交換で」
「はあ? なんでアンタと家畜共を交換しなきゃいけないのよ?」
家畜って、ダークエルフのことか?
ていうかアイルイン、俺とダークエルフを交換するつもりだったのか。
「まあまあ、そう言わずに~」
アイルインが交渉に入る。
酔っぱらっていてもなまじ優秀なのか、交渉は成立した。
俺はサキュバスたちに引き渡され、ダークエルフの男たちが返還されることになる。
それから一ヶ月ほど、俺は旧魔王領で放置され、サキュバスたちに搾り取られる毎日を送る羽目に。
死ぬ寸前まで搾り取られるけど、どういうわけか俺は死ななかった。
もしかして『完全再生』が作用してるのだろうか。理由は分からない。
俺がいくら搾っても死なないからか、すっかりサキュバスたちに気に入られ、毎日骨と皮になるまで食べられるのであった。
最初は俺も楽しかったよ?
でもなんというか、サキュバスたちの俺を見る目が少し違うのだ。
俺を『男』ではなく、『食料』として見ているのが分かる。
やたらとギラギラした食欲旺盛な目で見てくるから、ちょっと怖かった。
ああ、ローズマリーとアルカリオンに会いたい。
二人の大きなおっぱいに甘えながら、イチャラブして過ごしたい。
二人は今頃、何をしているのだろうか……。
◆
ローズマリーは焦っていた。
アガードラムーン連邦は今や崩壊し、各地の貴族たちが反乱に反乱を繰り返す。
それはまさに戦乱の世。
国の実質的な統治者であるアルカリオンの首を取ろうと首都にまで賊軍が迫ってくる始末。
流石にローズマリー率いる竜騎士団が守る首都を突破する賊軍は今のところいないが、次々と領地が独立を宣言しているのは事実。
このままでは大陸に百を越える国が乱立し、混沌を極めるだろう。
それなのに、だと言うのに……。
「チェックメイトです」
「あらぁ、また負けちゃった。お母様、もう少し手加減してください」
「娘であれ、勝負事で贔屓しないのが私です」
母ことアルカリオンと、長女であるヴィオレッタは呑気にボードゲームに興じていた。
「もっと!! 緊張を!! してください!! 母上!!」
「おや、ローズマリーもやりますか?」
相変わらず無表情だが、娘とボードゲームがしたくてわくわくしているアルカリオン。
国が分裂しているのに、余裕すぎる。
余裕がなくてパニックになっても問題だが、余裕がありすぎるのも問題だ。
「レイシェルの安否も分からない、最初は味方だった貴族たちも挙兵、国は崩壊寸前なんですよ!?」
「そうですね。かと言って、慌てたところで何も変わりません」
「それは!! そう、ですが……。母上はレイシェルが心配ではないのですか?」
「もちろん、心配しています。ですが――」
アルカリオンが部屋の隅に目を向ける。
「あばば、わ、儂がいながら、レイシェルが、あばばば」
「……自分よりも冷静ではない者を見ると冷静になるものです」
「お、お祖母様!?」
部屋の隅でピクピクと痙攣しながら青い顔をしていたのはローズマリーの祖母、サリオンだった。
真っ青な顔で口から泡を吹いており、今にも死にそうな表情だ。
「お、おお、ローズマリーや。小僧一人のお守りもできぬ儂のようなダメダメ女に何か用かの?」
「い、いえ、あの場には私もいましたし、お祖母様だけが責任を感じる必要は……」
「ローズマリーは優しいのう。儂のようなクソゴミにまで……うぅ、ぐすっ」
サリオンはレイシェルと共にいながら、彼を守れなかったことを悔いていた。
一日に18時間睡眠だったが、今では12時間睡眠になってしまうくらいには。
「それに儂が怒りに任せてネガエルとやらを殺さねばまだレイシェルの居場所も分かったかもしれんじゃろ?」
「それは、まあ、はい……」
砦を守っていたネガエル伯爵はレイシェルを転移させた少女、ヘクを手引きしていた。
今のところ、それしか分かっていない。
その場にいた兵士たちをサリオンが一方的に虐殺してしまったからだ。
生存者はローズマリーを始め、援軍としてやってきた竜騎士団と何も知らないネガエル伯爵軍の兵士たちのみ。
ネガエル伯爵とその側近たちは死んでしまった。
「あの時、儂がもう少し我慢できたら、レイシェルは今頃帰ってきたかもしれんのに……。ああ、儂はなんと間抜けな竜……」
「……と、とにかく!! 呑気にしている暇はないのです!! 母上、報告はご覧になりましたか!?」
「ええ、もちろん。娘からの手紙には全て目を通しています」
「て、手紙……。一応、戦況報告なのですが」
ローズマリーがそう言うと、アルカリオンは机の引き出しから一通の手紙を取り出した。
「敵の使う不思議な武器のことですね」
「……はい。最初に反乱を起こした貴族たちの軍は、その多くが鉛の玉を撃ち出す武器で武装していました」
レイシェルがその武器を見たなら、「銃!?」と驚いたことだろう。
それも火縄銃やマスケット銃のような、原始的な銃ではない。
ボルトアクション式の、近代的な銃である。
と言っても、その細かい構造は地球のものとは少々異なるようだった。
「ワイバーンの鱗を貫く威力はありませんが、火炎放射を浴びせるために近づこうとして目や翼を狙われ、撃墜する者が少なからずいます。早急に対策せねばなりません」
「ああ、それならばご安心を。敵の使っていた武器を鹵獲し、イェローナが解析及び研究しています。改良して連射できるものを作っているそうです」
「え?」
第五皇女イェローナは魔導具の天才だ。
そんな天才に、銃なんて発展・改造の余地がある代物を与えたらどうなるか。
この世界の兵器は、加速度的に発展する……。
かもしれない。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「サキュバスが絶対上位的存在なエッな漫画とか好き」
レ「新人サキュバスとイチャラブエッも好き」
作者「以前ノクターンで投稿していた『エロゲの友人キャラに転生したので推しヒロインを寝取ったら主人公の性癖を拗らせてしまった!?』を修正してカクヨムに投稿します。エッなシーンはギリギリを攻めます」
「捨てられじゃなくて売られてる……」「サリオンで草」「作者の性癖分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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