第48話 捨てられ王子、囲まれる





 見渡す限りの荒野。


 朽ち果てた植物ばかりで、土は干からび、生命を感じられない。


 まさに死の大地。


 前にも同じようなことがあったな。ダンジョンまでサリオンに会いに行った際、うっかり転移トラップにかかった時も同じ感覚だ。


 俺は瞬時に自分がどこかに転移してしまったことを理解する。


 取り敢えず……。



「う、嘘だ、どうして僕まで!? あいつだけで良かったのに!! なんでだよぉ!!」



 俺に転移トラップと同種類のアイテムを使い、俺を荒野に跳ばした少女。


 ミニスカメイドの銀髪美少女に声をかける。



「あー、もしもーし」


「っ、ぼ、僕に話しかけるな!!」


「そうは言ってもな……。元の場所に戻るには君の協力が必須なんだよ」


「誰がお前なんかと協力するか!! 死ね!! アホ!!」


「暴言が中学生と小学生の中間みたいだな……」



 俺に対し、警戒心というか、敵意満々の瞳で俺を睨みつけてくる。


 困ったなあ。


 ここがどこかを知っているのは彼女のみ。

 メイド少女の協力が無ければ現状の打開は難しいだろう。


 俺がどう説得したものか考えていると、メイド少女は勢い良く立ち上がった。



「僕は一人で帰るぞ!! お前なんかと一緒にいられるか!!」


「お、今度は微妙にフラグっぽい台詞……」



 俺がいる場所と反対側に歩みだそうとしたメイド少女だったが、ちょうどその先。


 広い荒野の中心で何かが動いた。


 ミミズだ。ただし、体長は優に数百メートルを越えており、全身が鱗のようなものに覆われ、頭と思わしき部分には大きな口がある。


 ドラゴンモードのアルカリオンよりもデカイのではなかろうか。


 巨大ミミズは地面を抉りながら移動している。


 幸いにも俺やメイド少女の方に向かってくる気配はなさそうだが……。



「……ふん。あっちはだめそうだな」



 そう言って直角に別方向に進もうとすると、今度はその先で何かが動く。


 それは、巨大な獅子のような生物だった。


 体長は数十メートルあるだろう。尻尾は蛇で大きな翼が生えている。


 そんな虎が数十体。


 おそらくは群れを成す生き物なのだろう、静かに寝息を立てて日向ぼっこしているが、近づいたら食い殺されそうである。


 メイド少女が更に獅子に背を向けて、反対側に進もうとすると……。



「ブモオオオオオオオオッ!!!!」



 巨大な二足歩行の牛のような生き物が、巨大な岩に突進して頭突きを繰り返していた。


 そのサイズ感は巨大ミミズ以下、獅子以上の大きさだった。


 恐ろしいのはその角だろう。


 頭突きする度に大岩に穴を空けており、そのうち破壊してしまいそうな威力があった。


 どの生物もとても人間の敵う生物ではない。


 メイド少女は物凄く不服そうに俺の方に近づいてきて、渋々と言った様子で頷いた。



「お、おい。仕方ないから協力してやる」


「そ、そうか。それなら良かった」



 俺が再びこの場所がどこかを訊ねると、メイド少女はそっぽ向きながら答える。



「ここは最果ての大地だ。無数の魔物と荒野が延々と続いているだけの大陸、らしい」


「らしい?」


「僕だって人伝に聞いただけなんだよ!! くそっ、どうして僕がこんな目に!!」



 最果ての大地、か。


 なるほど。あんな巨大な強そうな魔物ばかりの場所が大陸にあったら人類とか絶滅してるよな。



「でも困ったな。ここが仮に大陸外なら、船が必要なのか」



 当然ながら、俺は船に乗ったことはあっても運転したことは無い。


 メイド少女もそうだろう。


 この大地に人が暮らしている可能性は限りなく低いだろうし、脱出は不可能と思った方が――いや、待てよ?



「そうだ、大丈夫だ!! きっとアルカリオンが竜の眼で俺の居場所を特定して迎えに来てくれるはず!!」


「……無理だよ」


「え?」


「無理だって言ったんだよ!! 僕がいるからな!!」



 メイド少女は苛々した様子で叫ぶ。



「僕は竜の眼を無効化する改造を受けた!! お前は僕と一緒にいる限り、迎えが来ることはない!! ははは、残念だったな!!」


「そっかあ。じゃあ別の方法を探すか」


「……おい」


「つっても船の運転をしたことはなあ。空を飛べる野生の魔物を使役して、大陸まで乗せて行ってもらうか? 後々サリオンが不機嫌になりそうだな……」


「おい!!」


「うおっ、びっくりした」



 俺の思考を邪魔するように、メイド少女は声を荒らげた。


 本当にびっくりした。



「お前は馬鹿なのか!? 僕が邪魔なら僕を殺すとか、そういう発想はないのか!?」


「え、いや、ないけど?」


「ふ、ふざけるなよ!! こうなったのは僕のせいだろ!! もっと僕に怒れよ!!」



 急に理不尽な理由で怒り始めたメイド少女。



「えーと、どしたん? 話聞こうか?」


「うるさい!! お前はいつも、そうやって!!」



 いつも?


 俺とメイド少女はどこかで会ったことがあるのだろうか。

 こんな絶世の美少女と出会っていたらまず忘れないと思うのだが……。


 でも確かに、この子とはどこかで会ったことがある気がするのだ。


 それともう一つ不思議なことがある。



「……ふむ。何故か反応しないな……」



 俺は自分の股間を押さえ、何故か愛刀が無反応なことを確かめる。


 おかしい。


 メイド少女のような美少女を目の前にして俺の愛刀が反応しないなんておかしい。


 まさか不全になってしまったのか。


 そう思って脳内ローズマリーや脳内アルカリオンに誘惑してもらうことにした。



『ふっ、レイシェルは相変わらず変態だな。今日は優しくお仕置きしてやる』


『坊や。今日は私がママです。好きなだけママに甘えなさい』



 しっかり反応した。


 何故か目の前の少女に限って愛刀を使うことはできないらしい。


 別に困ることはないが、不思議な感覚だ。



「まあ、争っていても始まらない。取り敢えず食料や水を確保しよう」


「……どうやって?」


「食料は俺たちでも倒せそうな魔物を倒して得る。毒があっても俺なら治せるから安心しろ。水が有害でも大丈夫だ」


「っ、だ、誰がお前なんか頼るか!!」



 ふんと鼻を鳴らして歩き始めるメイド少女。


 あ、そうだ。肝心なことをメイド少女に聞き忘れていたな。



「なあ、君の名前は? 俺はレイシェルだ」


「……ヘク」


「ヘクか。よろしくな!!」



 俺は握手を求めて手を伸ばしたが、ヘクは無視して歩き始めた。


 ううむ、ここで冷たくされると悲しいな……。


 まあいいや。これから仲良くなれば良いだけの話だからな。


 そう思っていたのだが、早速ピンチ到来。



「見て!! オスよ!!」


「一緒に女もいるわね」


「女は殺してあのオスは持ち帰りましょう!!」


「しかも人間のオス!! これは女王に献上しなければ!!」


「しかも女王好みの可愛らしい少年だわ!!」



 俺は十数人の女に囲まれていた。


 ただし、普通の女ではない。

 上半身はおっぱいを隠す程度の布しかまとっていないが、問題はそこではない。小麦色の肌も気にはならない。


 気になるのは女たちの下半身だ。


 その女たちは、腰から下が蛇のような姿をしていたのである。


 いわゆる、ラミアだった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「魔物美少女ハーレム編、突入!!」


レ「お、おお!!」


作者「新作投稿しました。タイトルは『ベテランおっさん冒険者、聖剣を引っこ抜いたら美少女になってしまった!?』です。時間のある方はどうぞ」



「ヘクは一体何者なんだ!!」「なぜ愛刀が反応しないんだ!?」「ラミア娘はイケる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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