第46話 捨てられ王子、出撃準備する






 アガードラムーンの一部の貴族たちが反乱を起こした。

 その連絡を受け取ってすぐ、俺とローズマリーはワイバーンに乗って城へと帰還する。


 アルカリオンに詳しい話を聞くためだ。



「母上、反乱とはどういうことですか!?」


「そのままの意味です。旧アガーラム王国の貴族を含め、一部の諸侯らが挙兵して帝城へ迫っています。同時多発的な反乱ですので、おそらくは示し合わせたのでしょう」


「な、何故そうも落ち着いておられるのですか……」



 相変わらず無表情なアルカリオンに対し、ローズマリーは困った様子で言う。


 すると、アルカリオンは抑揚の無い声で一言。



「落ち着いているように、見えるならば良かったです」


「え?」


「実はとても焦っています。ので」


「!?」



 ……そうだ。


 アルカリオンの眼には未来を視る力がある。それなのに反乱を予知できなかった。


 俺たちの知らないところで何かが起こっているのだろうか。



「ひとまず、ローズマリー。貴方には竜騎士団と共に出撃してもらいます。旧王国貴族……は、対空魔法の使用が確認されているため、後回しです。まずは帝国貴族の反乱を鎮めるように。反乱軍には降伏を呼びかけ、応じた場合は捕虜にしなさい」


「応じなかった場合は?」


「殲滅です」


「っ、せ、殲滅ですか?」


「はい。徹底的に、完膚なきまでに叩き潰すように。その代わり、降伏して捕虜になった者たちへの尋問拷問は一切を禁じます。……捕虜になってからまた反乱を起こすようであればその限りではありませんが」


「は、はっ!!」



 なるほど。


 アルカリオンの狙いは敵に容赦せず、恐怖で戦意を挫き、捕虜にするのが目的か。


 多方面を相手にするなら有効かも知れない。



「それと、坊やにもお願いがあります」


「ん? 俺?」


「ローズマリーに同行し、敵味方問わず負傷者を治療してもらいたいのです」


「え、敵も治療しちゃっていいの?」


「はい。先程は殲滅しろとローズマリーに言いましたが、目的はあくまでも敵の戦意を挫くこと。不必要な犠牲が出ることは本意ではありません。坊やの元部下たちで希望する者がいたら連れて行ってください。坊やの護衛にはサリオンを付けます」


「うーん、アイツらかあ」



 俺と一緒に捕まって、そのまま帝都で暮らすようになった部下たち。


 今でもたまに部屋に招いて騒いでいるが、彼らの多くが「戦争? 二度と参加したくないけど?」みたいな感じなので参加してくれるかどうか……。


 いやまあ、ダンカンとかは酒場の女の子と結婚して、奥さんは妊娠してるみたいだしなあ。


 わざわざ戦場に誘うのはやめておこう。



「いや、俺一人で十分かな」



 俺の『完全再生』は魔力を消費しないし、百人だろうが千人だろうが治せる。


 彼らがいたら楽なのは確かだがな。


 こうして俺は貴族たち率いる反乱軍を鎮圧するため、諸々の準備を進めることになったのだが……。



「レイシェル様、少々よろしいでしょうか?」


「ん? オリヴィア?」



 出撃の準備をしていると、俺の初恋の女性、ヘクトンの母であるオリヴィアが声をかけてきた。

 侍女らしい立ち振る舞いが板に付いてきており、様になっている。



「どうしたんだ?」


「……嫌な予感がしまして」


「嫌な予感?」


「ただの勘、なのですが……。ヘクトンが、あの子が戦場にいるような気がするのです」



 オリヴィアはあまりにも突拍子の無い話をした。


 捕虜として捕まえたヘクトンが、行方不明となったヘクトンが今回の戦場に現れるかも知れない、と。


 他の誰かが言うならそれとなく聞き流すが、オリヴィアはヘクトンの母。

 何か親としての直感が働いているのかも知れない。


 俺はオリヴィアの手を握り、笑う。



「分かった。じゃあ、ヘクトンがいたら連れて帰ってくるから待っててくれよ」


「……よろしいのですか? あの子は、いえ、私もですが、貴方には酷いことを……」


「そりゃあ、気にしてないって言ったら嘘だけど」



 俺はヘクトンのせいで五年も戦場で戦う羽目になったのだ。

 顔を見たらぶん殴りたいくらいには怒っている。


 でもまあ、それはそれとして。



「オリヴィアも今は俺の女だからな。オリヴィアがヘクトンの心配してんなら、俺も心配するよ」


「っ。貴方は、やはりあの方と同じように笑いますね」


「あの方って、俺の母上のこと?」


「はい。華のように笑う、素敵な方でした」



 ふーん。


 俺、赤ん坊の頃から父親に隔離されてたせいであんまり覚えてないんだよな。


 顔は分かるけど、笑顔は思い出せない。ただとんでもなく美人だったのは知ってる。


 と、その時。


 オリヴィアは俺の握った手を優しく握り返し、耳元で囁きかけてきた。



「あの、出発する前に、その……抱いてもらえますか?」


「――もちろん!!」



 俺は満面の笑みで了承し、ローズマリーに一言断ってからオリヴィアとベッドインした。


 ローズマリーは呆れているようだったが、小声で「まあ、戦場に出たらレイシェルは私の独り占めだし、今は我慢しよう」と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。


 戦場にはサリオンも出るはずだが……。


 ローズマリーはサリオンをあの手この手で丸め込み、俺を独り占めするらしい。

 たまにはローズマリーと二人きりでイチャイチャしたいし、それも悪くないかも知れない。



「あっ♡ レイシェル様っ♡ 今はっ♡ 私だけのことを考えてくださいっ♡」


「あ、ごめんごめん。オリヴィアは可愛いなあ」


「レイシェル様っ♡ 好きっ♡ お慕いしておりますっ♡」



 オリヴィアが可愛い。


 ヘクトンの母親のくせに俺には女の顔を見せてくるのだ。


 興奮しないわけがない。


 ……ふむ。反乱を鎮めてヘクトンを連れて帰ってきたら、弟か妹ができてるかも知れないわけだよな。


 ヘクトン、喜ぶかな?


 俺はそんなことを考えながらオリヴィアとの濃厚エッチを堪能し、翌日には反乱軍を鎮圧するべく出撃するのであった。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「ヘクトン視点で『母親と腹違いの兄がやらかして妹が産まれた件』って話を妄想した」


レ「ええやん」



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