第45話 捨てられ王子、寝耳に水




『一番騎、発進します!!』


『二番騎、発進します!!』


『三番騎、発進します!!』



 次々と滑走路を駆け、上空へ昇っていく巨大な無数の影。


 俺はその影を下から見上げていた。



「どうだ? 新設された海上竜騎士団は」


「凄いの一言。壮観だなー」


「ふふ、私も初めて見た時はそう思った」



 笑いながらそう言ったのは真っ赤な髪の長身美女、ローズマリーだった。

 俺は今日、というか一ヶ月ほど学園を休み、海に来ている。


 どこまでも青い海と空。そして、白い砂浜……。


 いや、砂浜に関しては大分離れた場所にある。何故なら俺が立っているのは、海上を進む飛竜母艦の甲板だったから。


 そう、飛竜母艦。竜母である。


 通常の船より長く、船の左右に滑走路を取り付けたような歪な船。


 この船は機帆船であるため、帆や大型魔導エンジンを搭載している部分はどうしても取り外すことができない。


 ならばワイバーンが飛翔するために必要な滑走路をどこに用意するのか。


 両脇に付けちゃえば良いんじゃね?


 そういう軽いノリで誕生したのが竜母だ。イェローナが開発に関わっているそうだが、本人は船酔いが酷いらしく、今日はいない。


 作る切っ掛けとなったのは俺がローズマリーにポロっと前世の空母について話したことだった。


 帝国は持ちうる技術を総動員して短期間で作り上げ、アガーラム王国との戦争に導入した。


 アガーラム王国海軍との戦闘では制空権を確保し、常に優位に戦いを進め、圧勝と言って良い成果を残した船である。


 しかし、その運用はまだ完璧とは言えない。


 多くの戦略研究家たちがこぞって有用な使い方を研究しているらしい。


 そして、専門家たちが研究に研究を重ね、海上を舞う竜騎士団が新設された。

 俺は今日、ローズマリーに無理を言ってその新設された海上竜騎士団の演習を見に来たのだ。


 何故かって?


 学園に居づらいの!! 女子たちが凄い見てくるんだよ!!


 先日の女子寮ジャック事件以来、俺はちらちらと女子生徒に見られるようになった。

 中には露骨に俺を意識して話しかけてきたり、押し倒してきた子もいた。


 可愛かったからついエッチしちゃったけど、そこからが大変だった。


 その日から、毎晩のように俺の部屋に女の子が訪れるようになったのである。

 俺はロクに眠ることができず、少女たちに貪り尽くされた。


 それは最初こそ「ハーレム最高!!」みたいな幸せな時間だったが、段々大変になってきて、俺は一度学園を離れることにしたのだ。


 海に来たのはそのためであり、実は理由がもう一つあって……。



「レイシェル様、如何でして? 私の艦隊は!!」



 声が聞こえて振り向いた先には、金髪縦ロールの美女が立っていた。

 その美女は、俺がまだアガーラム王国にいた頃の婚約者。


 エリザである。


 そして、新設された海上竜騎士団をとりまとめる司令官でもある。


 彼女とはここしばらく会えていなかった。


 何やら野生の気性の荒いワイバーンを実力で従えて竜騎士団に入り、その実力は竜騎士団最強のローズマリーと互角と言われているらしい。


 陸のローズマリーと海のエリザ。


 今、アガードラムーンではこの二人のどちらが強いか密かな話題になっているとかいないとか。



「エリザはやっぱり凄いなあ」


「ふふんっ、当然ですわー!!」



 俺に褒められて嬉しそうに笑うエリザ。それを横目で見ていたローズマリーは、少し唇を尖らせる。



「とはいえ、だ。戦術面ではまだまだ未熟なところがある。今まで陸地でワイバーンを運用してきた弊害だな」


「あら? 私の部下たちは優秀ですので、すぐに陸上竜騎士団を越えますわよ?」



 そのエリザの挑戦的な発言に、ローズマリーは眉をピクッと動かした。


 まだ新しく作られて半年も経っていない海上竜騎士団に対し、ローズマリー率いる陸上竜騎士団はかなり昔から存在する。


 その分、陸上竜騎士団にはノウハウがある。


 それをすぐに越えると言われて、ローズマリーのプライドを刺激したらしい。


 ローズマリーが好戦的な笑みを浮かべる。



「……ほう。その挑戦、受け取った。陸海、どちらの竜騎士団が優れているか、近いうちに合同演習でもしようではないか」


「ですわね!! 勝った方がレイシェル様と一日エッチ権を得るというのはどうでして?」


「乗った」



 何やらまたしても、俺を賭けて争うらしい。


 俺のために争わないで!! とか気を利かせて言った方が良いだろうか。


 まあ、妻たちの珍しい顔が見れて嬉しいので、下手なことは言うまい。


 ……別に勝った方とイチャラブエッチしたいとか、そういうことは考えていない。

 こういう勝負事で勝った側は激しいエッチをしてくるので楽しみとか、そういうことはない。


 ないったら、ない。



「ローズマリー様!! 宰相様から緊急連絡です!!」


「む? 分かった」



 と、そこでローズマリーが部下から魔導通信機を手に取った。


 宰相、オリガが緊急と言うほどだ。


 何かあったのだろうか。

 そう思ってローズマリーを見ていると、彼女の顔色が次第に険しくなっていく。



「ローズマリー?」


「……少々、問題が起こった」


「え、何かヤバイ感じ?」


「ああ。……一部の貴族たちが挙兵し、国に反旗を翻した」


「……え?」



 どうやら反乱が起こったらしい。寝耳に水だ。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「短くて申し訳ねぇ」



「エリザをライバル視してるローズマリー可愛い」「反逆!!」「もっと長い話書け!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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