第44話 捨てられ王子、ぬるぬるスライムプレイする
「え、いや、もう帰ってきたのか!?」
「ライムが得た知識の中には『子供は夕暮れ前に帰るように』というものがあった」
「教育本でも吸収したのか……? ま、まあ、大事なことではあるけども」
部屋に戻ると、ライムがいた。
昨日よりも更に大きくなっている。また何か食べてきたのだろうか。
身長もスタイルもアルカリオンに近いものを感じる。
おっぱいが、いや、スライムだからおっぱいと表現するのが正しいかは分からないが、人間で言うおっぱいの形をしている部位がデカイ。
思わず視線を釘付けにされてしまった。
もう一度会ってきちんと話がしたいとは思っていたが、ライムのやったことがやったことなのでつい警戒してしまう。
「な、なんだ? また女子寮をジャックする気か?」
「マスター、ライムはまだ愛の何たるかを理解できていない。マスターがライムを警戒するのは当然。でも今は、ライムを信じて?」
「うっ、しょ、正面から言われると弱いな……。まあ、分かった」
「ありがとう」
ライムは少し微笑み、深々と頭を下げた。
そして、何故か俺のベッドにそそくさと入り、毛布を捲って言う。
「じゃあマスター、エッチしよ」
「いや、なんで!?」
「ライムの得た『知識』の中にあった。男女の愛を確かめるなら、性的行為がベスト。イチャラブエッチと呼ぶらしい。前回はマスターの子種の回収を優先したから、『イチャイチャ』も『ラブラブ』も足りなかったと判断した。ので、もう一度リベンジ」
どうやらまたしてもエロ本の知識に頼っているらしい。
誰だよ学校にエロ本持ってきてるの。気持ちは分かるけど駄目だよ。
でも。
俺はゴクリと生唾を飲み込み、愛刀に血液が巡っているのを感じる。
前回は無理やり搾り取られそうになって思わず抵抗したが、今回は違う。
向こうから誘ってきてはいるが、その誘いに乗るかは俺の裁量だ。
……いや、俺は何にビビっているのだ。
前回はたしかにライムに襲われて良いように弄ばれてしまった。
しかし、俺は敗北から学ぶ男。
ましてや相手は魔物であり、俺の使役しているスライムだ。
ここで飼い主としての威厳を見せないと、また舐められてしまう。
「いただきます!!」
俺は迷わずライムの身体に抱きついた。
ひんやりと冷たくて、夏場には心地いいであろう感触。
「んっ♡ ……なるほど。マスターから強く抱き締められるとドキドキする。じゃあマスター、次はキス」
「え? ちょ、いきな――」
「はむっ」
ライムがいきなりキスをしてきた。
それもお子様がするようなお遊びのキスじゃない。
大人がするようなガチの濃厚なキスである。
甘い。空気とかそういう話ではなく、ライムの本当に舌が甘い。
一瞬気のせいかと思ったが、ライムの舌は砂糖のように甘かった。
飴か何かを吸収して、その味になったのだろうか。
「マスター、ライムの味はどう?」
「お、美味しい。甘かった……」
「学園の売店に売っていたキャンディを吸収した甲斐があった」
……明日、売店にお金を払いに行こう。
「じゃあマスター、次はもっと濃厚なイチャイチャをしよう」
「――やる!!」
と、その時だった。
俺の部屋の扉がコンコンとノックされ、誰かが入ってきた。
ルームメイトのカナデとテナウだった。
俺は咄嗟にライムを毛布で覆い、二人から見えないように隠す。
「レイ殿……」
「レイレイ……」
「ふ、二人ともどうしたんだ? ――う゛っ」
毛布の中に隠したライムが蠢いて、俺の全身に這ってくる。
ぬるぬるプレイは好きだが、ライムからぬるぬるされるとは思いもしなかった。
俺は変な声が出るのを我慢しながら、カナデとテナウの方を見る。
「そ、その、謝りたくてな。拙者らは貴殿に酷いことをしたと聞いて……」
「ごめん!! なんか気持ち良かったことしか覚えてないけどごめん!!」
「テ、テナウ!! ほ、本当にすまない!! 何をしたかも覚えていないのに謝罪などと、貴殿からすれば虫の良い話かも知れないが、どうか謝らせて欲しい!!」
そう言って頭を下げるカナデとテナウ。
実は女子寮ジャック事件に遭った見目の良い学園の女子生徒たちは、事件の出来事をあまり覚えていなかった。
ライムが彼女たちに注入した媚薬が原因らしく、快楽が強すぎて記憶が飛んだとか。
不幸中の幸い、と言って良いのかは分からないが、俺が本当は『突発的に男性器の生える病気』でも何でもないことはバレていない。
ただ一部の女子生徒は記憶が残っているそうで、俺と目が合ったら赤面する者が少なからずいる。
そういう女子生徒にはメイドリオンとヴィオレッタが声をかけており、何か計画しているようだった。
気になるが、今はその二人に聞いても教えてくれないだろう。
ならば俺はいつも通りに学園で過ごすのみだ。
俺は至って平静を装いながら、カナデとテナウに笑顔を向ける。
「き、気にしないでくれ。あれはジャック犯のばら蒔いた毒が原因なんだから、二人は悪くないよ」
「そう言ってもらえると助かる」
「本当にごめん!!」
最後にもう一度俺に謝って、カナデとテナウは部屋を出て行った。
俺は毛布を捲って中を覗く。
「マスター♡」
そこには以前のような、淡々と搾り取ろうとしてきたライムではない、女の顔をしたライムがいた。
俺は頭から毛布を被り、ライムとぬるぬるスライムプレイをするのであった。
◆
「うわー、やってもないことがうちの組織のせいにされてる」
その少女は新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。
新聞の内容は、ヴィオレッタ学園の女子寮を何者かが襲撃し、ジャックしたというもの。
犯人は逃走中だが、先日レイシェルの弟、ヘクトンを逃がした一味と同一組織による犯行と思われると書いてあった。
その少女の属する組織は一通りの悪事に手を染めているため、それを否定するのは困難だろう。
「ま、どうせ皆、気にしなくなるよね。世界大戦が始まったら。君もそう思うでしょ? ヘクトン君」
「……」
少女の視線の先には一人の少年がいた。
全身をプラグで繋がれ、怪しい緑色の液体の入ったポッドの中で生命活動を続けている少年。
少年――ヘクトンの瞼が、ゆっくりと開いた。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「作者もぬるぬるしたい」
レ「ぬるぬるはええで」
お知らせ
諸事情により、投稿ペースを落とします。三日に一話投稿です。
「ライム可愛い」「ヘクトン何やっとんねん笑」「作者もぬるぬるに目覚めてて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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