第43話 捨てられ王子、またも救出される
天国か地獄か分からん。
那由多を含めた容姿の整った学園の少女たち、あるいは教師たちが群がってきて、俺は全身を柔らかいものに包まれている。
暖かくて、心地よくて、もうずっとこのままで良くない? と割と本気で思ったその時。
「レイシェル!!」
ローズマリーの声が聞こえてきた。
幻聴だろうか。ああ、こんなに女の子に群がられているところを本人に見られたらお仕置き案件だ。
まあ、ローズマリーのお仕置きってイチャイチャエッチだからご褒美だけどさ。むしろ望むところだけどさ。
なんて考えていた、その時だった。
誰かに腕を捕まれて、力ずくで肉の海から引き上げられる。
「大丈夫か!? レイシェ――萎れてる!?」
「あ、あれ……? ローズマリー? 幻覚じゃなくて?」
「あ、ああ、私だ!! しっかりしろ!!」
どうやら俺はライムのお薬で暴走状態に陥った学園の女子生徒や女教師からずっと搾り取られていたらしい。
そして、俺の顔を覗き込む影が二つ。
一人はメイド服姿の小さなアルカリオン、メイドリオンだ。
もう一人はやたらと扇情的な下着をまとったサリオンだった。
サリオンが俺の身体をペタペタと触ってくる。
「ふむ。限界まで搾り取られて弱っておるが、健康状態に問題は無さそうじゃな」
「お祖母様、本当ですか? 今にも死にそうなのですが……」
ローズマリーが心配そうに俺を見つめているのでサムズアップする。
「色々と、気持ち良かったです……」
「……まったく。お前という奴は、ふふ」
「さて、問題は――」
サリオンとローズマリー、そしてメイドリオンが大広間の中央で蠢いている不定形生物――スライムことライムを見据える。
スライムは姿を変えて、俺の寝込みを襲った時と同じ姿になった。
「マスターを返して」
「お断りします。坊やは貴女のものではありません」
「そう、貴女の言う通り。マスターは誰のものでもない。マスターは神。マスターこそが至高。マスター以外の男は全てカス」
「……ふむ。同意できるところは多々ありますね」
「話の分かる女性で良かった。今からでもライムの味方にならない?」
ライムの言葉に対し、メイドリオンはある程度の理解を示した。
「たしかに、ここで坊やと爛れた生活を送るのも悪くないかも知れません」
「は、母上!?」
「……そう。ならライムは歓迎する。一緒にマスターを気持ち良くしよう」
ライムが笑顔を浮かべて言った、その次の瞬間。
メイドリオンは相も変わらず無表情のまま、言い切った。
「だが、断る」
そう言えば前に那由多がアルカリオンに、ジ◯ジョネタ教えてたような気がする。
言いたかったんだろうなあ。
俺も言うチャンスがあったら言ってみたい台詞だし、気持ちは分かる。
しかし、その言葉はライムを怒らせるには十分なものだった。
「そう。なら貴女も『マスター好き好きゾッコンラブラブゾンビ』にしてあげる。ライムが体内で生成した『マスター至高大好きラブラブドーピング剤』で」
それは完全な不意打ちだった。
おそらくはライムから分離したであろう、小さなスライムが死角からメイドリオンたちに襲いかかったのだ。
そのスピードに誰も反応できず、全員がライムの媚薬を食らってしまう。
ああ、まずい。
今にも俺を狙っている女子生徒や女教師にローズマリーたちが加わったら、本格的に逃げ場が無くなるだろう。
俺はもうありのまま全てを受け入れて、ゆっくりと瞼を閉じた。
しかし、いつまで経ってもローズマリーたちは襲いかかって来ない。
ゆっくりと瞼を開けると……。
「……有り得ない。何故、ライムの『マスター至高大好きラブラブドーピング剤』が効かない?」
ライムが目を見開いて驚いていた。
媚薬をまともに食らったはずのメイドリオンとローズマリーは、至って平然としていたのだ。
サリオンは少し呼吸が荒く、頬は赤いが、理性の方が勝っているらしい。
「ふん。こんな
「ローズマリーの言う通りです」
「……何故?」
ライムの端的な問いに、ローズマリーとメイドリオンは同時に答える。
「愛だ」
「愛です」
「……愛?」
メイドリオンが胸を張って言う。
無表情にも関わらず、何故かドヤ顔をしているようだった。
「そう、愛です。私たちの坊やに対する愛は、性欲などとっくに超越しているのです」
「性欲を、超越する程の愛……? ライムの持ち得る知識では、わからない……」
「否。それは元々知識で分かるものではありません。愛とは心、愛とは魂で理解するもの。貴女は坊やを心から、魂から愛していますか?」
「!?」
その一言でライムの瞳が揺らいだ。
「ラ、ライムは、マスターを、愛している……。でも、これは本当に愛……?」
「貴女はただ、坊やの遺伝子を受け継いだ生命がこの世界に溢れることを望んでいるだけなのでは?」
「……」
みるみるライムの顔色が悪くなる。
否定したくてもできない、とその表情が物語っている。
「マスターは、神で……」
「そう。貴女は坊やを神にしたい。それは何故ですか?」
「……マスターは、お腹の減ってた私に、ご飯をくれたから……。世界が、優しいマスターを神として崇めたら、皆優しくなる、だろうから……」
「それで?」
メイドリオンがライムに圧をかける。
それ以上何も言えなくなったのか、ライムは押し黙ってしまった。
追い討ちをかけるメイドリオン。
「たしかに、坊やを崇拝する貴女には坊やへの愛があるのでしょう。しかし、貴女は坊やへの愛を自覚していない。そんな小娘ごときに負ける私たちではありません」
「っ!!」
ライムが歯噛みする。
そんな、如何にもシリアスっぽさがあるシーンに水を差す者が一人。
「……いや、なんか立派なこと言っておるが、要は常に小僧に発情しておるってことじゃろ」
「お祖母様、今少し良いところなので静かにしていてください」
「むぅ」
サリオンが俺を膝枕して、頭を優しく撫でてくる。
「言っておくが、儂が毒に弱いわけでも、小僧への愛が足りぬわけでもないぞ♡」
「う、うん、分かってるよ」
ぱちっ、と可愛らしくウィンクするサリオン。
と、ちょうどそのタイミングでメイドリオンと対峙するライムに動きがあった。
その表情は――実に清々しい顔つきだった。
「なるほど。愛を理解し切れぬライムにマスターをどうこうする資格はない、か」
その一言を皮切りに、ライムに動きがあった。
おそらくは女子寮中に放っていた分身が一ヶ所に集まり、みるみる少女だったライムがボンキュッボンの長身美女になる。
「今回は負けを認める。でも次に会った時、マスターへの愛を見つけた時、ライムはマスターをこの世界の神にする!!」
「なっ、に、逃げる気か!?」
「違う。戦略的撤退。ライムが愛を理解したその時、またライムはやって来る。マスター、それまではさようなら」
「あ、ライム!!」
ライムが窓を割って、凄まじい速度でどこかに行ってしまう。
呼び止めることもできず、俺はただその背中を見送った。
こうして、女子寮ジャック事件は幕を閉じた。
アルカリオンの采配で犯人は以前俺の弟を脱走させた一味の仲間ということになり、ライムの飼い主である俺に咎はなかった。
またいつかライムに会いたい。
彼女は俺が話す間もなく立ち去ってしまったから、今度はきちんと話をしたい。
そう思っていた。
「おかえりなさい、マスター」
「!?」
ローズマリーからの事情聴取が終わり、学園に帰ってきたら、部屋でライムが待っていた。
しかも何故かめちゃくちゃエッチなメイド服。
まさか事件が起こった次の日の夜に帰ってくるとは思わないじゃん。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「女子寮ジャック事件なんて字面初めて見た」
レ「だろうね」
作者「時間のある方はノクターンで掲載中の『エロゲの友人キャラに転生したので推しヒロインを寝取ったら主人公の性癖を拗らせてしまった!?』もよろしくお願いします」
「色々草」「秒で帰ってきたやんけ」「だろうな」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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