第42話 sideローズマリー






「ローズマリー殿下!! 駄目です!! どこからも侵入できそうにありません!!」


「くっ、分かった!! 第一部隊は地上に降りて指示を待て!! 第二部隊は引き続き上空から監視!! 中に入り込めそうな場所があればすぐに報告しろ!!」



 ワイバーンを駆りながら、ローズマリーは溜め息を零した。


 事の発端は半日前、ヴィオレッタ学園の女子寮が向こう側の光景が一切見えない謎のドームに包まれたことから始まった。


 一部の生徒や年老いた教師が追い出され、中に人が取り残されたのだ。


 女子寮から追い出された人物に事情を聞くと、どうやら女子寮内に突如として触手が溢れ、人々を追い出したり、捕まえ始めたりしたらしい。


 これに対し、ローズマリーは非常事態と判断。


 ワイバーン部隊の火炎放射によってドームの破壊を試みるも、尽く失敗していた。



「くっ、中で何が起こっているのだ……」



 ローズマリーは悪態を吐きながらも、ワイバーンを休ませるために一度地上に降りた。


 女子寮の周りにはネタを嗅ぎ付けた野次馬が集まっており、兵士たちがそれらを抑えるのに苦労している。



「レイシェルは無事だろうか……」



 ローズマリーが思い浮かべるのは、彼女がこの世で最も愛する人物。

 母と姉の策略によって、何故か女子寮暮らしをしている。


 女子寮から追い出された人々の中に、その彼の姿は無かった。


 ローズマリーは不安になる。



「ローズマリー」


「え? あ、は、母上!?」



 急に声を掛けられて振り向いた先には、ローズマリーの母、アルカリオンが立っていた。


 ただし、いつものアルカリオンより小さい。


 一見すると少女のような姿になっており、メイド服をまとっている。

 ローズマリーは一目見てそれが本体ではなく分身であると理解した。


 そして、そのすぐ隣に更に小さな少女がいる。



「サリオンもいますよ」


「うむ、儂もおるぞ。出番が無くて忘れられそうじゃし、そろそろ活躍の機会があると思って来たのじゃ!!」


「お祖母様が何を言っているのかは分かりませんが……。正直、助かります。何をどうやっても女子寮を覆う膜が破れず困っていたところなのです」



 ローズマリーは母とその母、アルカリオンとサリオンに頭を下げる。

 この二人が来たからには解決しない問題などない。


 ローズマリーの顔色は一気に良くなった。



「……ふむ? これは……」


「……なるほど」


「何か分かったのですか!?」



 ローズマリーの問いに対し、サリオンは頷き、アルカリオンは難しい顔をした。



「いや、これは驚いたのじゃ。この膜、儂の眼を通さぬ。というより、光の概念そのものを消化しておるのか? こんなことは初めてなのじゃ。お主はどうじゃ、アルカリオン」


「……本体が視た光景を受信しました。私は怒っています」


「は、母上?」


「お、おお、何か『ゴゴゴゴ』って音が聞こえてくるのじゃ」



 アルカリオンは相変わらず無表情だが、ローズマリーは冷や汗を流す。


 確かな怒りを感じ取ったのだ。


 ローズマリーは堪らず母に問いかける。中で何が怒っているのか。愛しい彼は無事なのか。



「坊やの子を全人類に生ませ、新世界の神にする計画自体は素晴らしい。ですが、それは坊やの愛があってこそ成立するモノ。坊やが望み、真に世界中の女を孕ませたいと思った時にこそ行うべき計画」


「母上? さっきから何を……?」


「サリオン、ローズマリー。膜の向こう側に突撃します」


「「え!?」」



 アルカリオンは一切躊躇するなく、膜の向こう側に歩いて行ってしまった。



「なっ、中に入れたのか!?」


「うーむ。どうやら女、それもある程度容姿の整っている者は入るだけなら自由なようじゃな。アルカリオンを追うぞ」


「え!? お祖母様まで!? 躊躇が無さすぎではありませんか!?」



 サリオンはローズマリーのごもっともな発言に対して一言。


 あっけらかんと言った。



「中に入らねば小僧を助けられんじゃろ」


「!?」


「では、儂は先に行くのじゃ」



 サリオンの何気ない一言に、ローズマリーは自らの発言を恥じた。


 そうだ、躊躇っていては大切な人を守れない。救えない。

 ローズマリーは頬をパンッと叩いて、自分も膜の中に入った。


 膜を潜った向こう側には、ローズマリーも知る女子寮の建物があった。


 パッと見は何事も無さそうで安堵するローズマリーだったが、その次の瞬間、妙に肌寒く感じて自らの身体を見下ろした。



「なっ!? ふ、服が!?」



 ローズマリーが着ていた鎧は、いつの間にか溶けて失くなっていた。


 豊満な身体が惜し気もなく晒され、思わずローズマリーは両腕で身体を隠した。



「ほほう!! 服の概念を消化したのじゃな!! それでいて一部の下着や靴下、いわゆるエッチさを感じる部分は残すのか!!」


「お、お祖母様は、下着姿なのですか!?」


「む? おお、ローズマリーは何も無いのか」



 ローズマリーよりも先に入ったサリオンは、ローズマリーよりは布が残っていた。


 最低限隠さねばならない場所は隠れている。


 サリオンは興味深そうにローズマリーの身体を眺め、コクリと頷いた。


 そして、一言。



「なるほど。お主はマッパが一番エッチと判断されたようじゃな」


「!?」



 どう反応して良いか分からず、ローズマリーは咄嗟に話題を変える。



「ここは一体なんなのですか?」


「うーむ、何らかの生物の胃袋の中じゃろうな。多分スライムかなんかじゃろ」


「スライム!?」



 ローズマリーは耳を疑った。


 スライムと言えば、最弱の中の最弱の魔物。こんな大それたことができるとは思えない。



「恐らくは変異体であろう。物だけでなく概念すら消化できるようになった、な」


「物だけでなく概念すら……。し、しかし、何故一部の服は残るのですか?」


「分からん。が、想像はできる。エッチさは三大欲求の一つ、性欲にまつわるもの。人間を構成する大切な要素なのじゃ。これを消化してしまえば、人は人ではなくなる」


「え、ええと」


「まあ、つまりは消化できぬ金属でできた骨のようなものなのじゃ」



 と、そのタイミングで二人よりも先に中に入ったアルカリオンが声をかけてきた。



「二人とも、早く行きますよ」


「!? は、母上は何故服を着たままなのですか!?」


「メイド服はエッチだからです」


「世界中のメイドたちに謝ってください!!」



 それから三人は行動を開始し、女子寮内の探索を始めた。


 しかし、そこであるものを目撃する。



「こ、これは!?」


「お、おお、これまた凄いのう」


「坊やが喜びそうな光景ではありますね」



 女子寮内の建物に入ると、まるで建物は生物のように脈動していた。

 そして、大勢の女子生徒や女性教師が触手に絡め取られている。


 ある生徒は壁に身体を飲み込まれ、お尻だけ出ている状態。また、ある生徒は床に下半身が飲み込まれている状態……。


 かと言って凄惨な光景というわけではない。


 女子生徒も女性教師も生きているようで、殺されるような気配は無かった。


 その奇妙な光景に軽いパニックに陥ったローズマリーは慌てて彼女たちを救出しようと手を伸ばし、サリオンに止められた。



「やめておくのじゃ」


「な、何故ですか!? お祖母様!!」


「この触手は助けようと近づいてきたものを捕まえるようじゃな」



 その合理的なトラップにローズマリーは戦慄する。



「坊やはこちらのようです」


「あ、は、母上!! 一人では危険です!!」


「まあ、分身体じゃし、儂らよりは平気じゃよ」


「あ、た、たしかに」



 こうしてローズマリーはアルカリオン、サリオンと共に元凶がいると思われる女子寮の大広間へと向かった。


 その大広間では――



「なっ!?」


「おおー!! 乱れまくっておるのう!! 若さじゃな!!」


「……」



 巨大な蠢くスライムをベッドのようにしながら、無数の女子生徒に群がられている最愛の男の姿があった。


 







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「メイド服はエッチです。誰が何と言おうとエッチです」


レ「分かる」


作者「あとノクターンの方でまた新作を投稿し始めました。タイトルは『エロゲの友人キャラに転生したので推しヒロインを寝取ったら主人公の性癖を拗らせてしまった!?』です。時間のある方はそちらもどうぞ」




「サリオンが久しぶりの登場だー」「メイド服はエッチです!!」「新作読みにイクで!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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