第41話 捨てられ王子、逃げられない
俺はライムにこってり搾り取られた後、まだ解放されずにベッドの上で手足を触手に拘束されていた。すると――
「マスター、赤ちゃんの作り方は知ってる?」
「え? えーと、そりゃまあ、うん」
と、唐突にライムが聞いてきた。
現代知識がある分、女性の妊娠の原理については詳しいと言って良いだろう。
とは言え、この世界でも、特に元帝国領ではあらゆる学問が発展しているため、ある程度は妊娠の原理について知られている。
まだ遺伝子とかそういうのは分かっていないだろうが、卵子と精子が受精した受精卵が着床することで妊娠になる、ということは知識ある人なら分かっているはずだ。
「そう、赤ちゃんは受精卵が着床することでデキたと言える。問題は受精卵が発生する確率。男性の精子が数億に対し、女性の卵子は一つ。数億の中からたった一つの精子しか選ばれない。マスターの精子が数億も無駄になる。そんなこと、許せない」
「えっと、あの、話が見えないんだけど」
「単純な話。マスターの精子は一匹残らず女を妊娠させるべき。マスターは地上のあらゆる種族、その女を孕ませる。すべての生命はマスターの血を受け継ぎ、マスターは神になる」
やっべぇわ。うちのスライム、なんかとんでもない方向に進化してるわ。
「い、いや、落ち着け、ライム。精子一つで女を妊娠させるのは無理だろ、現実的に考えて」
「普通ならそう」
生命の根本的な話だ。
卵子が受精するにあたって、そこまで辿り着ける精子は僅か一匹。
他の精子は大抵が途中でリタイアしてしまう。
ライムの言うように全人類の女性を孕ませるつもりなら、とんでもない回数のエッチをこなさなければならない。
いくら複数人とすることがある俺でも、全人類までは流石に無理。
「でも問題ない。ライムなら、マスターの精子一つで女を確実に妊娠させることができる」
「!?」
ライムは指先から触手をうねうねと伸ばし、少し透明化させる。
しかし、その指先は濁っていた。
というよりライムの、指先に俺の汁が溜まっているようだった。
さっきライムに搾り取られたものか。
「まさか、それを直接卵子に受精させる……?」
「流石はマスター。天才」
要は人工受精か!! いや、目的はともかく凄い技術だ!! 目的はともかくな!!
「ラ、ライム。そういうのは子供ができなくて困っている家庭のために使う技術でだな……」
「そう。子供ができない女もマスターの子を産める。これ以上幸福なことは他に無い」
「うちの子が悪い方に育っちゃってる……。なんで?」
純粋な疑問だ。
そもそも何故、ライムはここまで流暢に人の言葉を話し、人に擬態できるようになったのか。
「ライムは普通のスライムじゃない。捕食した対象からあらゆる情報を得て、それを肉体に反映させることができる」
「えっと、つまり?」
「この女性の身体は見目の良い女子生徒の頭髪等を回収して、組み合わせて作った。一番マスターの好みになるように」
「すっげー」
テイムする前からこちらの言葉は理解しているようだったし、賢いとは思っていたが、ここまでとは。
「それから教科書やノートを食べて、言語を学習した」
「え? あ、もしかして私物荒らしの犯人ってライムだったのか!?」
「そう。マスターの目を盗んでケージから脱走して、その度に食べていた」
やっべー。まじか。
犯人捜ししてた俺のスライムが犯人ってバレたら絶対にロクなことにならないぞ。
「いや、その、そう、あれだ!! なんでお前はそんなに俺に懐いてんだ?」
「マスターが神だから」
「えぇ」
ライムに話が通じていない。そして、その話を皮切りにライムは偏りすぎた思想を語り始めた。
「マスター以外の男はカス、全員子孫を一人も残すこと無く死に絶えればいい。地上のメスは全てマスターの女」
「お、落ち着こう、ライム。そんな偏った考え、誰から学んだんだ?」
「そういう本を食べた。『俺以外の男が女を孕ませられない世界なら、俺が全人類を孕ませてやる!!』という本を」
「それエロ本じゃん!!」
そう言えば、私物荒らしの被害にあって大切なエロ本を駄目にされたと怒り狂ってた男子生徒がいたなあ……。
つまりライムが悪い子になってしまったのはそいつのせいということか。今度会ったら許さん。
と、その時だった。
部屋の外から、というか女子寮の至るところから悲鳴が聞こえてきたのだ。
な、なんだ!?
「ライム!! 何をしたんだ!?」
「これは世界中の女にマスターの子を産ませるための予行演習。このライムは本体じゃない。本体は今、女子寮全体を飲み込み、外界から隔離している。また、年齢的に出産のリスクがある高齢の女性教師やマスターの好みではない女子生徒を女子寮から追い出している」
「んな!? ラ、ライム!! 命令だ、今すぐやめなさい!!」
「このライムは本体じゃない。だからマスターの命令に従う必要はない」
くっ、ライムを止めたかったら本体を見つけ出して命令しろってことか!!
しかし、非力な俺ではライムの拘束を破ることができない。
せめて誰か、誰か来てくれたら!!
と、そのタイミングで誰かが俺の部屋のドアを蹴破って入ってきた。
「レイさん!!」
「レイ殿!!」
「レイレイ!!」
「あ、み、みんな!!」
俺のルームメイトたち、那由多とカナデとテナウの姿がそこにはあった。
もしかして俺を助けに――
「はあ♡ はあ♡ ごめんね、レイさん♡」
「す、すまぬ、レイ殿♡ 何故か貴殿のことを考えると落ち着かず♡」
「よ、よく分かんないけど、レイレイのこと考えてたら身体が熱くなっちゃった♡」
那由多たちの様子がおかしい。
俺がライムに疑いの視線を向けると、ライムは無言でサムズアップした。
「万が一、マスターが脱走を企てた時のために女子寮の生徒に接種するとマスターにゾッコンラブになってしまう薬品を注入した。名付けるなら『マスター好き好きゾッコンラブラブゾンビ』になる」
「なんてもん作ってんだ!! ちょ、あ、那由多、正気に戻って!!」
「レイさんが悪いんですよぉ♡ いつもいつもエッチなことばかりしてっ♡」
「ちなみに女子生徒の約八割にこの薬品を注入したから、続々とこの部屋に女子がやってくる。彼女たちは本能的にマスターを求める。逃走は不可能だと思って」
このスライム、用意周到すぎる。
こうなったらアルカリオンやローズマリーが異変に気付いて助けに来てくれるのを待つしかない。
俺は覚悟を決めて、助けを待つのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「精子卵子は医学的知識なので何も恥じる必要はない」
レ「めっちゃ堂々としてる……」
「医学的知識なのでセーフ」「このスライム思想偏ってて好き」「あとがき開き直ってて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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