第39話 捨てられ王子、ルームメイトと顔を合わせる




『あ、今日からレイくんには女子寮で過ごしてもらうから』



 あまりにも意味不明で思考が停止した。

 しかし、その意味を理解するまでヴィオレッタは待ってくれなかった。


 俺は今、ヴィオレッタに連れられて女子寮を案内されている。



「やっぱり納得できない」


「坊や、往生際が悪いですよ。レッツエンジョイ女子寮」


「真顔で言われても……」



 メイド姿の少女アルカリオンが変わらず無表情で言う。

 しかし、今の状況に結構ノリノリなのは親しい者が見たら分かるだろう。


 いやまあ、俺だって百歩譲って女子寮で暮らすだけなら別に構わないのだ。問題だろうけど。


 でもそれ以上の問題が一つ。


 俺の尊厳に関する問題が一つ生じてしまっているのだ。



「なんで!? なんで俺は女装してんの!?」


「似合ってますよ、坊や」


「んふふ、やっぱり可愛いわあ!!」



 そう、俺は何故か女子用の制服を着せられている。


 ご丁寧にウィッグまで用意されていた。



「屈辱……ッ!! 男としてのプライドが、足下から崩壊しそうな音がするッ!!」


「男子が正面から女子寮に入ることは不可能ですから」


「見つかったらどうするの!? 寮ってお風呂とか共用でしょ!? 見つかったらどうするの!? 何なら複数人と同じ部屋で過ごすんでしょ!?」


「ご安心を。坊やのことは『突発的に男性器が生える病』だと説明します」


「わー、なら安心!! ってならないぞ!?」



 駄目だ、アルカリオンじゃ話が通じない。



「ヴィオレッタ!! は、アルカリオン側だよな」


「ふふ、何なら私が提案者よ」



 ヴィオレッタが実に良い笑顔でピースしながら言う。言い出しっぺか。


 こうなったらローズマリーにどうにか連絡を取ってアルカリオンを叱ってもらおうそうしよう。


 と、その時だった。



「坊や。冷静になって考えてみてください」


「何を――」


「想像してください。何人もの美少女たちと一つ屋根の下で過ごす一時を」


「……」



 いや、そうは言ってもな。


 偶然かも知れないが、たしかに学園で見かける女性は教師も含めて美少女美女が多い気はする。


 でも、だからと言って男の『お』の字も知らない無垢な少女たちの花園に男が立ち入って良い理由にはならないだろう。


 エロゲーやギャルゲーのような、女子寮に潜入してラッキースケベ的な展開を期待するのは良くない。


 断じて、良くない!! けども!!


 正直めちゃくちゃスリルがあって興奮するとは思うけれど、人道的に良くない!!



「ヴィオレッタ。もう一押しです」


「うふふ、実はレイくんにお願いがあってこんなことを頼んでいるの」


「え、お願い?」



 俺が首を傾げると、ヴィオレッタは困り果てたように話し始めた。



「学園の生徒の私物が荒らされている事件は知っているわよね?」


「あ、あー、那由多が疑われてたやつか」


「その犯人が生徒たちの中にいるかも知れない。これはお遊びじゃなくて、言わば潜入捜査なの!!」


「潜入、捜査……」



 俺は少し自分を恥じた。


 そうだ、そうだよな。仮にも一国の女帝とその長女が俺を女装させたいとか、そういう欲望に駆られてこんなことをやるわけがない。



「ん? でもわざわざ俺が女装する必要は無くないか? 女子寮には那由多を入れて、俺は男子寮に入れる方が合理的じゃ――」


「坊やの安全のためでもあるのです」


「え?」



 まるで俺が都合の悪い事実に辿り着きそうなタイミングで、アルカリオンが被せるように言ってきた。



「坊やの弟を逃がした者は未だ判明しておらず、もしかしたら坊やが狙われるかも知れない。そんな状況で城と学園を行き来するのはリスクを伴います」


「まあ、たしかに?」


「ならば最初から立ち入れる者が限られる学園に坊やを置き、より警備を厳重にすることで坊やを守りやすくなる。そう思いませんか?」


「……なんかそんな気がしてきたけど、でもやっぱり俺が女装してまで女子寮に潜入する必要は――」


「あります。男子寮よりも女子寮の方が数倍は警備が厳重なので」



 無表情のアルカリオンから威圧感を感じる。


 アルカリオンがそう言うということは、本当にそうなのかも知れない。そんな気がしてきた。



「――よし、分かった!!」



 ちょうど暇していたのだ。


 俺は本来なら那由多の付き添いで学園に通うようになったもの。

 しかし、その那由多はすでに多くの友達を作っていてむしろ俺の方が浮いている始末。


 俺がやったことと言えば、というかやらかしたことと言えばベリメアとめちゃくちゃエッチしたくらいだ。


 このままでは俺は何もできない、いや、ナニしかできない男になってしまう。


 それは回避せねばならない。



「俺が生徒たちの私物を荒らして困らせている犯人を捕まえる!! たまには役に立つ男だと証明する!!」



 俺はやる気を漲らせながら決意した。


 そんな俺のすぐ後ろで、アルカリオンがボソッと何かを呟いた。



「何事も適当に言ってみるものですね」


「流石はお母様。素晴らしい説得でしたわ」


「ん? 二人とも何か言った?」


「うふふ。いえいえ、何でもありません。それよりもほら、ここがレイくんとレイくんが共に過ごすルームメイトたちの部屋ですよ」



 そう言ってヴィオレッタが足を止めたのは、四人部屋の部屋だった。


 その中の一人には見覚えがある。那由多だ。



「!?」



 那由多が俺の方を見てギョッとしており、俺が女子寮に住むことを知らされていなかったのだと一目で分かった。


 残るルームメイトは二人。


 いずれも興味深そうに俺の方にちらちらと視線を向けてきた。



「りじちょーせんせー!! その子が新しいルームメイト!?」


「そうですよ、テナウちゃん」


「わー!! ちっちゃくて超かわいいー!! ねぇねぇ、歳いくつ!?」


「え、えーと、十と少し……?」


「あー!! あたしと一緒で自分の年齢把握してないタイプだー!! よろしくー!!」



 テナウと名乗った赤髪サイドテールの少女は、とても小さかった。


 俺よりも更に小さい。


 しかし、その顔立ちは恐ろしく整っており、ハッキリ言って美少女だった。いや、美幼女と呼ぶのが相応しいだろうか。



「テナウ、レイ殿が困惑しておられるではないか。そなたは勢いがありすぎる」


「あ、ごめーん!!」


「テナウが失礼した。悪いヤツではないが、あの通り勢いだけで生きている奴でな。代わりに謝罪させてくれ」


「い、いえいえ!! お気になさらず!!」


「そう言ってもらえると助かる」



 朗らかに微笑む黒髪ポニーテールの少女を見て、俺は少しばかり驚いていた。


 その少女の格好に見覚えがあったからだ。



「着物……?」


「む、貴殿も拙者の故郷所縁の衣服を知っているのか。何もない田舎だが、こうまで知られていると嬉しいものだな」


「あー、えっと、まあ、はい」



 貴殿も、ということはおそらく那由多も同じような反応をしたのだろう。


 この世界で和服と言って差し支えないものを見たのは何気に初めてかも知れない。



「と、申し遅れた。拙者はカナデと言う。部屋長を務めている故、何かを分からないことがあれば聞くと良い」



 部屋長……。


 ルームメイトのリーダー的な存在という認識で良いのだろうか。


 と、その時だった。

 アルカリオンが誰にも聞こえないよう、こっそり耳打ちしてきた。



「坊やは『突発的に男性器が生える病』で困っている王国の令嬢で、那由多の友人であり、学園では男性として振る舞っているという設定です。私は坊やのメイドという設定なので、常に側にいます」


「せ、設定がややこしい……」


「あと、坊やのお世話は下の世話も含めて基本的に私がしますのでご安心を」



 ……色々と不安はあるけども。


 取り敢えず俺はルームメイトたちの目を盗み、メイドリオンとめちゃくちゃエッチした。


 プライバシーを保証しているとでも言おうか。

 どうやら女子寮の四人部屋は小さな談話室が中心にあり、そこから更に個人の部屋へと繋がっているらしい。


 お陰でこっそり那由多と部屋でエッチすることもできて最高でした、ハイ。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者は元気っ娘がある状況においてしおらしくなる様を想像して興奮する」


レ「お巡りさんこいつです」


作者「最近ノクターンに投稿し始めました。タイトルは『過去に戻った俺は鈍感な友人が好きな女たちを寝取って犯して生きてイクっ!』です。エロ全振りなので時間のある方はどうぞ」



「似た者母娘で草」「あとがき分かる」「レイシェルも通報される側だろ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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