第37話 捨てられ王子、スライムをテイムする





「レイ。いや、今は敢えてレイシェル殿とお呼びしよう」


「え? あ、はい」



 スライムを探して森を彷徨うことしばらく。


 何の前触れも無くベリメアが俺を本名で呼び、話しかけてきた。


 ベリメアは何やら真剣な面持ちだ。



「何です?」


「……貴殿は、本当にローズマリーの言っていたレイシェル殿で間違いないのだろうか?」



 俺はベリメアの発言に少し驚愕する。


 教師陣は俺の正体を知ってるみたいだし、別に本名で名前を呼ばれ、声をかけられることはおかしくない。


 俺が驚いたのはベリメアがローズマリーと知り合いのような物言いをしたからだ。



「ローズマリーと知り合いなんですか?」


「……その反応、どうやら本当のようだ。ああ、昔戦場で世話になってな。たまに飲む仲だ」


「はぇー」


「で、だ。一つ訊きたいことがある。どうしても解せないことがあってな」


「何です?」



 ベリメアは変わらず真剣な面持ちで言う。



「ローズマリーとの馴れ初めを聞かせてくれ」


「え、何? 急に?」


「いや、その……。ローズマリーは自分よりも強い男が好みだと言っていたものだから、気になったのだ。……その、な……」



 ベリメアが俺の頭から爪先を舐め回すように見つめてくる。


 あー、なるほど。



「俺がチビで弱っちそうだから、何か卑怯な手でも使ってローズマリーを脅したのかと思ってんの?」


「え? いや、そこまでは思っていないが……」


「顔に書いてあるぞ」



 まったく、失礼な奴だ!!



「別に本人から聞いたわけじゃないけど、戦場で怪我を治療したんだよ」


「それだけ、か?」


「それだけ」


「……そうか。嘘の匂いはしないな……」



 ベリメアがすんすんと鼻を鳴らして納得したように頷いた。


 嘘の匂いってなんだ?



「……ところで」


「今度は何だ?」


「……その、だな……どうして貴殿は欲情しているのだ?」



 頬を赤らめながら、俺の股間をちらちら見ながら訊ねてくるベリメア。


 な、なんて白々しい。


 ホットパンツにヘソ出しタンクトップという、男の性癖をねじ曲げにきている格好をしながら言う台詞ではない。


 まあ、前傾姿勢で行動している俺も不審っちゃあ不審かも知れないが。



「先生のせいですよ」


「じょ、冗談はよせ。私は女の魅力に乏しいだろう?」



 無自覚かよ。



「あのですね、ベリメア先生。そんな露出した格好に魅力を感じない男はいませんよ」


「いや、これは動きやすいからで。ま、まあ、多少は女をアピールするために着ているというのも否定は出来ないが……」


「そ、そっすか」



 と、二人で雑談しながら森の中を彷徨い、授業の目的であるスライムを探していた、ちょうどその時だった。



「っ、しまっ――」


「え? うお、スライム!?」



 どうやら木の上に潜んでいたスライムがベリメアに飛び付いてきたのだ。


 スライムは獲物を窒息させ、吸収する魔物。


 種類によっては触れるだけで肉や骨を溶かす危険な魔物だが、学園の敷地内に放し飼いしているスライムはそこまで危険な奴ではない。


 触れても肌の汚れが綺麗になる弱酸性だ。


 ただし、頭に飛び付かれたら流石に窒息してしまうかも知れない。


 俺は慌てて駆け寄り、足を止める。



「……おうふ」



 どうやら頭には飛び付かれず、窒息する心配は無さそうだった。


 代わりにスライムはベリメアの身体をまさぐるように絡み付いており、服の下にまで侵入しているらしい。


 身動きが封じられているようで、スライムは触手のように蠢いている。


 俺は更に前傾姿勢となり、動けなくなった。



「くっ、油断した!! レイシェル殿、いや、レイ!! 私の代わりにスライムを――って、何をしているのだ!?」


「……いや、その……これは、ちょっと……」



 俺は愛刀を昂らせながら、スライムを倒そうと隙を窺う。



「ひゃあっ、ちょ、スライムが耳の中に!? あ、や、やめ、尻尾の付け根はぁっ」


「……ごくり」



 スライムはベリメアを窒息させる気がないのか、代わりに彼女の身体の至るところに触手を伸ばしてまさぐっている。


 獣人であるベリメアの狼耳の中に触手を出し入れしたり、尻尾の周りを撫で回しているのだ。


 ……何故だろうか。


 俺はこのスライムを倒すのではなく、テイムしたがっている。



「すぅー、ふぅー」



 俺は事前に配られたバッグの中から魔物の餌を取り出し、スライムに与えてみる。


 この魔物の餌、何気に重要なものだ。


 ワイバーンのような知能の高い魔物は卵から孵してからこの餌を与え続けることで、その者に従うらしい。


 まあ、これはスライム用で、ワイバーンに与える餌は極秘中の極秘。


 素材や配合方法を知るのは極一部なようで、製法を盗まれる心配は無いのだとアルカリオンが前に言っていた。


 スライムは俺が手に持っている餌に気付いて、ゆっくりと触手を伸ばしてきた。



「――♪」


「お? お、おお、懐いた……」



 俺から餌を受け取り、嬉々として体内に取り込むスライム。


 ちょっとかわいい。


 テイムしたスライムとしばらく戯れていると、ベリメアが苛立った声音で言う。



「テイムしたなら早くこれを止めさせてくれ!!」



 なんと、俺とスライムが戯れている間にもベリメアへの責めは続いていた。


 ベリメアは爪先をピンと伸ばしており、色々と限界なようだ。



「……」


「お、おい、レイシェル殿? その、か、顔が怖いのだが……。ま、待て!! 何故ズボンを下ろしている!?」


「……その、本当に申し訳ないですけど……」



 俺は雄々しく叫ぶ。



「俺も我慢の限界なんですよ!!」


「なあ!? い、いや、待て!! わ、分かった!! 後でシよう!! スライムをどうにかした後でなら好きにして良いから!!」



 当然、我慢できなかった俺はベリメアとスライムプレイに興じた。












 一発やらかしてから、頭がすーっと冷静になる。



「その、すみませんでした」


「い、いや、状況が状況だった。仕方ないことだったと割り切ろう、うむ」



 俺は無事にスライムをテイムすることに成功し、集合場所に向かっている。


 スライムの名前はライムにした。


 安直だとベリメアに言われてしまったが、俺にとっては覚えやすくて良い名前だと思う。

 ライムも俺の腕の中でぷるぷるしてとても嬉しそうである。



「しかし、合点が行ったな」


「何がです?」



 不意にベリメアが頬を赤らめながら、俺の股間を見つめて頷いた。



「ローズマリーが貴殿に惚れた理由だ。その、貴殿は確かに逞しい男のようだ」


「……そういうこと言わないでくださいよ。興奮します」


「あ、す、すまん。って、言っておくが今回のことは誰にも言うんじゃないぞ!! ローズマリーに殺される!!」



 どうだろ?


 ローズマリーは男が浮気したら相手の女じゃなくて男にキレるタイプだし、大丈夫だと思う。


 何はともあれ。


 俺は無事にスライムをテイムし、授業の課題をクリアすることができた。


 トラブルが起こったのは、その翌日だった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「スライム欲しいなあ」


レ「分かる」



「スライム最高」「やっぱりベリメアに手を出したか」「絶対に作者悪用しそう」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る