第35話 捨てられ王子、侮る
俺はふと思った。
冷静に考えてみると、俺の妻たちの中にお姉ちゃん属性を持つ人物はいない。
ローズマリーやアルカリオン、オリヴィアは少し違う。
俺を過剰なほど甘やかしまくったり、頭を撫で回したりしてくるが、彼女たちはお姉ちゃんではなくママだ。
サリオンや那由多は世話が焼けるというか、色々心配になるからお姉ちゃんではない。
アイルインやブルーメは……。
飲んだくれと中身エロオヤジだから、こちらもお姉ちゃんではない。
イェローナもお姉ちゃんって感じはしないな。
クリントは優しく俺を甘やかしてくれるし、膝枕もしてくれるからお姉ちゃんっぽいが、容姿は妹っぽい。
エリザもお姉ちゃんではない。
そう、足りないのだ。俺にはお姉ちゃんが足りなかったのだ。
「……ヴィオレッタお姉ちゃん!!」
「んがわ゛い゛い゛っ♡」
最初は一瞬何を言われたのか分からなくて硬直してしまったが、俺は躊躇わずヴィオレッタに抱き着いた。
すると、彼女は優しく俺を抱き止める。
そのまま大きくてやわっこいおっぱいに顔を埋められて頭を撫でられた。
「やっぱり間違いないわ。貴方が私の理想の男の子だったのね」
「おうふ」
何故かは分からないが、ヴィオレッタの俺に対する好感度はかなり高いようだった。
俺が疑問に思いながらもヴィオレッタのおっぱいを堪能していると、彼女は柔らかい笑みを浮かべる。
その微笑みは聖女のような清らかさと、どこか妖艶な雰囲気を含んでいた。
「私はね、ずっと運命の人を探していたの。私に触れても平気な人を、ずーっと」
「?」
少し意味を理解できなくて首を傾げていると、彼女は自らの生い立ちを語った。
「私はね、大淫魔の血を引いているの。もう大昔に亡くなったお父様は人間だったのだけれど、先祖返りという奴ね」
「淫魔ってサキュバスとか、そういうの? 耳長いし、エルフかと思った」
「それも間違いではないわ。複雑なのだけど、エルフの血も引いているから。でも私は淫魔の血が強いの。男の人を襲って、その精を搾り尽くす存在……。怖いかしら?」
「全然」
ぶっちゃけ、純粋なこの世界の人間なら抵抗はあったかも知れない。
しかし、前世で日本というエロとアニメで発展したような国で育ったからか、サキュバスは一種の属性と認識している。
俺が至って真顔でヴィオレッタの問いに頷くと、彼女は間の抜けた表情を見せた。
「ふふ、うふふふ。やっぱり、予言は正しかったのね」
「予言?」
「私は先祖返りだからか淫魔の力が強くて、男の人に触れるだけで、その人から精を奪ってしまうの。ほんの一瞬触れるだけで死なせてしまうくらいには」
「ほぇー。あ、ホントだ」
そう言われてからハッとする。
たしかに、ヴィオレッタに抱きついてから身体の奥底から何かを吸われている感覚があった。
「だから、その、生まれてこの方、男性とお付き合いした経験すら無くて……。ある時、お母様の知り合いにお願いして未来を予言してもらったの」
「ふむふむ?」
「そうしたら、何人もの女の子を侍らせてるすっごい絶倫の男の子が私を愛してくれるって言われて。その男の子はお母様や末の妹、その他沢山の女の子と関係を持つから、現れたらすぐ分かるって教えてもらったの」
その預言者が何者か気になる。
だってめっちゃピンポイントで俺のこと当ててんだもん!! 凄いな、その預言者!!
「でも、なんでお姉ちゃん?」
「それも預言者様に教えてもらったの。私が運命の男の子に出会う時、その子は無意識に『お姉ちゃん』を求めているって。これには預言者様も首を傾げていたけれど、大当たりだったみたいね」
「預言者しゅごい」
「うふふ、本当に、男の人に触れているわ……。不思議な気分。ああ、食べちゃいたいくらい可愛いわ、レイシェルくん♡」
と、そこで俺は異変に気付いた。
何やらヴィオレッタの目が肉食獣のような、ギラギラした目で俺を見つめている。
それは政務で一週間くらい俺とエッチできなかったアルカリオンや、訓練で三日くらいエッチできなかったローズマリーと同じような目だった。
これ、アカンやつや。
普段なら十人を相手に何回戦しても平気な俺ですら翌日には足腰立たなくなるくらいこってり搾られてしまうやつや。
「ねぇ、レイシェルくん♡ お姉ちゃん、実はまだそういう経験が無くて……♡」
「……ごくり」
「もし良かったら、お姉ちゃんの……貰ってくれる?」
そんなことを言われて我慢できる男が果たしているだろうか。
いや、いない。
「いただきます!!」
「あんっ♡ ああっ、本当に可愛い子っ♡ お姉ちゃんって呼んでっ♡」
「お姉ちゃんっ!! 大好き!!」
一言言わせてもらうなら、俺はサキュバスを侮っていた。
俺はその日、一日中ずっと理事長室でヴィオレッタと共に過ごすのであった。
◆
sideアルカリオン
アルカリオンは執務室で政務をこなしながら、ふと窓の外を眺めていた。
「レイシェルが心配ですか、母上」
「……ローズマリー。今日の訓練は終わったようですね」
「はい」
アルカリオンの執務室に入ってきたのは、愛しの娘であるローズマリーだった。
訓練終わりで少々汗を掻いているが、アルカリオンは「坊やならこの状態のローズマリーとエッチしたがりそうですね」などと考える。
アルカリオンは表情をピクリとも変えないため、端から見ても分からないが……。
娘のローズマリーには少し分かる。
「また何か変なことを考えていますね……」
「……そんなことありませんが」
さっと視線を逸らすアルカリオン。
「しかし、そうですね。たしかに坊やが心配ではあります。今頃はヴィオレッタとエッチしているでしょう」
「意外、ですね」
「?」
「母上であれば、レイシェルの魅力が一人でも多くの女性に知られることを喜ぶかと思いました。ましてや先祖返りのせいで、今まで男性とまともな関係を構築できなかったヴィオレッタ姉上のことを心配していましたし、もっと積極的に二人を引き合わせるかと思っていたのですが……」
ローズマリーは知っていた。
こっそり手を回し、二人が出会わないようにしていたことを。
アルカリオンが静かに頷いた。
「……そうですね、その通りです。ただ一度、ヴィオレッタとレイシェルを引き合わせた際の未来を視てしまったことがありまして。その未来を視て、不安になったのです」
その発言に対し、ローズマリーは驚愕する。
ローズマリーにとって、アルカリオンは母親ではあるが、神にも等しい力を持った存在だ。
その超存在が不安になるほどの未来……。
ローズマリーは思わずごくりと生唾を飲み、アルカリオンに問いかける。
「一体、未来で何が起こると言うのですか?」
「ヴィオレッタの身体に流れる淫魔の血が坊やを覚醒させ、何十人もの女の子を抱いても満足できないようになるのです」
「……え? は?」
真面目な顔で言うアルカリオンに、ローズマリーは絶句する。
「今はエッチの時に坊やに主導権はありませんが、数年後には私たちが可愛がられる立場になるでしょう。まあ、坊やは甘えたい時期と可愛がりたい時期が交互に来るようなので、そこは大して問題ではありません」
「は、母上!? 先程から真面目な顔で何を言ってるのですか!?」
「事実、真面目な話です。坊やはいずれ、いくら女性を抱いても満足できなくなります。これはヴィオレッタと引き合わせることで早まりますが、引き合わせずとも起こることが確定した未来です」
「む、ぅ……」
ローズマリーは複雑な胸中になる。
愛する男が他の女を求める光景は耐えがたいが、今ですらローズマリー単身でレイシェルを満足させるのは大変だ。
それが数年後には大勢を相手にしても抑えられなくなる……。
「なので早めに坊やの性欲を覚醒させて、坊や好みの女性を集めた親衛隊でも作ろうと考えました。親衛隊には護衛という役割も与えます。最近は何かと物騒ですし。実力は後から鍛えれば良いので、重要なのは坊やの好みであることですね」
「……まさかとは思いますが、レイシェルを学園に通わせたのは……」
「はい。坊やのことですから、我慢できなくて大勢の学園の女子に手を出すことでしょう。その子たちを坊やの親衛隊にします」
「な、なるほど。しかし、よくレイシェルがそんな理由で学園に行くことにしましたね」
「ええ。流石にありのままを言ったら坊やは遠慮するでしょうし、そこは適当なことを言っておきました。一人では不安らしい那由多のためという理由では納得できなかったようなので、学園の様子を秘密裏に視察して欲しいとか何とか言って」
ローズマリーは呆れ返る。
しかし、同時に安心もした。少し前までは機械的ですらあった母が、真面目な顔で馬鹿なことをしているから。
ローズマリーの幼い頃に父が亡くなってから感情を失ったようだった母が、楽しそうだったから。
そう思いながら、ローズマリーはレイシェルの通うことになった学園がある方を窓から見つめるのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「サキュバスエルフでした!!」
レ「サキュバスエルフシスター……」
「サキュバス、だと!?」「属性盛り過ぎ」「最高の組み合わせ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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