第34話 捨てられ王子、理事長に会う





「お、おお、意外と似合ってるな、俺」



 鏡の前に立ち、自分の格好を見る。


 帝都の学園に通う前に改めて制服の着心地を確かめていた。


 ちなみにブレザーではない。


 前世の中高生時代は学ランだったのでブレザーに少し憧れていたのだが、それらとはまた違うデザインの制服だった。


 黒基調の軍服と説明した方が分かりやすいかも知れない。



「あとは伊達メガネをかけて、変装は完璧!!」



 俺は今日から身分を隠して学園に通う。


 以前、エリザとローズマリーが決闘を行った時や結婚式の際に俺の顔は全国民に割れているからな。


 伊達メガネ程度では誤魔化せないと思われるかも知れないが、実はそうでもない。

 この伊達メガネはイェローナが開発した認識阻害機能が付いた伊達メガネで、顔を正確に認識できなくなる。


 ローズマリーやアルカリオンのような親しい者は気付けるが、その他の人には分からないって感じだな。


 本当にイェローナは凄い。



「さて、行くか!!」



 俺は部屋を出て、那由多を迎えに行く。


 日本では現役の女子中学生だったみたいだし、きっと制服も似合うだろう。


 そう思って那由多の部屋に来たのだが……。



「おーい、那由多ー? ……寝てるのか?」



 いくら扉をノックしても反応が無い。


 まさか登校初日に寝坊してるとか、そういうことは無いよな。


 無い、はず……。


 そう言えば那由多っていつも朝は眠そうにしてたような気がする。



「じゃ、邪魔するぞ!!」



 扉を開けると、那由多の姿は無い。


 いや、正確にはある。ベッドの中で毛布にくるまってぐっすり眠っている。



「ね、寝てる……寝てる!?」



 や、やばい。


 登校初日に遅刻とか絶対に先生に目を付けられる行為だぞ。

 侍女にお世話されるのは苦手だからと遠ざけていたのが災いしてしまった。


 俺は大慌てで那由多の毛布にくるまっている毛布を剥ぎ取って起こす。


 

「那由多!! 今すぐ起き――」


「んぅ、むにゃむにゃ……」



 思わず言葉を詰まらせる。


 何故なら毛布を剥ぎ取った那由多は、下着一枚すらまとっていない状態だったから。


 こうして見ると、那由多はスタイルが良い。


 慎ましくはあるが、たしかな膨らみのある胸とキュッと細く括れている腰。


 ……ごくり。



「はっ!! ダ、ダメダメ。朝からは駄目!! 那由多、ほら起きて!!」


「んぅ、お母さん、あと五分寝かせてぇ」


「誰がお母さんだ!!」


「私が十歳の時にお父さんが浮気したショックで男を作って出て行ったお母さん……」



 な、那由多って複雑な家庭だったのか。


 いや、気になるけど、今はどうにか那由多を起こさないと!!



「んむぅ、レイシェルさぁん、もっと寝かせてよぉ」


「遅刻しちゃうでしょ!! ほら、制服着て!! 髪も整えて!!」


「んぅ」



 普段の元気な明るい那由多とのギャップでつい世話を焼きたくなる。



「ち、遅刻しちゃうよー!! もっと早く起こしてよー!!」


「起こしたよ。那由多が中々起きなかったんだから」



 俺たちは全力ダッシュで学園に向かった。


 幸いにも帝都の学園――ヴィオレッタ学園は帝城からそう遠くない場所にある。


 那由多が寝坊した以外には特にトラブルも無く、俺たちは無事にヴィオレッタ学園に到着することができた。


 ヴィオレッタ学園は、貴賤を問わずその門戸を開いている場所。


 学園の敷地内に入ると馬車で登校している貴族と思わしき少年少女や、平民と思わしき子供が談笑していた。


 流石に貴族と平民でグループは分かれており、分け隔てないという様子では無いが……。



「なんか、良い雰囲気だな」


「ですね!! っと、私たちってどの教室に行けば良いんですか?」


「那由多、アルカリオンの説明を聞いてなかったのか?」


「へ?」



 どうやら那由多は聞いていなかったらしい。



「俺たちは編入扱いだからな。まずは理事長室に行って色々と手続きしなきゃいけない」


「ほぇー。でも理事長室ってどこなんですか?」


「……さあ?」



 そう言えばアルカリオンは肝心な理事長室の場所を言っていなかった。


 ちょっと抜けているところはアルカリオンの可愛いところだが、本当に困ったぞ。



「お、先生っぽい人を発見。ちょっと聞いてみるか。すみませーん!!」



 俺は学生とは違う、スーツのような服を着た女性に声をかける。


 その女性はこちらに振り向いて、柔らかい笑みを浮かべた。



「はい、何かありましたか?」


「すみません。俺ら今日から学園に編入する生徒なんですが、理事長室に来るよう言われていて。でも場所が分からないんです」


「へ、編入生で、り、理事長室に?」



 笑顔だった女性教師が凍りつき、周囲の生徒たちに聞こえないよう、小声で話しかけてきた。



「も、もしやお二人がレイシェル様とナユタ様でしょうか?」


「あ、はい」


「し、失礼しました!! こちらです!!」



 もしかしたらアルカリオンは事前に俺たちのことを学園の教師に伝えていたのかも知れない。


 女性教師は緊張した様子で俺たちを案内する。



「こ、こちらが理事長室です!! では私はこれで!!」



 こちらがお礼を言う隙も無く、女性教師は足早に去ってしまった。


 まあ、俺って皇配だもんな。


 下手なことをして不敬罪で処されるとか絶対に嫌だろうし。

 俺が教師の立場だったらあまり関わらないようにするかも知れない。


 名も知らない女性教師に申し訳なく思いながら、俺は理事長室の扉をノックした。



『どうぞ』



 扉の向こう側から返事が返ってきたので、俺たちは中に入った。


 すると、絶世の美女が立っていた。



「初めまして、ヴィオレッタと申します」



 そう言って優雅な一礼をして見せたのは、紫色の長い髪と瞳が特徴的な女性だった。

 アルカリオンやローズマリー程ではないが、モデルのように身長が高い。


 そして、スタイルは超抜群だった。


 おっぱいが大きくて腰がキュッと細く締まっており、脚が長い。


 よく見ると、ヴィオレッタの耳は尖っていた。


 もしかしてエルフだろうか。

 いや、エルフの耳にしては少し短い気がするし、何らかの種族のハーフかも知れないな。


 何より俺たちの視線を釘付けにしたのが……。



「「なんか凄いエッチな格好してる!!」」



 それはシスターのような格好だった。


 スリットが深く入っており、ガーターベルト付きの長いソックスを穿いた太ももが露出している。


 また、胸元が大きく開いていて、ド◯キの大人向けコーナーに置いてあるコスプレ衣装に見えなくも無い。


 

「うふふ、正直な子たちですね。貴女が那由多ちゃんで、そちらが……」


「レイシェルです」


「……そう。貴方がお母様とローズマリーの……」


「え?」



 ヴィオレッタの物言いに思わず首を傾げたが、前も似たようなやり取りを何度かやったような気がする。



「改めて、私はヴィオレッタ。母、アルカリオンの第一子になります」


「「!?」」



 どうやらヴィオレッタはアルカリオンの第一子であり、この学園の理事長らしい。


 というか、この学園は教師になりたいというヴィオレッタのわがままにアルカリオンが応えて作ったそうだ。


 言われてみれば学園の名前もヴィオレッタだし、アルカリオンの娘たちに対する溺愛っぷりは凄いな。


 俺との間に子供ができたら、俺以上に溺愛しそうである。


 そんなことを考えながら諸々の手続きを済ませ、いざ教室へ!!

 というタイミングで、ヴィオレッタが俺だけを呼び止めた。



「案内を付けるから、那由多ちゃんは先に教室に行っていてくれますか?」


「はーい!!」



 元気に返事をした那由多が理事長室を出て、案内役の教師に追従する。


 俺はヴィオレッタと二人きりになってしまった。


 俺だけ呼び止めるということは、何か用事があるのだろうか。


 そう言えば俺やローズマリー、アルカリオンとの結婚式にも来てなかったし、実は反対されていて別れろとか言われるんじゃ……。


 と思ったら。



「うふふ、ああ、なんて可愛いのかしら。皆してずるいわ!! こんな可愛い男の子を、それも犯罪にならない年齢の子を私から遠ざけていたなんて!! この目で見て確信したわ」


「え?」



 そう言うとヴィオレッタは俺にずいっと詰め寄ってきた。



「ねぇ、レイシェルくぅん♡ 私のことぉ、『お姉ちゃん』って呼んで欲しいな♡」


「……え?」


「きゃっ、言っちゃった!!」



 俺は思わずガチめに困惑してしまうのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「こんなお姉ちゃんが欲しい人生だった」


レ「転生するしかない」



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