第33話 捨てられ王子、お喋りする







「あぅ、もう無理ぃ……」


「ず、髄分と疲れてるみたいだな、那由多」



 アルカリオンやオリヴィア、ローズマリーとトリプルママハーレムプレイをした翌日。


 俺は部屋に那由多を招いてお喋りしていた。


 一応、那由多には俺が転生者であることをすでに伝えている。

 別に隠すことではないし、同じ世界の出身ということでもっと仲良くなったしな。


 那由多は俺の専属侍女として性欲処理をしたり、こちらの世界について勉強したりと忙しくしている。


 しかし、今日の那由多は一段と疲れているようだった。



「何かあったのか?」


「聞いてくださいよレイシェルさん!! 宰相のオリガさんってば酷いんですよ!! 私を次の宰相にしたいって言って、一日に二百冊くらいの本を読ませようとするんですよ!?」



 あ、そうそう。


 那由多に関して面白いというか、興味深いことが分かった。


 どうやら異世界からの召喚者は歳を取らないらしい。

 エルフのように寿命が長大なのではなく、肉体の老化が止まってしまうそうだ。


 アルカリオンからその話を聞いて目の色を変えたのは、アガードラムーン連邦帝王国の宰相ことハイエルフのオリガだった。



『ようやく適任が現れた!!』



 どうやらオリガは昔から自分の後任を探していたらしい。


 彼女はアルカリオンと最も付き合いが長く、その分彼女の突拍子もない行動に翻弄されることがしばしばあったそうだ。


 その結果、オリガは後任を探すようになった。


 しかし、寿命の短い種族に宰相の地位を任せては世代交代が早まってしまう。


 そうなると真面目に仕事をこなす有能な人間を後任に指名しても、いつかは人に媚びるのが上手いだけの無能が宰相になるかも知れない。


 それだけならまだ良いが、もしそいつが野心溢れる者だったら?


 宰相という、本来ならアルカリオンをサポートする立場から彼女に迷惑をかけるだけの存在になりかねない。


 だったら長命で有能な者を後任の宰相に指名して自分は隠居したい。


 というのがオリガの考えらしい。



「私には無理ですって言っても、転移特典のチート能力のこと話しちゃったから大丈夫って言われまして」


「あー、たしか『大賢人』だっけか」


「そう!! 不思議空間で女神様から貰ったんだけど、すっごい便利なんですよ!!」



 那由多はこの世界に召喚される前、不思議空間で女神に会ってチート能力を授かったらしい。


 そして、彼女の授かった『大賢人』は中々どうしてチートだった。



「その気になれば知らなくて良いことまで知れちゃう能力だったよな。なんでそんなのお願いしたんだ?」


「いやあ、私いつも学校のテストで下から数えた方が早かったので、どうせなら頭が良くなりたいなーって思って。そしたら聞けば何でも教えてくれるチート能力をもらったんです」


「……なるほど」



 そしたら女神からヤバめの能力を授かったと。


 アルカリオンが言っていたことだが、那由多の『大賢人』は竜の眼に性質が似ているらしい。


 ただ『大賢人』は人工知能みたいなもので、慣れないと脳がぶっ壊れる量の情報が入ってくる竜の眼よりは扱いやすい。


 ならこの『大賢人』の何がヤバいって、何でも知れることがヤバいのだ。



「いやあ、前に興味本位で宇宙の成り立ちを訊いたら発狂しちゃって困りましたよねぇ」


「笑い事じゃないぞ」



 那由多の能力は何でも知ることができる。


 なんかこう、コズミックホラー的な、本能的恐怖みたいなことも知れるようだ。

 咄嗟に『完全再生』で治さなかったら大変なことになっていた。


 まあ、あの一件のお陰で俺の『完全再生』は精神にも作用すると分かったので、悪いことばかりではなかったが。



「宰相さんは『その力があれば私よりアルカリオン陛下の突拍子もない行動を捌ける』とか言ってたんですけどね」


「『大賢人』はその時の最適解も教えてくれるんだろ?」


「問題はそこじゃないんです。その能力に頼らない知識と教養は必要だって無限読書編に突入してるんですもん。うん、やっぱり責任重大すぎる!! いきなり次の宰相になってとか言われても無理だよぉ!!」


「では、帝都の学園に通いますか?」



 俺と那由多が駄弁っていると、アルカリオンがクローゼットから出てきた。


 おかしい。前にアルカリオンが出てきてから鍵も付けていたのに。



「アルカリオン、なんでいつも俺のクローゼットから出てくるの!?」


「机の下やベッドの下、カーテンの裏には私の身体では隠れられないので」


「そういうことじゃない!!」



 ビックリするのだ、すごく。



「って、学園?」


「はい。主に竜騎士や官僚を育成するための学園ですが、貴賤を問わず入学できます。ローズマリーもそこで竜騎士としての腕を磨きましたし」


「う、うーん。申し出はありがたいんですけど、異世界に来てまで勉強かあ。まあ、生きていく上では必要でしょうけど。いや、でもなあ」


「何か懸念でも?」


「い、いやあ、その、ほら。知り合いのいない場所にいきなり放り込まれるのはちょっと……」



 どうやら那由多は意外と人見知りしてしまうタイプらしい。


 と、そこでアルカリオンが耳を疑うようなとんでもない提案をした。



「では坊やと一緒に通っては?」


「ほぇ?」


「ふぁ?」



 俺と那由多が同時に間の抜けた声を漏らす。



「え、いや、アルカリオン? それはどういう?」


「この世界で最も那由多が心と股を開いているのは坊やです」


「今めっちゃ下ネタ言った?」


「坊やは小柄で童顔ですし、十代前半でも通じますから。流石に身分を隠す必要はあるでしょうが」



 俺はちょっと想像する。


 学生服を着て那由多と一緒に登校し、学園生活を謳歌する光景を。



「いや、キッツ」



 こちとら前世の年齢を含めたらそれなりに良い年齢をしているのだ。


 流石にこの歳で学生服はキツイ。


 あの頃の青春をもう一度楽しめるというのは魅力的だがな。



「おや、それは残念です。私も女教師として潜入し、学生服を着た坊やと禁断恋愛シチュエーションを楽しみたかったのですが」


「絶対にそれが本音でしょ」


「そうですが?」


「堂々と断言した!?」


「実はもうイェローナにお願いして衣装は用意していたのです。坊やの好きそうな丈が短めの、太ももを強調するようなスカートを」


「たしかに好きだけど!!」



 流石はアルカリオン、俺の興奮するツボを分かっている。


 と、そこでアルカリオンが表情をピクリとも変えないで淡々と言った。



「まあ、冗談はさておき。坊やにはお願いしたいことがありまして」


「え? なに?」


「実は――」



 俺はアルカリオンの話を訊いて、それなら仕方ないと納得し、学園に正体を隠して那由多と通うことになるのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「女子生徒食い散らかしそう」


レ「……」



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