第30話 捨てられ王子、初恋の女性を治療する





 俺とサリオンが適当に城を彷徨っていると、ヘクトンの母、つまりは亡くなった父の第二妃であるオリヴィアの寝室に辿り着いた。


 しかも何やらオリヴィアは呪われており、ピクリとも動く気配が無い。


 流石に困惑する。



「え、どうしよこれ? どうしよ?」



 オリヴィアがアルカリオンと同じ呪いに身体を蝕まれている。

 俺は一度に入ってきた情報量に混乱し、堪らず隣のサリオンに意見を求めた。


 すると、サリオンは冷静に一言。



「別に放っておいて良かろう。儂らの目的は小僧の弟じゃ」


「え、あ、そ、そうだよな」


「ほれ、さっさと行くぞ」



 そう言って部屋を出て行こうとするサリオン。


 しかし、俺はベッドで静かに眠るオリヴィアにちらりと視線を向ける。


 最後に会ったのはヘクトンに前線行きを告げられた時か。

 五年という月日が経っても抜群のプロポーションは健在であり、えろい。


 いや、むしろ五年前より熟れていて、とても愛刀を刺激してくる。


 ……ごくり。



「……お主のぅ、正気か?」


「え? な、何が?」



 しばらくオリヴィアを見つめていると、サリオンは呆れた様子で言った。



「その女はお主から王位を奪った弟の母親、それもおそらくは首謀者じゃぞ?」


「う、うん。分かってるよ?」


「なら何故其奴に欲情しておるのじゃ。性格も悪そうじゃし」


「いやあ、そういう性格の悪そうな美女を分からせたいって願望が……。あとこの人、俺の初恋なんだよなあ」


「!?」



 俺のカミングアウトを聞いてサリオンがギョッと目を見開いた。


 実はそうなのだ。


 俺が初めてオリヴィアを見たのは、五歳とかだったと思う。

 ちょうどオリヴィアが父の側妃として城にやってきた日だった。


 きっと俺を大臣の子とでも思ったのか、オリヴィアはドジって何もない場所で躓いた俺に優しい笑顔で話しかけてきたのだ。


 もしかしたらその行為自体が大臣らを味方にするための演技だったのかも知れないが……。


 謀略とか全く分からん俺は惚れてしまった。


 あと単純に身体とかエロかったし、遠目からずっと眺めていた時期もある。


 オリヴィアが父に抱かれたことを知った時はまじで頭が狂いそうだったなあ。

 一時はどうやって父を廃してオリヴィアを手に入れようか本気で考えていたこともある。



「まあ、エロい目で見てるのがバレて本人からは気持ち悪がられてたけど」


「お、お主、色々と逞しいのじゃな。……まあ、お主のしたいようにするがよい。儂は小僧の意志を尊重するのじゃ」


「サリオン……」


「ただまあ、そこな女がお主に危害を加えんとも限らん。儂は臨戦態勢で待機するのじゃ」



 サリオンが俺のすぐ隣にピッタリとくっついてそう言った。


 うちの妻は可愛くてデキる女だなあ。



「……よし。じゃあ、オリヴィアの呪いを解くね!!」



 しかし、その上では問題が一つ。


 俺の『完全再生』は手で直接身体に触れる必要がある。


 ……ごくり。


 アルカリオンを治療した時はローズマリーが脱がしていたが、今回は自分の手で脱がせる。


 相手は血が繋がっていないものの、義理の母に当たる人物である。

 何とも言えない背徳感があり、慎重にオリヴィアの肌を晒していった。



「お、おうふ」



 これは治療行為である。


 オリヴィアの身体を蝕む呪いを除去するための治療行為であり、断じてエロいことをするわけではない。


 我が愛刀が反応しているのも、大きなおっぱいに触るのも治療なのだ!!


 俺は柔らかいオリヴィアの感触を堪能しながら、呪いを確実に取り除いた。

 と、そこで眠っていたオリヴィアの瞼が微かに動いた。



「……ん……」



 うっすらと開いた瞼の奥の青い瞳が俺をボーッと見つめている。


 そして、オリヴィアは一言。



「……アデライト様……」



 俺は一瞬首を傾げたが、すぐその名前が誰を表しているのか分かった。


 アデライト・フォン・アガーラム。


 俺を出産した直後に亡くなってしまった、この世界での俺の母親である。


 どうやらオリヴィアは体力と精神を消耗しており、意識が朦朧としているようで、俺をアデライトと間違えているようだ。


 俺は母親似だからなあ。



「……アデライト様……申し訳ありません……恩人である貴方様の子に……私は酷いことを……でもああするしかなかったのです……」



 それは懺悔のような、思わず零れてしまった独白のようだった。


 俺はその声に耳を傾ける。



「……多くの者が貴方様の子の命を狙っていたのです……神の祝福を受けた子であっても……いつかは死んでしまうかも知れない……戦場の方が……まだ安全だと思ったのです……」



 まあ、毒とか斬首とかなら再生できるけど、生き埋めだと死ぬからな、多分。


 それにしても、俺の知るオリヴィアと目の前にいるオリヴィアは少し違っていた。


 俺の知るオリヴィアってもっとこう、野心的で陰謀を巡らせている悪女って感じのイメージだったのだが……。


 もしかしたら俺は盛大な勘違いをしていたのかも知れない。


 俺は幼い頃から何度も殺されかけている。


 食べ物に毒を混ぜられたり、誘拐されて首を切られたりもした。


 そういう暗殺未遂のうちのいくつかはオリヴィアが指示したものかと思っていたが、俺が勝手にそう決めつけていただけ。


 証拠は何もないし、正室の子である俺が目の上のたんこぶだからだろうという推測だ。


 あれ? もしかしてオリヴィアっていい人?


 俺から王位を奪ったのもヘクトンを王様にしたいからじゃなくて、更に俺を襲うであろう危険から守るため?


 でも俺って最前線に送られたし、安全を願うなら後方陣地に送るはず。


 オリヴィアにバレないよう誰かがこっそり手を回して、俺を最前線に行くよう細工した人物がいるとかそういうパターンだろうか。


 ……いや、ちょっと妄想がすぎるかな?



「……貴方様の子は帝国の捕虜となり……今頃は何をされているか……捕虜、となり……? え?」



 などと考えていたら、次第にオリヴィアの目の焦点が合ってくる。


 バッチリ視線が交差した。



「え? あ、え? な、何故、貴方がここに!?」



 まあ、ある意味当然の反応だろう。


 目覚めて秒で抱き着いてきて結婚を迫ってきたアルカリオンが傑物なのだ。


 俺はひとまずシーツを一枚、オリヴィアに手渡した。



「あ、これどうぞ」


「え? ――ひゃんっ!?」



 あら、可愛い悲鳴。


 自らのあられもない格好に気付いたオリヴィアは慌て胸を隠し、シーツを受け取った。


 俺とオリヴィアの間に微妙な空気が流れる。


 しかし、これと言って俺に敵意を向けてくるわけでもなかった。

 ただ今の状況を飲み込めず、困惑しているようだった。


 と、その時だった。


 今まで俺の隣で黙っていたサリオンが眼を光らせながら爆弾を投下したのである。



「なんじゃ、お主。小僧に女として見られていることに興奮しておるのか」


「「!?」」



 え、ど、どゆこと?



「だ、黙りなさい、無礼者!! と、というか、貴方は何者ですか!!」


「答える義理は無いのじゃ。ただまあ、そうじゃのう。恩人の子に女として見られることに罪悪感があるのか。面倒な女じゃな。どれ、儂が背を押してやるのじゃ♪」


「え? ――きゃっ!!」



 サリオンがオリヴィアに毒を浴びせた。


 殺すための毒ではなく、那由多に食らわせたような媚毒だ。



「はあ♡ はあ♡ はあ♡」


「ほれ、小僧。初恋の女をモノにするチャンスじゃぞ?」


「……」



 ダメだ。さっきもやらかしたばっかじゃないか。


 媚毒で正常な判断ができない女の人に酷いことをするなんてできない。


 俺は服を全て脱ぎ捨てた。


 そして、オリヴィアをベッドに押し倒し、サリオンの方を見てサムズアップする。



「さんきゅー、サリオン!!」


「グッドラック」



 俺はそのままオリヴィアと激しい時間を過ごすのであった。








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「性格キツめのママに甘えてぇ。甘々なママもいいけど、慣れない感じで甘やかされてぇ」


レ「この業の深さよ」



「オリヴィアええやん」「……ふぅ」「作者は現代社会が生んだモンスター」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。


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