第29話 捨てられ王子、王城に突入する
「えーと、色々やらかしたけど、まずは話し合いで解決しよう」
「う、うん!! そそそ、そうだね!!」
サリオンに上空から周囲の警戒をしてもらい、俺と那由多は話し合いをすることにした。
どうも那由多はこの世界の人間ではなさそうだ。
栗色の髪は地毛らしいが、その名前は俺の知る日本人風のもの。
異世界から召喚されてきた勇者というのも真っ向から否定はできない。
何より那由多は嘘を吐かないタイプだろう。
一度肌を重ねたから色眼鏡で見ているのかも知れないが、善良な人間だと思う。
なら話を聞くべきだ。
「えっと、何から話せば良いかな……。私、地球っていう世界の日本からこの世界にいきなり召喚されちゃったんだよ。それで王様を名乗る人に悪い奴らが戦争を仕掛けてきたから返り討ちにして欲しいって」
「うわー。ヘクトンの奴、最低だな」
「あれ? レイシェルさんは王様と知り合いなの?」
俺はすべての事情を話した。
ヘクトンが俺の弟であり、王位と婚約者を奪ったところから帝国で起こった出来事まで。
那由多はうんうんと頷きながら一生懸命に聞く。
その姿がちょっとあかべこを彷彿とさせて可愛かった。
「――ってわけで、報復を名目に戦争をまた仕掛けてきたのは王国。まあ、元々は帝国が世界征服をしようとしてたし、どっちが悪いっていえることじゃないけど」
「ううん!! そんなことないよ!! あの王様、私のこと騙してたんだね!! 酷い!!」
「ちょ、那由多? いくら何でも信じすぎじゃない?」
「え? 今のお話って嘘なの?」
「いや、本当だけど。でも疑わなさすぎるのが逆に心配だよ」
「えへへ、それほどでも」
褒めてない。
でも、話してみて改めて那由多がどういう人物なのか理解することができた。
相手の話を鵜呑みにしてしまう、ちょっぴりお馬鹿な女の子。
ついでにエッチには積極的で激しく求め合うのが好き。
やはり嘘を吐く人間ではない。
となると、那由多は日本からの召喚者であり、色々と吹き込まれて帝国と王国の戦争に巻き込まれてしまったと。
このまま王国に那由多を返すのは論外だ。
まず間違いなくまた騙されてしまい、戦争に駆り出されてしまう。
ヘクトンが彼女を召喚した経緯や手段については本人を問い詰めればいいし、ひとまず那由多は連れ帰ろう。
……決して、アルカリオンにお願いして妻にしようなどとは考えていない。
那由多の方から求めてきたら吝かではないが、相手は容姿も実年齢もまだ中学生くらい。
合法ロリのサリオンとは違って逮捕されてしまう年齢だからな。
「那由多。もし良かったら、俺と一緒に帝国に来ないか? 流石に日本と比べたら娯楽は少ないが、結構発展してて便利だぞ」
「え、良いの!? やったー!!」
無邪気に喜ぶ姿が可愛い。
「ってあれ? 日本のこと知ってるの?」
「……まあ、そこは追々」
「?」
思わず口が滑ってしまった。
別に隠してるわけじゃないし、ここで話しても良いのだが……。
「? どうしたの?」
こてんと小首を傾げる那由多は可愛らしいが、一度に話すと困惑してしまうはずだ。
俺の話は隙を見て話そう。
と、そこで上空から周囲を警戒していたサリオンが地上に降りてきた。
「おい、小僧。そろそろ準備するのじゃ」
「え、もう来るの?」
「うむ」
「分かった。じゃあ、ひとまず那由多は俺と一緒に行動しよう」
とまあ、こうして俺と那由多は行動を共にすることになった。
俺は再びサリオンに跨がり、那由多の手を取って後ろ側に乗せる。
「おい、小娘。小僧のわがまま故、多少は目を瞑るが、光栄に思うのじゃぞ。儂が背に乗せるのは小僧ただ一人で――」
「わあ、ありがとうございます!! 空を飛ぶのってどんな感じなのかな!?」
「……ふん」
殺気や敵意を向けてものほほんと笑う那由多に調子が狂うのか、サリオンは無言で空を舞った。
「わわわ!! すごいすごい!!」
「わ、こら!! あんまりはしゃぐと危ないからしっかり掴まってて!!」
「あ、うん!!」
「おうふ」
俺の後ろに乗っていた那由多が、ギュッと俺に抱き着いてきた。
確かな柔らかい感触が背中に伝わってくる。
行為中も思ったが、年齢の割には大きな程よいサイズ感のものをお持ちらしい。
俺がこっそりおっぱいの感触を楽しんでいることなど露知らず、那由多は王都から離れたある一点を見て目を瞬かせた。
「うぇ!? 何あれ!?」
「元王国軍、今は俺に味方している反乱軍と帝国陸軍の混成軍だな」
俺とサリオンは彼らの到着を待っていた。
可能な限り空を飛び、王都を守る王国軍の注意を引いていたのはそのためである。
今回の作戦はシンプルだ。
前線から撤退してきた呈を装い、反乱軍が王都に突入して各所を制圧、門を開いて帝国軍を招き入れる作戦だ。
これなら王国軍が対処してくる前に制圧できるため、死傷者はあまり出ないはず。
まあ、流石にそう甘くはないだろうが、真っ向から衝突して大勢の死人が出るよりは遥かにマシだと思いたい。
「じゃあサリオン、予定通りに」
「分かっておるのじゃ」
サリオンが王国軍の扮した反乱軍を追い回すように飛行する。
するとあら不思議。
味方が狙われていると思った王都の兵士たちは急ぎ門を開いて、反乱軍を中に招き入れた。
作戦成功。
俺は帝国軍後方に位置するワイバーン部隊を率いるローズマリーと合流し、那由多を預けた。
ローズマリーが忙しそうだったので説明を一部省き、那由多を抱いたことは言わなかったのだが、彼女は俺をちらっと見て一言。
「まったく、お前という奴は……。この戦いが終わったらお仕置きだな♡」
と、何やら色々と見透かされていた。
もしかしたらアルカリオンのような竜の眼の力に覚醒したのだろうか。
あるいは女の勘かも知れない。
「じゃあ、王都の制圧は反乱軍と帝国軍に任せるとして。俺とサリオンで城に行ってヘクトンを捕まえよう」
今回はヘクトンを捕まえたら万事解決だ。
生け捕りにして王都の兵士たちに武装解除を命令させたら後はどうとでもなる。
サリオンが宙を舞い、敵の攻撃が届かない高高空から城に向かって一直線に降下した。
そのまま城の壁に突撃し、中に侵入する。
「ふぅ、ここからは歩きじゃな」
人の姿になったサリオンが城の内部を見回してそう言った。
竜の姿だと狭いだろうしな。
「お、大きな物音がしたと思って来てみたら!!」
「侵入者だーっ!! 近衛兵を呼べーっ!!」
「くっ、騎士たちはどこに行った!?」
「相手はたった二人だ!! オレたちで対処するぞ!!」
「かかれぇ!!」
どうやら王都に侵入した反乱軍の対応にてんてこ舞いなようで、巡回の兵士たちに気付かれても敵が集まらなかった。
辛うじて俺たちの侵入に気付いた兵士たちもサリオンの前では無力。
麻痺毒を受けて秒で戦闘不能になった。
「小僧の弟やらはどこにおるのじゃ?」
「さあ? まあ、適当に歩いてたら見つかるでしょ」
とまあ、しばらく城を彷徨っていると。
「うーん、流石に五年も経ってるとどこが何の部屋だったか忘れちゃってるなー」
「む、あの部屋は何なのじゃ? やたらと扉が豪華じゃぞ」
「えーと、ここは……。なんだっけ? まあ、分かんないなら入ってみよう」
俺は扉を開けて中を覗くと、そこには懐かしい人物がいた。
ヘクトンの母であり、俺の父の第二妃。
綺麗な金髪碧眼の美人で、しかもボンキュッボンのナイスバディー。
オリヴィア・フォン・アガーラムがベッドの上で静かに目を閉じていたのだ。
一瞬死んでるのかと思ったら、微かではあるものの息はしている。
でも、これは……。
「なんか呪われてない?」
「呪われておるな」
オリヴィアは呪われていた。
それもその呪いにはとても覚えがあるというか、見たことのある呪いだ。
俺が初めてアルカリオンに会った時、彼女を蝕んでいた呪いと同じものだった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「作者は敵意や悪意に鈍感な天然っ娘が好き」
レ「だよね」
「勇者も母親も奪われるヘクトン」「呪い、だと!?」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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