第27話 捨てられ王子、再び最前線へ赴く







「うわー。久しぶりに来たなあ、ここ」



 俺は遥か上空から地上を見下ろし、思わず感傷に浸る。


 そこはアガーラム王国とドラグーン帝国の国境。


 かつて最前線だった場所であり、休戦の影響で一度は後方基地まで下がったアガーラム軍が再び展開しているようだった。


 明らかに戦争を再開しようとしている。



「ふーむ、森に重要な拠点を置いておるのか。ワイバーンによる上空からの襲撃を避けつつ、対空魔法で反撃しやすい。なるほど、考えられておるのう」


「自慢じゃないけど、森に陣地を敷いて対空魔法によるワイバーンの迎撃を提案したのは俺なんだぜ」


「む、そうなのか。しかし、森を焼き払えば関係ないのじゃ」



 それは、そうだな……。



「ではさっさと仕事をするのじゃ」


「わ、分かってるって」



 俺が再び最前線に来たのは、殺し合いをするためではない。


 王国を無血で攻略するためだ。


 俺はサリオンの背中に乗せておいたメガホンのような魔導具を手に取った。



『あー、あー、マイクテストマイクテスト』



 この魔導具はイェローナが作った音を広範囲に届ける代物だ。


 俺は大きく息を吸って、地上のアガーラム軍に呼び掛ける。



『こちらは、レイシェル・フォン・アガーラム。王国軍に告げるー。武装を解除してくれー。帝国は血を流すのは本意じゃないってー。戦争じゃなくて話し合いで解決しよー』


「……こんなことで敵が矛を収めるかの?」


「何事もやってみなきゃ分からんでしょ。まあ、ダメだったらアルカリオンの言ってた第二案で行こう」



 それから待つことしばらく。


 一部のアガーラム軍の兵士が武器を捨てて森から出てきた。


 全体の三割程度か。


 目を凝らしてよく見ると、投降してきた兵士たちの中には顔見知りが多かった。


 それに釣られて更に投降する者が出てきたが、極少数の兵士たち、その中でも対空魔法使いはサリオンに魔法を放ってきた。


 サリオンは空中でぐるんと回避機動をしながら感心したように言う。



「おっと、危ないのう。もう少しで当たっていたのじゃ」


「サ、サリオン。急に動くのはやめてくれ。気持ち悪くなる」


「くっくっくっ、そうじゃったな。すまんすまん」



 しかし、いきなり攻撃してくる奴がいるとは。


 最前線で戦っていた時は上官とも部下とも仲が良かったと思っていた分、地味にショックを受けてしまう。



「ってあれ? なんか仲間割れしてる?」



 森の中にいる兵士たちの様子は木々に遮られていて分からない。


 しかし、投降した兵士たちが武器を再び手に取って森の中に戻って行き、攻撃してきた兵士たちを縄で縛って森の外へ引きずり出してきた。


 え? え? 何あれ?



「攻撃してきた兵士を捕まえておるようじゃな。この様子なら地上に降りても問題なかろう」



 というわけで、サリオンと地上に降りてみた。


 すると、通常のワイバーンよりも大きな竜のサリオンを見て若干警戒する兵士たち。

 その中から顔見知りの指揮官のおっちゃんが出てきた。



「で、殿下。そのワイバーン? は、大丈夫なのですか?」


「大丈夫だよ、噛まないから。ね?」


「儂をそんじょそこらの空蜥蜴どもと一緒にするでない」


「しゃ、喋った!?」



 まあ、人間の苦しむ顔が好きなサディストで毒とか浴びせてくるけど。


 今は俺の言うことを聞いてくれるから無問題。



「そ、そうですか。……コホン。殿下、我々は投降します。どうか捕虜としての正当な扱いを希望する」


「分かってる。俺、こう見えても女帝と皇女の夫になったからそこそこ権力あるんだぜ」


「!? う、噂では聞いていたが、本当だったのか」



 指揮官のおっちゃんが目を見開いて驚いた、その時だった。



「お、おい!! ふざけるな!! 王国を裏切ったクソ王子に味方するとは何事か!! 反逆罪に問われたいのか!!」


「……あれは?」


「つい先日、王都から前線に派遣されてきた司令官です。さっきの攻撃も奴の部下のもので……。すでに奴と奴の部下は拘束していますのでご安心を」


「あー、なるほど」


「申し訳ありません。お怪我はありませんでしたか?」


「平気平気」



 俺と指揮官のおっちゃんが雑談していると、司令官の男が声を荒らげる。


 俺たちが無視したことにお冠のようだ。



「この反逆者共めッ!! お前たちには国への忠誠心がないのかッ!!」



 司令官の男が叫ぶ。


 その剣幕は凄まじいもので、並みの兵士なら多少は萎縮してしまうであろう迫力があった。


 しかし、指揮官のおっちゃんは鼻で笑う。



「ふっ、おかしなことをおっしゃる。せっかく終わりそうだった戦争を再開し、無意味に民を苦しめる国などに忠誠を誓えるわけがないだろう」


「そうだそうだ!!」


「お前たちに従うくらいなら、多少ちゃらんぽらんでも民の目線に立って物事を考えてくれるレイシェル殿下に味方するぞ!!」


「まったくだ!! ちょっとちゃらんぽらんでもお前らみたいに偉そうにしない殿下の方がマシだ!!」


「ねぇ、お前ら喧嘩売ってんの? 買うよ? 俺はそういう喧嘩を買う王子だよ? しばらく会ってないうちに忘れちゃった?」



 やっぱりこいつら森ごと焼き払った方が良かった気がする。


 と、その時。



「ならば裏切り者と共に死ね!! 反逆者!! 国王陛下、万歳!!」



 司令官の男は口から何かを勢い良く吐き出し、俺と指揮官のおっちゃんの前に転がした。


 それは一見すると、ビー玉のようだった。


 膨大な魔力を宿しており、一目見て何らかの魔導具であると察する。


 ヤバイ!!



「うおりゃあああああああああッ!!!!」



 俺は司令官の男が吐き出したビー玉をキャッチして覆い被さる。


 うわ、ぬめぬめして気持ち悪い……。


 などと考えているうちに、ビー玉は大爆発を引き起こした。



「『完全再生』ッ!!!!」



 身体が木っ端微塵になるが、意識が微かでも残っていれば問題無し。


 俺の身体はみるみるうちに再生した。



「殿下ッ!! ご、ご無事ですか!?」


「あー、大丈夫大丈夫。皆は?」


「はっ!! レイシェル殿下のお陰で怪我人はおりません!!」


「そりゃ良かった」


「……そ、その、助けていただいて言うのもなんですが……」


「ん? なんだ?」


「……部下に急いで服を持ってこさせます」


「……イヤン」



 肉体の再生を最優先にしたため、爆発に巻き込まれて服が吹っ飛んでしまった。


 大爆発を間近で食らって生きている俺を見て、司令官の男が動揺する。



「ば、馬鹿な!! 何故生きている!?」


「こういうのは治せるよ。頭だけ残ってたら平気だから」


「こ、この化け物め!!」



 まるで怪物でも見たかのような怯えた目で俺を睨む司令官の男。


 しかし、司令官の男は俺の更に後ろを見て「ひっ」と小さな悲鳴を漏らした。


 俺が後ろに振り向くと、そこには目を血走らせたサリオンがいる。


 え、何? なんか怖い……。



「貴様……儂の小僧に……よくも……」


「ひっ、お、お許しを、お許しをぉ!!」



 必死に命乞いする司令官の男を今にも食い殺しそうなサリオン。



「サリオン」


「分かっておるとも。小僧が殺生を快く思っておらんことも。ああ、分かっている。だから殺さぬとも。死んだ方がマシだったと思えるほどの苦痛を与えるのじゃ」


「え? あ、まあ、殺さないならセーフかな?」



 ちょっと怒ってるサリオンが怖かったので、何も言わないことにした。


 その後、偶然にも森の奥で司令官の男を拷問するサリオンを見てしまった兵士曰く、「ドラゴン怖い」とのこと。


 こうして俺たちは死人を出すことなくアガーラム軍は降伏させることに成功。

 あとは王都まで進み、ヘクトンを捕まえれば万事解決だ。


 でもまあ、何事も上手く行くわけではない。


 数年ぶりの王都が見えた頃、俺は勇者を名乗る少女と遭遇するのであった。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「こいつ兵士に舐められすぎやろw」


レ「親しまれてるって言って!!」



「秒で反逆してんの草」「めっちゃ舐められてるやん」「よく男の吐いたもの触れるな……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る