第22話 捨てられ王子、天国に到達する
帝城に戻った俺は、ローズマリーと共にアルカリオンの私室で彼女から今後の詳しい話を聞いた。
すると、対アガーラム王国の作戦を聞いて俺はちょっぴり驚く。
「なるほど。レイシェルを大義名分にするのですか」
「はい。坊やから王位を不当に奪った現王を廃するという名分で、他国の協力を可能な限り減らします」
どうやらアルカリオンは、着々と近づいている王国との決戦に向けて準備を進めていたらしい。
その過程で、俺の名前と生い立ちを使おうと考えたようだ。
アガーラムは他国からの支援でドラグーン帝国と対等に渡り合ってきた。
しかし、独力ではさして脅威ではない。
「アガーラムの宣戦布告した理由は今までの戦争で苦しめられた報復。これに勝る大義名分で、王国に他国が味方する状況を潰すのです」
「ほぇー」
帝国が今までに侵略戦争を仕掛けていたのは紛れもない事実であり、報復したいと思う国は少なくないはず。
王国の宣戦布告に乗っかって帝国への反転攻勢に出る者も多いだろう。
しかし、今まで世界を相手に互角以上に戦っていた帝国とわざわざ戦争を再開したくない者もいるはずだ。
そういう連中のために報復戦争に参加しない名目を与えてやる。
その名目が俺ってことか。
「――先に断っておきますが、断じて坊やを世界征服に利用するつもりはありません。もう興味がないので」
「あ、別にそこは疑ってないよ?」
相変わらず無表情だが、こちらは疑っているわけでもないのに必死に弁明するアルカリオンは可愛かった。
「でも俺、今さら王位とか興味ないんだけど」
「そこら辺は上手くやります。王国を吸収して帝王国とでも名乗りましょうか」
「……帝王国」
何それちょっとカッコイイ。
ドラグーンとアガーラムを合わせてドラグラム帝王国とかどうだろうか。
「王国は一地方として扱い、そのまま領主に統治させましょう。まあ、統治能力に問題の無い領主に限りますが」
つまり、賄賂のような不正を働いている領主は解任するってことか。
それなら民衆は不幸にならないし、たしかに悪くない。
でも大きな問題が一つ。
いや、それは普通なら大した問題ではないのかも知れないが、俺にとっては割と結構大事な問題だった。
「やっぱり戦争だから、敵は殺すよな?」
「……」
戦争が始まったら、五年間前線で一緒に戦ってきた兵士たちが死ぬかも知れない。
それはちょっと心苦しい。
いやまあ、戦争なのに死人を出したくないとか舐め腐ってる考えなのは分かっている。
しかし、人が死ぬのは嫌だ。
ましてや俺の名前を使った大義名分で大勢殺すとかメンタル的に耐えられる自信が無い。
「……分かっていますよ、坊や」
「え?」
「そのためにダンジョンに引きこもっている母を呼び出したのです」
サリオン、引きこもり扱いされてるのか……。
「まあ、細かい話は今度するとしましょう。今はもっと大切な話があります」
「戦争より大切な話?」
「はい。――サリオン、坊やに酷いことをして、エッチしましたね?」
「「!?」」
アルカリオンが話している傍ら、ジュースをちびちびと飲んでいたサリオンが俺と同じタイミングでビクッとする。
バ、バレてる!?
「い、いやー、その、あれなのじゃ。久しぶりの人間を見てテンションが上がってのう」
「それで毒を浴びせて坊やが苦しむ様を見ていようとしたと?」
「ギクッ」
「レ、レイシェル!! どういうことだ!?」
「ノ、ノーコメントで」
ローズマリーに詰め寄られて、俺は黙秘権を行使したが、アルカリオンには筒抜けだった。
「サリオンに身体を好きにして良いから黙っていて欲しいと言われた、ですか」
「なっ!? お、お前という奴は!! 女なら誰でも良いのか!!」
「ぐぇ、ち、違います違います!! ローズマリーさん、首締まってますぅ!!」
ローズマリーが頬を膨らませて俺の首を両手で掴み、ブンブンする。
く、苦ちい。
「じゃあいっそ、サリオンも坊やの妻にしましょうか」
「「「!? ちょ、なんで!?」」」
「坊やがそれを望んでいるからですが……。違いましたか?」
さらっと爆弾を投下するアルカリオン。
「レイシェル……」
「い、いや、ローズマリー。たしかにハーレム願望はあるよ? でも誰でも良いってわけじゃなくてね?」
「くっくっくっ。儂のちんちくりんな身体にも興奮する変態じゃとは思っておったが、そうかそうか。儂を自分の女にしたかったのか。仕方ない奴じゃのう。どっこいしょ」
「ちょ、何を!?」
サリオンがソファーに腰かけている俺の膝の上に座る。俺と向き合う形で。
サリオンは割と際どい格好をしている。
身体にぴっちりと張り付いたボンデージ衣装で、ちょっと見る場所に困る露出度なのだ。
「くっくっくっ、うい奴じゃのう。儂をあれだけ激しく求めておったくせに。どれ、また可愛がってやるのじゃ」
俺に負けてたくせにどの口で……。
と思ったが、俺がそれを言う前に事態が動いてしまった。
「おい、レイシェル」
「あ、はい」
「私があの時、どれだけお前を心配したか分かっているか?」
「……はい。すみません」
「まったく、仕方のない奴め」
そう言ってローズマリーは頬を赤らめながら、自らの大きなおっぱいを押し付けるように俺の腕に抱き着いてきた。
柔らかい感触が伝わってくる。
そして、まるで初めて俺に迫ってきた時のように吐息がかかる距離から囁いてきた。
「今日は徹底的に私のおっぱいでいじめてやるからな。それがお前へのお仕置きだ」
「あ、ひゃい!!」
何そのお仕置きご褒美じゃん!!
「では、私はローズマリーにお仕置きされる坊やを愛でるとしましょう。今夜は寝かせませんよ、坊や」
「おうふっ」
ローズマリーの反対側から、アルカリオンが静かに近づいてきて、俺の身体を優しく抱き締める。
そのままいつものように頭をナデナデし始めて、密着ハーレム状態だった。
前はサリオン、右はローズマリー、左はアルカリオン。
逃げ場の無い布陣。
三世代ハーレムという、常識では有り得ない夢の布陣である。
と、その時だった。
アルカリオンの私室の扉が勢い良く開かれて、エリザが入ってきたのである。
「何やら除け者にされている気がして来てみましたわ!! どうやら私の勘は正しかったようですわね!!」
「うお!? エリザまで!?」
「血縁者でハーレムを形成している中に乱入するとは、流石駄嬢様。空気が読めてなさすぎですね。うちの駄嬢様が失礼します」
黒髪ポニーテールの侍女を伴ったエリザが乱入してきた。
「む」
「おや……」
と、そこでエリザの侍女とサリオンが目を合わせて一瞬硬直した。
なんだ? どうかしたのか?
二人の間に流れた謎の空気に疑問を抱いたが、それを解消する暇は無かった。
「……ふむ。どうやら前と左右は埋まっているようですし、私は後ろから責めさせてもらいますわ!!」
エリザがソファーに座る俺の背後から抱き着き、大きくて柔らかいクッションで後頭部を優しく包まれる。
前後左右、俺の妻たち。
もはや本当に逃げ場は無く、それはもうたっぷりと搾り取られた。
俺は天国に来てしまったのだろうか。
―――――――――――――――――――――
あとがき
作者「血涙」
レ「羨ましいでしょ?」
「オーバーヘブン発現しそうなサブタイトルで草」「ローズマリーにお仕置きされたい」「あとがきで草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます