第20話 捨てられ王子、温泉に入る
ダンジョンを彷徨うこと数時間。
俺は極力モンスターとの戦闘を回避しながら、ダンジョンの最奥を目指していた。
別にゾンビアタックでちまちま敵にダメージを与える戦い方をしても良いが、それだと時間がかかり過ぎてしまうからな。
どうしても戦闘を避けられない状況以外はモンスターを無視してひたすら進む。
「うわー、綺麗」
しばらく洞窟を進むと広い場所に出た。
地底湖とでも言うのか。
天井から鍾乳石が地面へ向かって伸びており、その下には大きな湖が広がっていた。
湖の底にある青い魔石が輝いており、湖そのものが光っているように見える。
「ん? なんだこれ? この湖、お湯なのか?」
いや、お湯というよりこれは……。
俺は湖に近づいて、鼻をすんすんと鳴らして匂いを嗅いでみた。
ちょっと硫黄っぽい匂いがする。
俺は確信してしまう。間違いない。この湖は湖ではない。
「お、温泉だ!!」
まじかー!!
アルカリオンのお陰でお風呂を帝城に作ることはできたが……。
まさか温泉がダンジョン内にあるとは。
「入りたい。物凄く入りたい。でもここはダンジョン。すっぽんぽんになるのは危険だ」
でも、と俺はふと考える。
冷静に考えてみたら俺の武器って短剣一本だけだし、ぶっちゃけそれもここまでに何度か戦ったせいで半ばなまくらだ。
ここで温泉を無視して先に進むとしても、温泉に入るとしても、危険度は変わらない。
ならば温泉で心身を癒してから先に進む方が俺のメンタルを回復し、今後の移動速度も速くなるかも知れない。
俺はこういう時、決断の早さには自信がある。
「よし、入ろう!!」
俺は即座にすっぽんぽんになり、温泉に勢いよく飛び込んだ。
おっと。
良い子の皆は温泉に飛び込むような真似をしちゃダメだからな。
俺は悪い子なのでオッケーだ。
「はふぅ、あったけぇ~」
温泉とは素晴らしい。
……ふむ。帝都から五時間半、ダンジョンに潜って六時間。
流石に半日かけて入りに来るのはなあ。
どうにかしてここの温泉をダンジョンの外にまで引っ張ることはできないだろうか。
いや、流石に無理か。
ダンジョンにはモンスターが出るし、せっかくダンジョンの外に温泉を引く設備を作ってもどこかで壊されてしまう。
ここの温泉に入りたいなら半日かけて来るか、このダンジョンに住み着くしかないだろう。
「そう言えば、アルカリオンの言ってたダンジョンの奥地で暮らしてる人って誰なんだろ?」
こんな危険な場所で暮らす人間は余程の物好きに違いない。
ローズマリーは何度かお使いで来たことがあるみたいだけど、その人がどういう人物なのか聞きそびれてしまったな。
ローズマリー、大丈夫かな?
「いや、俺は他人の心配できるほど強いわけじゃないし、自分のことに集中しよう。……ん?」
ふとした違和感。
明確に言葉にはできないが、人の気配を確かに感じた。
人の気配は岩影の向こう側にある。
こんなダンジョンの最奥にいるような人間など、人間ではない。
俺は細心の注意を払いながら、岩影の向こう側を覗いた。
しかし、そこには誰もいない。
「……気のせい、だったのかな?」
「覗きとは感心せんのう」
「!?」
急に背後から声をかけられて、俺は思わず振り向いた。
裸の美少女、いや、美幼女がいた。
艶のある長い黒髪を湯に浸からないよう紐で留めている真っ最中なため、腋が見えてしまっている。
人形のように可愛らしい顔立ちと相まって、どことなく犯罪臭が漂う。
年齢は十歳前後だろうか。
幼女特有のぷにっとした色白な肌で、思わず頬をつんつんしたくなる。
な、なんだ、この子。か、可愛い……。
「き、君は?」
「儂は……そうじゃのう、このダンジョンの主とでも言おうか。ここは儂の湯浴み場、無断で立ち入るとは良い度胸じゃ」
「あ、す、すみません!!」
まじかー。
ん? ってことはもしかして、この子ってダンジョンで暮らしてるのか?
ということは、この子が目的の人物?
俺は多少の疑問を抱きながら、考えても分からないので直接本人に聞くことにした。
「あのー、もしかしてダンジョンの最奥で暮らしている人物って、貴女のことですかね?」
「いかにも。私はこのダンジョンに古くから住まう者。して、小僧。お主は何者じゃ? 儂のお気に入りの場所に無断で立ち入ったのじゃ。返答次第では容赦はせんぞ?」
ゾワッと鳥肌が立った。
美幼女の黄金の瞳が俺を射殺さんばかりに鋭く睨みつけてくる。
それは、如何なる攻撃でも『完全再生』で治して耐え忍ぶ自信がある俺ですら死を予感してしまうほど明確な殺意を宿していた。
事情を説明せねば。
おそらくはこの幼女がアルカリオンの言っていたダンジョンの最奥に住まう人物だ。
下手なことを言わず、アルカリオンのお使いで来たという旨を伝えればまず酷いことにはならないだろう。
しかし、どうしてか思うように口を動かすことが出来なかった。
いや、理由は分かっている。
俺は本能的に目の前の幼女に恐怖してしまっているのだ。
恐怖で唇が震えてしまい、思うように言葉を発することができない。
怖いのだ。
「だんまりか。まあよい、儂はあの子ほど人間に甘くはないからのう」
そう言いながら幼女は俺の腕を掴んだ。
信じられないくらい力が強かった。そして、掴まれた直後に違和感が俺を襲う。
「っ、毒!?」
「くっくっくっ、儂は人の苦しむ顔が好きなのじゃ。さて、お主はどういう顔をする?」
「ぐっ、うおおおおおおおおッ!!!!」
「む。どこに行くのじゃ?」
俺はその場から駆け出し、慌てて服を脱ぎ散らかした場所に向かう。
そこに置いてあった短剣を手に取った。
「ほう? 毒に犯された身で儂と戦おうと?」
違います。
俺は自分の命が懸かっている状況で敵の打倒ができるほど勇者じゃない。
俺が短剣を取りに来たのは、治療のため。
幼女から流し込まれた毒は通常の毒とは違い、『完全再生』で治すまでに時間を要する。
毒を受けた瞬間に解毒を試みたが、あまり手応えがなかったのだ。
これは二十年ほど『完全再生』を使ってきたからこその勘。
『完全再生』で治すよりも毒で死ぬ方が早い。
窒息や生き埋めに続く、新しい死ぬかも知れないパターンだ。
その反面、この毒は『完全再生』で治しにくい代わりに全身に回るまで時間がかかるらしい。
なら、その毒が全身に回る前に切断する。
「っ!!」
「む!?」
俺は短剣で自らの腕を切断した。
戦場でも骨が粉々になるレベルの重傷を負った時、一から手足を生やした方が早い場合は何度かやっていた。
だから多少のなまくらでも切断は可能。慣れだ。
気絶しそうなくらいめちゃくちゃ痛いけど、死ぬよりは遥かにマシだ。
「……たまげたのじゃ。毒が回る前に腕を切断して再生させたのか。トカゲみたいな奴じゃのう」
「はあ、はあ、はあ」
痛い。
瞬時に腕を生やしたけど、やっぱり感触が残って気持ち悪い。
何より、まだ危機を脱していないことが問題だ。
俺は完全に目の前の幼女に敵と見なされている。命乞いをしたら助けてくれないだろうか。
「む。小僧、お主……」
幼女の視線が次第に下に向く。
その視線の先には俺の愛刀があり、我が愛刀は合戦の準備を整えていた。
生き物は死を予感すると本能的に子孫を残そうとする本能が働く。
俺も例外では無かった。
ましてや未成熟な身体ながらも立派な女が目の前にいるのだ。
目の前の存在に恐怖しながらも、俺の本能はその存在を女として認識している。
なんという矛盾。
「ぷっ、くっくっくっ」
幼女は笑った。
まるで俺をからかうような、小馬鹿にしたような嘲笑だった。
「まさか小僧、儂の身体に興奮しておるのか? とんでもない変態がいたものじゃのぅ」
「そ、それは……」
「よいよい、久しぶりに笑わせてもらった。特別に見逃してやるのじゃ。しかし、タダで見逃すのはつまらん」
そう言うと、幼女は俺に一歩ずつ近づいてきた。
俺は後退った拍子に尻餅をついてしまい、下から幼女を見上げる。
ローアングルから、一糸まとわぬ幼女を。
思わずゴクリと生唾を飲み、俺は恐怖と同時に興奮していた。
こ、この画角、エッチすぎる!!
「儂と勝負をしようではないか、小僧」
「しょ、勝負?」
「小僧とて女の味を知らぬまま死ぬのは嫌じゃろう?」
え、いや、結構女の子の味は知ってますけど。
あ、そっか。俺、見た目は子供だし、チェリーボーイだと思われているのか!!
「勝負の内容は簡単。儂とまぐわって、先に果てた方が負け。お主が勝てば見逃してやろう。儂が勝てばお主は死ぬ。良いな?」
「わ、分かった!!」
「くっくっくっ、では始めようかの」
俺とて一人の男だ。
純粋な殺し合いでは絶対に負けるだろうが、そういう戦いなら勝ち目はある!!
俺を童貞だと舐め腐ってるこのメスガキを分からせてやる!!
断じて浮気ではない。
これは身を守るための手段であり、決して浮気ではないのだ。
そう意気込んだ俺は――
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「黒髪クレイジーのじゃロリメスガキの腋をくんかくんかしながら、ぷにぷにほっぺをつんつんして殺されたい。脇ではなく腋ね。ここ大事」
レ「運営さんこいつです」
★お知らせ☆
新作『最強だった悪役魔導士が生活魔法を極めたら規格外のぶっ壊れ性能で最凶に返り咲くっ!』を投稿開始しました。時間に余裕がありましたら、そちらもご覧ください。こちらも割と癖を出す予定です。
「ダンジョン温泉入りたい」「自切してて草」「あとがきぶっちぎりでキモくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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