第19話 捨てられ王子、ダンジョンに行く
「おお、ここがダンジョンかあ」
「あまり私から離れるなよ。このダンジョンは進めば進むほど危険だからな」
俺はローズマリーの後ろを歩きながら、初めてのダンジョンに少しテンションが上がる。
よくある遺跡タイプではなく、洞窟タイプのダンジョンだ。
岩壁に青く光る結晶が生えており、薄く発光しているから松明も要らない。
ローズマリーの話によると、あの光る青い石が魔石らしい。
「王国でも少なからず魔石は採れるけど、帝国だと青いのか」
「王国は違うのか?」
「うん、王国じゃ赤い魔石が採れんだ」
「な、赤い魔石だって!?」
「うお、ビックリした」
赤い魔石と聞いた途端、ローズマリーが目を大きく見開いた。
どうかしたのだろうか。
「そうか、王国は資源の宝庫なのかも知れんな」
「どういうこと?」
「青い魔石は産出量が多い代わりに、内包する魔力が少ないんだ」
「そうなんだ? ってことは、赤い魔石は……」
「うむ。最低でも青い魔石の十倍以上の魔力を宿している稀少な魔石だ。その分加工は難しく、他国で使う分にはコストの方がかかるが……」
「帝国の技術なら?」
「見返りの方が遥かに大きい」
「ほぇー」
物の価値ってのは分からないもんだなあ。
「……ふむ。王国との戦争に勝った暁には、わざと多額の賠償金を吹っ掛けて赤い魔石の採れる鉱山をゆすってみるよう、母上に進言してみるか。――っと、レイシェルの前でする話では無かったな」
「政治のことは分からないし、王国には未練も無いから気にしなくていいよ」
あ、強いて言うならヘクトンマッマのおっぱいが心残りか。
今ではローズマリーやアルカリオン、エリザがいるが、こっちの世界での初恋のおっぱいだからなあ。
などと考えていると、ローズマリーが鋭い視線を向けてきた。
「今、誰の胸のことを考えたのだ?」
「ギクッ。な、何のことだか」
「……まあいい、進むぞ。遅れないようにな」
「はーい」
俺たちはダンジョンを着々と進む。
最初はスライムやゴブリンのような雑魚モンスターしか出なかったが、次第にその上位種が出てきた。
ローズマリーも進めば進むほど、怪我をする頻度が増えてきたが……。
「ほい、回復っと」
俺はローズマリーの怪我を秒で回復させる。
ローズマリーがみるみるうちに治ってしまう怪我を見て思わずといった様子で呟いた。
「……本当にレイシェルの力は凄まじいな。母上の使いでダンジョン最深部を目指すことは何度もあったが、ここまで楽だとは」
「今まではどうしてたんだ?」
「並みの治癒魔法使いでは足手まといになるからな。ポーションをがぶ飲みして強行軍していた」
「わ、わーお。それは流石に心配なるな」
「別に毎度そうというわけではないぞ? あくまでも緊急性の高い場合のみだ」
いや、ゴリ押し戦法でダンジョンの最深部まで行けるのはそれはそれで凄いな。
「……レイシェル。一つ訊きたいのだが……」
「なんだ?」
「レイシェルのその力は、生まれながらのものなのか?」
「……」
俺はちょっと言葉に詰まった。
まさか異世界に転生する際に女神から授かったチート能力と説明するわけにも行くまい。
ここは適当に誤魔化そう。
そう思ったのだが、どうにも思うように口を動かせない。
……ローズマリーなら、別に良いかな。
「俺の力は、王子に生まれ変わる時に女神からもらったものなんだ」
どうせ本当のことを言ったところで信じる人はいないだろう。
精々冗談だと思われるだけだ。
しかし、俺の予想とは裏腹にローズマリーは顎に手を当て考え込む。
「なるほど、そう考えると納得だな」
「え?」
意外にもローズマリーは頷いた。
「冷蔵庫やら竜母やら、レイシェルの発想には時々驚かされる。何より――」
「何より?」
「帝都を見た時のレイシェルは、知っているものがあって驚いたようだった」
「え、鋭っ」
たしかに俺は、帝都を見た時に魔導列車やらの存在を知って驚いた。
ローズマリーはその反応に違和感を覚えたらしい。
「帝都に来た他国の者は、総じて困惑する。しかし、レイシェルは困惑しながらもすぐに受け入れていた。もしやレイシェルは、未来の世界から今の時代に生まれ変わったのか?」
「惜しい!! すっごい惜しい線行ってる!!」
「むぅ、分からん。答えを教えてくれ」
俺は休憩がてら、ローズマリーにこことは異なる世界、地球のことを話した。
今の帝国よりも百年ちょいくらい先の未来の文明について大まかに。
テレビや携帯電話、ゲーム等々。
この世界には存在しないものの話を聞いてローズマリーは目を輝かせていた。
ちょっと可愛い。
「……驚いた。文明とはそこまで発展できるものなのか。特にテレビというものは興味深い」
「そう?」
「うむ。新聞ではなく、映像で情報を絶えず万民に伝える。帝国でも再現できそうだ」
そう言えば、前にローズマリーとエリザが決闘した時も帝都中に映像を中継してたっけ。
あれは空中に映像を映し出しているせいで一時間も保たないそうだ。
テレビのようなものを作って映し出せば消費魔力を抑えられるかも知れないとのこと。
そこら辺はイェローナと要相談らしいが、どのみち彼女なら再現できるように思える。
異世界でテレビかあ。
流石にアニメとか作ることはできないだろうけど、俺が歳を取ってお爺ちゃんになる頃には見れたりするかな?
文字通りの異世界アニメ、見てみたい。
「他にも何か面白いものは無いのか?」
「え? んー」
そう訊かれると困るな。
銃とか爆弾とか、そういう兵器についてはあまり話したくない。
せっかくそれらが存在しない世界なのに、わざわざ人を殺す兵器を教えても良いことはないだろうしな。
それ以外となると……。
「車とか飛行機とか、移動手段としては便利なものが沢山あるかな」
「ふむ? それはどういうものなんだ?」
「えーと」
俺は大雑把に説明する。
地球のことを知らないローズマリーは俺の話一つにも大袈裟なほどの反応で面白かった。
「まさかワイバーン以外の方法で空を飛べるとは。レイシェルの生まれ変わる前の世界はすさまじく発展していたのだな」
「だなー」
「……ふむ。流石にヒコーキをいきなり作るのは難しいかも知れないが、クルマとやらは作れそうだな。帰ったらイェローナ姉上に相談してみよう」
「テレビといい車といい、イェローナが忙しくなりそうだな」
「ははは、違いない。――さて、休息はここまでにしてそろそろ進もう」
俺たちは立ち上がり、再びダンジョンの最奥を目指して歩みを進める。
しかし、ここで一つのトラブルが発生した。
ダンジョンの最奥まで半分といったところで、ある大型モンスターに遭遇したのだ。
「む、レッサードラゴンか!! レイシェル、下がっていろ!!」
「わ、分かった!!」
俺はローズマリーに言われるがまま、戦いの邪魔にならないよう部屋の隅っこに寄る。
と、その時だった。
カチッという、まるで何かのスイッチを押してしまったかのような感触が足に伝わってきた。
下を見ると、俺の足下が陥没している。
「あ、ごめん。ローズマリー」
「なんだ!?」
「いや、なんか、罠踏んじゃったっぽい」
「え?」
「うわっ、なんか身体が光り始めた!?」
「っ、転移トラップだ!! すぐにそこから離れ――」
ローズマリーが言い終わる前に、彼女の姿が消えてしまう。
いや、レッサードラゴンの姿も無かった。
別の場所に転移してしまったのはどうやら俺の方だったらしい。
「……ま、何とかなるよな!!」
俺は滅多なことじゃ死なない。
一応、護身用のために用意しておいた短剣を握り締め、俺はダンジョンの最奥を目指すのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「危機感ねーな、この主人公」
レ「HAHAHA」
★お知らせ☆
新作『最強だった悪役魔導士が生活魔法を極めたら規格外のぶっ壊れ性能で最凶に返り咲くっ!』を投稿開始しました。時間に余裕がありましたら、そちらもご覧ください。こちらも割と癖を出す予定です。
「文明マウントきもてぃー」「ローズマリー可愛い」「ほんまに危機感なくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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