第17話 捨てられ王子、お願いしても駄目だった
「……まじか」
俺はローズマリーから話を聞いて、絶句してしまった。
どういうわけか、アガーラム王国がドラグーン帝国に戦争を仕掛けてきたのだ。
報復戦争と銘打ってはいるが、帝国はすでに各国と停戦している。
一部では帝国にある程度有利ながらも、平等と言って差し支えない平和的な講和を実現している国も少なくない。
他国からすると、王国の行いは藪に入って大人しくなった蛇をわざと刺激するような行為だ。
普通に考えて有り得ない。
「ど、どうしてこんなことになったんだ?」
「大きな理由としては三つ、だな」
ローズマリーが神妙な面持ちで言う。
「一つは母上が怒り狂って帝都が半壊したこと。この情報が王国に伝わり、帝国が疲弊したと思ったのかも知れん」
「え、えぇ? それならもうとっくに復興しちゃってるぞ」
「恐らくは物資的な余裕がないと読んだのだろう」
しかし、その予測は的外れだ。
帝国は国土面積が広く、その分あらゆる資源に恵まれている国。
地竜を用いた効率的な農業も盛んで、食料品が底を突くということもない。
ましてや帝国のみが有するワイバーン、それを駆る竜騎士は健在なのだ。
帝都に来てから驚いたのは、前線に出撃している竜騎士とワイバーンの数は全体の三割程度とローズマリーが言っていたことだろう。
つまり、帝国を本気で倒すなら前線で戦ったワイバーンの三倍以上を相手取る必要がある。
前線にいた身から言わせてもらうと、無理。
ワイバーンはたった数騎で戦場をひっくり返してしまうような存在だ。
対空戦闘用の魔法を扱える魔法使いがいない戦場に現れたら最後、上空から火炎放射で消し炭になってしまう。
「流石に無謀だなあ。あと二つの理由は?」
「次に、今までの報復だろう。帝国は各国に戦争を仕掛けていた分、恨みも相当なものだ」
「あー、うん。でもまあ、それは仕方ないんじゃない? 戦争なんて恨み合いなんだから」
「それは、そうかも知れんが」
だから戦争とは恐ろしい。
終わっても何十年、下手したら何百年と禍根が残るかも知れない行為だからな。
アルカリオンが何を思って戦争を始めたのか、気になるところだ。
俺からすると、アルカリオンにはあまり苛烈な印象が無い。
戦争で敵を殺したいとか、他国を征服して支配したいとか、そういう野蛮な理由ではないと勝手に想像する。
なら何か大きな願いがあるのかと考えたら、そうでも無さそうな気がする。
暇潰しとか、そういう可能性の方が高そうだ。
実際、俺と出会ってからのアルカリオンは戦争に興味を失くしている。
俺と出会って暇ではなくなったから、というのは自惚れだろうか。
「最後の理由は?」
「前にエリザの戸籍関連で母上が王国に行ったことがあっただろう?」
「え、あー、そうだな」
「その時にアガーラムの王を煽ったらしい」
「ヘクトンを?」
思い出すのは生意気な弟の姿。
五年も経っているから、記憶の中のヘクトンよりも成長しているだろう。
「何でも『坊やを、レイシェルを王に据えなかったのは間違いですね。国が荒れ放題で笑えます』と無表情で言ったそうだ」
「アルカリオンって煽る時も無表情なのか……」
「……それはそうと、一つ良いか?」
「なんだ?」
「こ、この格好はなんなんだ!? 何故私はこんな格好をさせられている!?」
真剣な話をしているが、実はローズマリーにある格好をさせている。
それは、バニースーツだった。
カジノやエッチな酒場でお姉さんがよく着ているものだ。
今回はそれを改造している、いわば逆バニースーツである。
エッチすぎる。夜も捗るというものだ。
「本当はアルカリオンにも着せたかったけど、戦争の準備で忙しいらしいし……」
「私も暇では無いのだぞ!?」
それは分かっている。
でも俺が誘ったらいつでもオッケーしてくれそうなエリザですら、今は帝国の新設する部隊とやらで忙しくしている。
俺は一人だと寂しくて死ぬ生き物なので、ローズマリーに構ってもらいたかったのだ。
そういう思いの丈を伝えると、ローズマリーは少し困ったように笑った。
「まったく、仕方の無い奴め。でもまあ、たしかに最近は忙しくて相手してやれなかったからな。今夜は寝かさないぞ?」
「計画通り」
それから俺はバニーなローズマリーと長い夜を過ごした。
最高でした。
やはりコスプレエッチは素晴らしい文化だな。
今度はアルカリオンたちも一緒にチアガール衣装でシてもらいたい。
「え? 王国は海から来るのか?」
「諜報部が王国は海軍を用いて攻めてくる可能性が大という情報を得てな。欺瞞情報かも知れんが」
「いやー、どうだろ? 王国って陸軍は強いけど、海軍は量だけだから」
「む、そうなのか?」
実は王国も帝国も国土の一部が海に面しており、海軍を有している。
しかし、その中身は全くの別物。
帝国は魔導エンジンとやらを用いた機帆船を使っているようで、帆船よりも倍以上の速度が出せる。
対する王国海軍は全て帆船だ。
中には速度を出すために人力で漕ぐオール付きのものもあるが、やはり帝国の機帆船には遠く及ばない。
他国からの援助で数だけは帝国を圧倒しているが、あくまでも数だけ。
搭載している大型弩の射程も威力も帝国を上回ることはない。
帝国にも多少は被害が出るだろうが、王国が海軍で挑むのは無謀にも程がある。
「ヘクトンは何を考えてんだか」
「しかし、物量は厄介だ。海の上ではワイバーンが戦えないから、制空権も得られないからな……」
「え? そうなの?」
俺は意外な情報に目を瞬かせる。
すると、ローズマリーは「何を当たり前のことを」と笑った。
「ワイバーンは飛ぶ際に滑走路が必要だ。海に滑走路は無いだろう?」
「あ、空母とかは無いんだ?」
「くうぼ……? なんだそれは?」
「えーと、航空母艦? いや、ワイバーンだし、飛竜母艦かな? てことは竜母か。つまりは滑走路を船にする、みたいな?」
俺は何となく漠然としたイメージを口頭でローズマリーに伝えると、彼女は肩を震わせた。
「そ、そんなもの、考えたこともなかった!!」
「え?」
「それならばたしかに、海上でもワイバーンを運用することができる!! 問題は竜母を技術的に建造できるかどうかだが……」
「あー、技術的に無理な感じか?」
「いや、滑走路を船上に作るとなると、帆は乗せられないからな。魔導エンジンのみで進む完全な魔導船を造る必要がある。しかし、イェローナ姉上なら何とかしてくれるだろう。どのみち革新的なワイバーンの運用方法だ!! 流石はレイシェルだな!!」
「えーと、役に立てて良かったよ」
実は前世の知識を何となくのイメージで伝えたとか言えない。
しなし、帝国に竜母という概念は無かったのか。
もし王国が侵攻してくる前に造ることが出来たら、遥かに有利に戦えるはず。
王国もまさか海上にまでワイバーンが来るとは思っていないだろうし、対空魔法使いがいない戦場でワイバーンに遭遇するのは死と同義。
これは帝国が終始有利に戦いが進むかも知れないな。
「問題は魔石が不足するかも知れない点か。冒険者ギルドに依頼を出して、魔石を通常の何割か増しで買い取れば集まるか?」
「魔石?」
「む。そうか、レイシェルは知らなかったな」
帝国はあらゆるエネルギーを、魔石で補っているらしい。
魔石は帝室が極秘に管理している三つの鉱山と、冒険者が挑む大型ダンジョンから産出しているとのこと。
このうち帝室の管理下にある魔石鉱山は一年で採れる量を制限しており、帝国で消費される魔石の約七割を占める。
残りの三割は冒険者がダンジョンから採ってきた魔石を買い取っているそうだ。
ダンジョン産の魔石の買い取り値段を高くすれば、普段よりも多くの魔石が集まるらしい。
公共事業等で魔石を多く使用する場合によくやる手段だとか。
「ダンジョン……。良いなあ、夢がある」
アガーラムにダンジョンは無かった。
ファンタジーに憧れる青少年だった身としては一度は挑戦してみたい。
……ふむ。
「ローズマリー」
「なんだ?」
「俺もダンジョンに挑んで――」
「駄目だ」
「まだ言い終わってないのに!!」
お願いしても駄目でした、はい。
まあ、仮にも帝室に婿入りする身分だし、分かり切っていたことだ。
だからちっとも残念とか思っていない。思ってないったらない。
「いいですよ」
「え!?」
駄目もとでアルカリオンにお願いしてみたら、意外にもあっさりオッケーだった。
まじか!?
と思ったら、何やらアルカリオンが谷間から一枚の紙を取り出した。
誰に向けたものかは分からないが、どうやら手紙らしい。
「これを、ダンジョンの最奥にいる人物に届けて欲しいのです」
「!?」
ローズマリーがダンジョンの最奥と聞いて青い顔をしているが、俺はダンジョンに行けることに舞い上がって気付かないのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「兎、猫、犬、牛……。どれが好き?」
レ「どれも好き」
作者「分かる」
「バニーは断られないのか……」「なんだかんだ着てくれるローズマリー好き」「動物系のコスプレは最高」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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