第16話 捨てられ王子、分からせられる





「ぬあーっと!? エリザ氏の魔力が尽き、ローズマリーの剣が折れてしまいましたぞ!?」


「これは、どうなるんだ?」


「えー、今回のルールでは戦闘不能になった時点で敗北ということになるので……」



 しかし、ほぼ同時にローズマリーの大剣が折れてエリザの魔力が尽きてしまった。


 ルール的には引き分けになるのだろうか。


 いや、でもエリザはレイピアを持っているし、戦えはするはず。

 でも魔力が尽きて意識が朦朧としているみたいだから……。


 やっぱり戦闘続行は互いに不可能か。



「お待ちになって欲しいですわ!!」



 と、そこでエリザが審判を兼任しているイェローナが引き分け判定をしようとしたタイミングで、待ったをかけた。


 エリザは拳を構え、ローズマリーと対峙する。



「魔力が尽きたなら拳で戦えば良いだけのことですわ!!」


「……貴殿は剣があるのだから、わざわざ拳で戦う必要は――」


「貴女の剣が折れているのに私が剣を使うなど、そんな卑怯な真似を私にしろと!?」


「え、いや、別に卑怯ではないと思うが……」


「私のモットーは正々堂々!! 卑怯な相手には卑怯な手を、ですわ!! 貴女が正々堂々と戦うなら、こちらも正面から迎え撃ちますわ!!」



 やだ、エリザもカッコイイな。



「……そうか。魔力も尽きてふらふらだろうに……。流石はレイシェルの婚約者だっただけはある。貴殿は良い女だな」


「あら? 今さら気付きまして?」



 闘技場の真ん中で通じ合う二人。


 ノリが古き良き少年漫画のような感じがして、少しむずむずする。


 二人ともカッコイイかよ。



「男を賭けた女たちの熱き戦いですなー!! 某、こういうノリは好きですぞ!!」


「あははー!! やれやれ~!」



 アイルインが野次を飛ばし、ローズマリーとエリザの戦いは決着する。



「はあ、はあ、もう、指一本動かせませんわ……」


「わ、私もだ……」



 闘技場の中央で倒れる二人。


 二人を沈みかけの太陽が照らし、朱色に染め上げている。

 クロスカウンターからのダブルノックアウトで決着が付いたのだ。


 体格的にはローズマリーの方が有利かに思われた肉弾戦だが、意外にもエリザが善戦した。


 そう言えば昔、エリザが『最後に戦いで物を言うのは拳ですわ』とか魔法使いにあるまじきことを言ってたことがあったなあ。


 まさか拳でローズマリーと引き分けに持ち込むとは思わなかった。



「引き分けですな!! レイシェル氏!! 二人の治療をお願いしますぞ!!」


「あ、わ、分かった!!」


「えー? もう終わり〜? ひっく」



 俺は闘技場の中心で倒れる二人に近付いて、『完全再生』を使う。



「あふんっ、そ、そんなとこ触られたら感じてしまいますわ!!」


「べ、別にわざとじゃないから」



 ローズマリーは「私は後で構わん」と言うので、エリザを先に治療する。


 俺の『完全再生』は患部に触れる必要があるため、少し際どいところを触ったらエリザが頬を赤らめて変な声を出す。


 やめてやめて。ローズマリーからの視線が少し怖いから!!


 たしかにちょっとおっぱいを触ってるけど、あくまでも治療のため。

 やましい気持ちはこれっぽっちも……無くはないけど、ない!!



「全身にレイシェル様を感じますわぁ!!」


「へ、変なこと言うなよ……」



 女の子が見せちゃいけない下品な顔をしているエリザ。

 こういうところが無かったら、純粋に尊敬できる人間なんだけどなあ……。



「はい、エリザの治療は終わり!! 次はローズマリーだ」


「ああ、頼む。……んっ♡ お、おい、胸は怪我していないぞ」


「いや、念のため。念のためだから!!」



 ローズマリーの治療を始める。


 すると、ローズマリーは少し俯いて突然謝罪の言葉を口にした。



「……すまない、勝てなかった」


「いや、カッコ良かったよ」


「世辞は良い。せっかくデートできると思ったのだが」



 ローズマリーが勝った際の景品は一日俺を独占する権利だった。

 その権利を使って俺とデートしようと思っていたのか。


 可愛いかよ。



「言ってくれればいくらでもデートくらいするぞ?」


「母上が許さないだろう?」


「どうだろ? お願いしたらオッケーしてくれないかな?」


「……まあ、母上はレイシェルに甘いから、行けるかも知れないが……。決闘に勝てなかった私にレイシェルを誘う資格は無い」



 どうやらローズマリーは勝てなかったこと自体を気にしているらしい。


 よし、ここは俺が男を見せねば。



「じゃあローズマリー、今度デートしよう」


「だ、だから、勝てなかった私にレイシェルを誘う資格は……」


「誘ってるのは俺。ローズマリーじゃない」


「む」


「それに俺だってローズマリーとエロいこと以外もしたいしさ。どう?」



 俺の問いに対し、ローズマリーは困ったように笑った。



「ふふ、ははは。まったく、レイシェルには敵わないな。――んっ♡ だから胸は触るなと言っているだろう?」


「治療だから!! これは治療だから!!」


「……今夜、部屋に行くから触るのはその時にしてくれ」



 夜のお誘いを受け、俺は満面の笑みで了承する。


 すると、今まで静かに俺たちの会話を見守っていたエリザが言った。



「なんかてぇてぇですわ!! 流石の私でもあの空気に割って入る勇気はありませんわ!!」



 どうやらエリザは空気を読んでいたらしい。


 そう言えば決闘は引き分けになったが、景品云々はどうなるのだろうか。


 などと考えていた、その時だった。


 まるで俺の疑問に答えるように、俺の耳に誰かが囁きかけてきた。



「その点はご心配無く」


「うわああ!? び、びっくりした!! って、アルカリオン?」



 思い返してみると、決闘が始まってからアルカリオンの姿を一度も見ていない。



「今までどこに行ってたんだ?」


「少し転移魔法でアガーラム王国まで」


「え、転移魔法? なんかさらっと凄い魔法使ってない? というか、なんでアガーラムに?」


「エリザはアガーラムの王と戸籍上では離縁していなかったようなので、その手続きに行っていました」


「手続きというより、半ば脅しでしたよ」



 アルカリオンの説明を補足するようにそう言ったのは、エリザと一緒にいた黒髪ポニーテールの侍女のお姉さんだった。


 何やら侍女のお姉さんはアルカリオンと仲が良さそうだが……。


 いや、ちょうど良かった。


 アルカリオンに決闘結果を伝えて、景品云々をどうするか訊こう。



「アルカリオン。ローズマリーとエリザの決闘は引き分けだったんだが、どうなるんだ? さっき心配なくって言ってたけど……」



 俺が決闘に賛成した理由。


 それは未来を視たアルカリオンが「悪いようにはならない」と言ったから。


 しかし、結果は引き分け。

 これがアルカリオンの言う悪くない結果なのだろうか。



「引き分けなら、どちらにも景品を与えれば良いのです」


「「「え?」」」



 俺とローズマリー、エリザの声が重なる。



「坊やはエリザと結婚し、ローズマリーが坊やを一日独占する」


「ええ!? 悪いようにはならないって、そういうことだったのか!?」


「はい。エリザには帝国籍を与えますので、万事解決です」



 いや、でも流石に三人も妻がいるのは……。


 俺はちらっとエリザの方を見て、彼女の様子を窺った。



「やりましたわー!! 私、ついにレイシェル様と結ばれますのね!! ああん!! あんなコトやそんなコトも!! ちょっとアブノーマルなプレイまで!! 興奮で濡れてきましたわ!!」



 俺の知る五年前の姿と比べて遥かにムチムチ巨乳になったエリザ。


 その彼女を妻にする。


 ぶっちゃけて言うなら、俺には何もデメリットは無い。


 むしろ、エッチに積極的な女の子が妻になる。



「最高!! ――はっ!? いや、ローズマリー!! これは違うんだ!! 別に他意はなくてだな!?」


「……まったく。レイシェル、お前という奴は……」



 青筋を浮かべたローズマリーが、俺の腕をぐっと強く引っ張った。



「一日独占権はデートに使おうと思っていたが、やめだ」


「え?」


「今からお前を分からせてやる。覚悟しろよ♡」



 というわけで、俺はローズマリーに分からせられてしまった。


 途中でエリザが乱入してきた時は驚いたな。


 どうやら決闘を経て友情のようなものが育まれたローズマリーとエリザは、見事なコンビネーションで俺を蹂躙した。


 はい、悪くない結果になるどころか最高の結果になりました。


 ついでにローズマリーとエリザの激闘を帝都中に放映したことで、先日の一件で溜まっていた民衆の鬱憤を晴らすという目的も達成。


 全てが上手く行っていた。


 しかし、何事もずっと上手く行くということは無い。

 上手く行った後には、必ず何かしら上手く行かないことがある。


 その数日後、ドラグーン帝国にアガーラム王国が宣戦布告してきたのだ。


 








―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「自分よりも体格の良い女の子に無理矢理やられるのって良いよね」


レ「ね」



「拳で戦うの草」「戦争始まってて草」「相変わらず癖出してる……」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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