第15話 捨てられ王子、アルコールを解毒する




「さあ、始まりましたぞー!! 第一回、花婿争奪戦!! 帝国の第七皇女ローズマリーVS王国の公爵令嬢エリザ!! 実況は某、第五皇女イェローナが努めますぞ!!」



 イェローナがマイクを片手に叫ぶ。


 今日は作業着ではなく、まるで審判のようなキリッとしたスーツに身を包み、蝶ネクタイを着けている。


 そのせいか、おっぱいの主張が激しい。


 胸元のボタンが今にも弾けそうになっており、ボタンとボタンの間に生じた隙間から色々と見えそうだった。


 眼福眼福。


 帝都には闘技場があり、空中に映し出される魔法映像によって誰でも観戦できるようになっている仕組みだ。


 要は映像を生配信できる機能があり、これを作ったのもイェローナらしい。


 本当に帝国だけ技術が突出してるなあ。


 などと考えていると、イェローナが俺に話題を振ってきた。



「今回の戦い、どうなりますかなー。解説兼戦利品のレイシェル氏」


「戦利品言うな。てか俺が解説なのか。てっきりあっちかと思ってた」


「いやまあ、暇そうにしていたので呼ぶには呼んだのですがな……」



 イェローナが「一応、紹介しますかな」と言って隣にマイクを向ける。



「今回のゲスト。酒こそ人生、第二皇女のアイルイン姉様に来てもらいましたぞ!!」


「うぇーい、なんか来たらお酒奢ってくれるって言うから来たよ~。ひっく」



 もうゲストのアイルインは完全に酔っ払っているようだった。


 というか、会った時からずっと酔っている。


 周囲に漂う酒の匂いが強くなっており、ここ数日飲み歩いていたのかも知れない。



「あはははー!! 世界が、分身してる~!!」


「……ちょっと心配なレベルで酔っ払ってるし、回復してみる?」


「おや? そんなことができるのですかな?」


「まあ、アルコールも広義的には毒だからな。可能っちゃ可能だよ」



 というわけで、俺はアイルインの体内からアルコールを取り除いた。


 すると、意外な変化が現れる。



「……あ、えと、どうも」


「「え!?」」


「えーと、その、ご紹介に預かりました、第二皇女のアイルインです。今回はよろしくお願いします」



 そう言って映像を撮っているカメラのような魔導具に向かってお辞儀するアイルイン。



「ちょ、ちょっとイェローナ。どうなってんの? 素面のアイルインってあんな感じなの?」


「し、知りませんでしたぞ!! というか、冷静に考えてみたらずっとお酒を飲んでいるので素面を見るのが初めてですぞ!!」


「あー、えっと、すみません。五百年くらい酔っ払っていたので……。家族や義弟……あ、いや、お義父さん? にもご迷惑をおかけしました」


「え、ちょ。なんか急にしおらしくなって可愛いんだが!!」



 アルコールが抜けたアイルインは、なんというかお姫様っぽい雰囲気だった。


 儚げというか、守ってあげたくなるような感じ。


 あと地味に歳上のお姉さんからの「お義父さん」呼びがぐっときた。



「本当はお酒の飲み過ぎは身体にも心にも良くないって分かってるんです。でも私、自分がお母さんの娘に相応しいって胸を張って言えなくて、自分を誤魔化すためにお酒ばかり飲んで……大好きなお母さんは私の好きなようにすればいいって言ってくれるけど、それすら申し訳なくて――」



 な、なるほど。


 アイルインがアルカリオンに若干攻撃的な姿勢だったのは愛情の裏返しってことか。



「うっ、これからの未来のことを考えたら急に吐き気と涙が……」


「ちょ、誰かお酒!! お酒持ってきて!!」


「アイルイン姉様に飲ませて欲しいですぞ!! なんか可哀想になってきましたぞ!!」



 アイルインに多量のアルコールを摂取させると、いつもの酔っ払いが帰ってきた。



「んぐっ、ぷはあっ!! よーし、今日はお姉さんが解説頑張っちゃうゾ~!!」


「とまあ、少々衝撃的なことがありましたが、いよいよ選手入場ですぞ!!」



 イェローナが合図すると同時に、東西の入場口から二人の美女が入ってきた。


 東軍、帝国が誇る竜騎士団の団長であり、第七皇女のローズマリー。


 対する西軍、王国の天才魔法使いエリザ。



「ちなみに天才魔法使いとは、どれくらい凄いのですかな? 戦利品のレイシェル氏」


「戦利品言うな。……どれくらい、か」



 その質問に答えるのは難しかった。



「エリザの厄介なところは、エルフに匹敵する高い魔力量と出力速度、それから的確な判断力だな。状況に応じて適した魔法を大量に、それも最速で撃ってくる。魔法使い対策としてよくある『距離を潰す作戦』が有効かと思えば、彼女は剣に関しても王国一だった。遠距離でも近距離でも手強い、オールラウンダーだ」


「ふむふむ。ローズマリーに関してはどう思いますかな?」


「あー、すまん。俺はローズマリーがワイバーンに乗って戦っている姿しか見たことがない。だからローズマリーがどれくらいの実力を誇るのか、分からない」


「なるほどなるほど!! 実は某もローズマリーの素の実力は知らないのですぞ!! あの子は昔からワイバーンに憧れておりましたからな!!」


「ふむ。じゃあ結果は誰にも分からないのか」



 イェローナとそれっぽい話をしているうちに、戦いのゴングが鳴った。


 ローズマリーの獲物は俺の身長よりもデカイ両刃の大剣。

 それをエリザが魔法を使用する前に接近し、軽々と振り回す。


 圧倒的なパワーとスピードだった。


 対するエリザはレイピアを片手にどうにかローズマリーから距離を取ろうと一撃離脱を繰り返している。


 身体強化魔法を併用しているのか、その動きはローズマリーに負けず劣らず速い。


 しかし、ローズマリーはもっと速い。


 更なるスピードでエリザに肉薄し、全力で大剣を振るった。



「おおっと!! 序盤はローズマリーが有利か!?」


「でもあんな勢いで動いたら、すぐに体力が底を突いちゃうんじゃ……」


「あー、大丈夫大丈夫。ローズマリーは丸一日全力疾走しても息切れしないスタミナの持ち主だから」



 アイルインが横から解説を入れる。


 言われてみれば、たしかに夜のローズマリーが息切れしているところを見たことはない。



「ならばこのままローズマリーの勝ちですかな?」


「いや、どうだろうね? 相手の女の子、エリザちゃんだっけ? なーんか企んでるねぇ~。ローズマリーのパワーとスピードは強力だけど、あの子は堅物な性格だから搦め手には弱い。――ほら」


「「おお!?」」



 エリザの土魔法でローズマリーは足下を陥没させられ、姿勢を崩す。


 しかし、立て直しに要した時間は一瞬。


 その一瞬を経て再び攻撃に出るローズマリーだったが、エリザはその一瞬で次の魔法を放つ準備を終えていた。


 ローズマリーに氷の槍が殺到した。


 大型の魔物を討伐する際に使うような最高威力の魔法である。



「あーっと!? ローズマリーにエリザの氷の槍が無数に襲いかかりましたぞ!?」


「いや、ローズマリーも凄いぞ!? 全部叩き斬ってる!?」



 圧倒的な物量攻撃を行うエリザもエリザだが、ローズマリーもローズマリーだ。


 まさかエリザの氷の槍を大剣と拳で叩き落とすとは思わなかった。


 常人なら秒で串刺しになるであろう氷の槍の弾幕の中、ローズマリーは平然と前進し、エリザに接近する。


 何があっても止まらないその姿は思わず見惚れてしまうくらいカッコ良かった。


 俺の妻、最高。



「ぬあー!? ここでエリザ氏が更に攻撃魔法を展開!? 流石のローズマリーも足を止めてしまいましたぞー!? ほら、レイシェル氏もっとローズマリーを応援するのですぞ!!」


「ちょ、イェローナ。当たってる当たってる」


「――あっ。し、失敬失敬。少し興奮しすぎましたな」



 イェローナの大きなおっぱいが腕に当たり、ちょっとドキッとしてしまう。


 ローズマリーとエリザの戦いは一進一退の激闘であり、数十分にも渡って続いた。


 しかし、その終わりは唐突に訪れる。


 ローズマリーの大剣が折れ、エリザの魔力が尽きてしまったのだ。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「酔っ払ってるお姉さんから酒を奪って断酒させた後、お酒をプレゼントしてでろんでろんに酔わせたい。それを無限ループしたい」


レ「まーた癖出しやがって」



「き◯りさん……ボソッ」「本当はアルカリオンのこと好きなアイルインすき」「作者の癖で笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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