第14話 捨てられ王子、元婚約者と再会する





 アルカリオンが怒り狂い、帝都で暴れてから数日が経った。


 現在、帝都は再建が行われている。


 当然ながら、民衆はアルカリオンに突如として帝都の中心に出現した純白の竜について詳しい説明を求めた。


 するとアルカリオンは、あっけらかんと言った。



「軍務大臣が反乱を起こそうとして邪悪な竜を復活させました」



 大雑把にまとめてこう説明した。


 どうやら帝都の民はあの白竜がアルカリオンだとは知らないようで、好戦派だった軍務大臣の陰謀だと信じたらしい。


 そして、その軍務大臣はアルカリオンがとうに処刑してしまったのだとか。


 要は責任を軍務大臣に擦り付けたってわけ。


 その旨を民衆に説明する際、アルカリオンの隣にいたハイエルフの宰相は「こ、こいつ、やりやがった」と信じられないものを見る目でアルカリオンを見ていた。


 ……それにしてもあのハイエルフの宰相さん、めっちゃ綺麗なお姉さんだったなあ。


 今度お話したい。


 とまあ、なんやかんやありながらも、帝都はわずか一ヶ月で元通りになった。


 信じられないかも知れないが、ドラグーン帝国は多民族国家だ。

 エルフやドワーフ、獣人が協力して街の修復をすれば、あっという間に元通りになってしまう。


 前世で言うブルドーザーやダンプカーに相当する地竜も有しているからか、その作業は実に効率的だった。


 しかし、元の生活が戻ってきたかと言うとそうでもなかったりする。



「ア、アルカリオン? そろそろ離して欲しいなーって」


「駄目です。坊やはあと百年ほど、私の腕の中にいてもらいます」


「骸骨になっちゃうよ……」



 アルカリオンが暴走した日以来、俺はずっと彼女に抱き締められて過ごしている。

 食事も睡眠も、政務を行う時も俺を抱き締めているのだ。


 そして、めっちゃナデナデしてくる。あまりにもナデナデしてくるので、ぶっちゃけ禿げそうで心配だったりする。


 冷静に考えてみたらアガーラムの先王、つまりは俺の父親は禿げだった。


 ……いや、大丈夫だと信じたい。


 俺は身体の成長が何故か止まっているし、きっと大丈夫なはずだ。


 でもやっぱり心配なので、効果があるかは分からないが、『完全再生』で毛髪も治せるように練習しておこう。


 と、俺がアルカリオンの私室で撫でられながら過ごしていると、ローズマリーが部屋に入ってきた。



「母上」


「……なんですか? ローズマリー」


「レイシェルを手放したくないのは分かりますが、いい加減にしてください。流石にトイレやお風呂まで一緒に行くのはやりすぎです」


「坊やも喜んでますし、ローズマリーもノリノリだったではありませんか」


「そ、それはまあ、そうですが……」



 あ、ハイ。最高でした。


 トイレやお風呂で色々するのは背徳的で凄く興奮しました。


 ローズマリーは最初こそ恥ずかしがっていたが、俺とイチャイチャしているアルカリオンを見て対抗心を燃やしてきた。


 3P最高。



「それよりもローズマリー。今は竜騎士団の訓練の時間。にも関わらずここにいるということは、何か用があるのでしょう?」


「え、ええ、そうでした。実はレイシェルに客人が来ておりまして」



 え? 俺に客人?


 一瞬、治療院で働いている部下かと思ったけど、彼らの顔はローズマリーも知っている。


 彼らならローズマリーもわざわざ俺に知らせに来たりはしないだろう。



「誰だろ? 帝城からは殆ど外出してないから顔見知りもいないし……」


「それが、レイシェルの元婚約者を名乗っていてな」


「――え゛?」


「尊大な態度の女だ。それに、前に聞いたレイシェルの元婚約者と特徴が一致する」



 あー、なるほどなるほど。



「うーん。会った方が良いよな?」


「会いたくないのか?」


「いや、色々大変だったけど仲は良かったと思うし、別にそういうわけじゃないんだけど……」



 俺の元婚約者、エリザ・ベイン・アンドレッド。


 アンドレッド公爵家の長女であり、アガーラム王国で知らない者はいない問題児。


 王国武術大会で各部門を総ナメにした稀代の天才魔法使い。

 ついでにコミュニケーション能力が高く、彼女を慕う者は多かった。


 何故か俺はその彼女から好意を向けられていたのだ。



「当時は嬉しかったけど、今はローズマリーやアルカリオンがいるし、気まずいって言うか……。まあ、まだ彼女が俺に好意を持っているとは限らないけど」


「いや、あれはまだ好意を抱いているぞ」


「え? なんで分かんの?」


「女の勘だ」



 なるほど、女の勘か。それなら侮らない方が良いかも知れないな。


 と、その時だった。



「ちょっと失礼しますわね!!」



 金髪縦ロールの美女が入ってきた。


 俺の知る頃よりも随分と大人びているが、その顔には見覚えがある。


 そして、スタイルが抜群になっていた。


 以前は慎ましかった胸が、ローズマリーやアルカリオン程ではないにしろ、とても大きくなっていたのだ。


 腰もキュッと細く締まっている。


 最後に会ったのが五年前だから違っていて当たり前だが、あまりの変化に俺は驚いた。



「エリザ、だよな?」


「まあ!! お久しぶりですわね、レイシェル様。ちっともお変わりないようで……というかあまり成長しておりませんのね!!」



 この子は本当にズバッと物を言うなあ。



「っ、無礼者!! ここは陛下の私室であるぞ!!」


「あら、そうですの?」



 ローズマリーが剣を抜き、無断で入ってきたエリザに向ける。


 しかし、エリザは特に気にしていない。


 ただ帝国の支配者であるアルカリオンの部屋に入ってきたことは素直に謝罪した。



「それは失礼しましたわ。こちらからレイシェル様の匂いがしたもので」



 匂いって何だよ、匂いって。犬じゃないんだから。


 アルカリオンが目配せし、ローズマリーに剣を下ろさせる。



「貴女の無礼は許しましょう。して、坊やに――レイシェルに用があるとのことですが」


「ええ!! 今日はレイシェル様と結婚しようかと思いまして!!」


「……なるほど」



 え? ん? え!?



「ちょ、な、何言ってんだ? エリザはもうヘクトンと結婚してるんじゃ……」


「ああ、ご心配なく!! 私、しっかり処女は守り通してみせましたわ!!」


「いや、違う!! そうじゃない!! それは聞いてない!!」


「はっ!? 私としたことが、うっかりしておりました。ご安心なさいませ。私、アブノーマルなプレイも予習済みですわ!! 赤ちゃんプレイもSMプレイも!! ああ、寝取らせはNGですわ。私、レイシェル様以外に肌を許す気はありませ――」



 エリザのマシンガントークが止まらない。


 一度こうなると中々止まらないんだよなあ、と思っていたら。


 ローズマリーが剣を抜いた。



「帰れ、王国の公爵令嬢」


「あら?」


「レイシェルはもう私の男だ。連れ戻そうと言うなら容赦はしない」


「……ふむ?」



 ローズマリーの台詞に思わず胸がキュンってなってしまった。


 やだ、カッコイイ。



「って、んなこと考えてる場合じゃない!! 二人とも喧嘩は――」


「おやめなさい、ローズマリー」


「っ」



 まさに一触即発の空気だったが、アルカリオンの一言でローズマリーは止まった。


 すると、アルカリオンが続けて言った。



「せっかくですし、坊やを賭けてイベントでも催しましょうか」


「「!?」」


「あら、具体的な内容をお聞きしても?」


「貴女が勝ったら坊やと結婚、ローズマリーが勝ったら一日坊やを独占です」


「乗りましたわー!!」



 乗るな乗るな!!


 俺とローズマリーはアルカリオンのあまりにも突然の提案に困惑した。


 対するアルカリオンはどこ吹く風である。



「ア、アルカリオン。流石にそれは……」


「そ、そうです!! まるでレイシェルを景品のように扱うなど……」


「勝てば良かろうなのです。最初から負けるつもりの腰抜けが私の娘たちにいるとは思えませんが」


「む」



 ローズマリーがアルカリオンに焚き付けられ、闘志を燃やし始める。


 え、えぇ、どうすんの、これ。



「ああ、坊やには話しておくべきですね」


「え?」


「先に言っておくと――」



 俺はアルカリオンの話を聞いて、頷いた。



「オッケー!! じゃあやろう!!」


「正々堂々勝負ですわー!!」


「望むところだ!!」



 こうしてローズマリーとエリザの決闘が即日行われるのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「久しぶりに再会した女の子がムチムチ巨乳美女になったら興奮するよね」


レ「分かる」



「アルカリオンにナデナデされたい」「ローズマリー素敵」「あとがきで頷いた」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る