第3話 捨てられ王子、帝都まで連行される





「ローズマリー殿下、この者らはどうしますか?」



 ローズマリー殿下とやらを治療した後、竜騎士たちは問答無用で俺たちを拘束した。


 まあ、敵だからな。この扱いは仕方ないと思う。



「でも、あの、なんで俺だけ剣を向けられてるんですかね?」



 部下たちは縄で拘束されているだけなのに、何故か俺は剣を向けられている。


 怖い。


 刺されても首を切断されても死にはしないが、痛いものは痛いし、怖いものは怖い。


 そう思っていると、ローズマリーの副官と思わしき竜騎士の女性が俺の首に剣を押し当てながら言う。 



「ローズマリー殿下の玉体に触れたのだ。万死に値する」


「ちょ!? や、やだ!! 死にたくない!! せめて服だけは着せて!! 全裸のままは嫌だ!! 全裸のままは嫌だ!!」



 必死に抵抗していると、その様子を見たローズマリーが止めに入ってくれる。



「やめろと言ったはずだ、リア」


「で、ですが……」


「その少年は私の命の恩人だ。ここは戦場故に捕虜とするが、丁重に扱え」


「……承知しました」



 ローズマリーのお陰で事なきを得て、俺たちはそのまま連行された。


 幸いにも拷問などを受ける様子は無く、目隠しをされて馬車に乗せられ、そのままどこかに連れて行かれる。



「はあー、もう!! 殿下のせいですよ!!」


「ご、ごめんて。でも皆、結局納得してくれてたじゃん」


「何か言いました?」


「……ナンデモナイデス」


「大体殿下は――」



 俺は目隠しをされた状態で副官からお説教を受け、部下たちがそれを聞いて笑う。

 明らかなピンチなのに余裕がある部下たちが誇らしいな。


 もしかしたら副官も狙ってこの状況で俺を叱っているのかも知れない。


 ……狙ってのことだよね?


 流石に私怨で上官を出汁にして空気を和ませようとしてるわけじゃないよね?


 そう信じたい。



「おい、貴様」



 馬車に揺られることしばらく。


 正確な時間は分からないが、二、三日経ったところで馬車が停まり、声をかけられる。


 俺に剣を突きつけてきた副官の女性の声だ。


 ローズマリーに呼ばれていた名前は、たしかリアだったな。



「貴様はこっちだ。他の者は別室に連れて行く」


「っ、部下をどうする気だ?」


「……別に取って食ったりはしない。彼らは捕虜として丁重に扱う。ローズマリー殿下のご命令だからな」


「え、じゃあ俺は?」


「知らん。ローズマリー殿下に連れて来いとしか言われていないからな」



 俺は目隠しをされたまま腕を引っ張られて、どこかへ案内される。


 しばらくして、不意に目隠しを外された。


 遮られた視界に光が差し込み、立ち眩みのような感覚に陥る。

 目が光に慣れると、俺の目の前にはローズマリーが立っていることに気付いた。



「うおっ、でっか」


「あ、あまり胸をじろじろ見るな」



 俺がチビだからか、それともローズマリーが長身だからか。


 ちょうど俺の目の前にはローズマリーのたわわに実ったおっぱいがあった。


 ……ごくり。


 っと、いかんいかん。まずは状況を把握しなければ。



「ここは……え?」



 俺は辺りを見回して絶句した。


 そこは城のようだった。

 というか、王太子として城で暮らしたことのある俺にはすぐ分かった。


 ここは城だ。


 しかし、当然ながらアガーラム王国の王都にある城ではないだろう。


 建築様式も異なるため、間違いない。


 その城の中の大きな扉がある廊下の前で俺とローズマリーは対峙していた。



「あの、もしかしてここって……」


「うむ、察しが良いな。ここは神聖ドラグーン帝国の帝都、その中央区にある帝城だ」


「……まじっすか」



 てっきり捕虜としてどこかの基地に運ばれているのかと思っていたが……。


 まさか首都とは。完全に予想外だった。



「お、俺をどうする気だ? 先に言っておくと、部下から殿下なんて呼ばれちゃいたが、もう王族としての権力は何もないぞ。捨てられた身だからな。人質としても無価値だぞ」


「む? そなたは、いや、貴殿はアガーラムの王族だったのか?」


「……あれ? 墓穴掘ったかな?」



 内心で焦りまくる俺を見て、ローズマリーはくすくすと笑った。


 やだ、笑うと可愛い美女とか反則だろ。



「す、すまない。私はローズマリーと言う。ドラグーン帝国の第七皇女だ」


「だ、第七皇女? まじか」


「うむ、大まじだ。貴殿の名を教えてくれるか?」


「……レイシェルだ。あとついでに言っておくと、見た目ほど若くない。今年で二十歳だからな」


「む? ど、同年代だったのか。すまない。しかし、レイシェルか。たしかにアガーラムの先王の長子と同じ名だな。良い名前だ」



 ローズマリーは柔らかく微笑むと、途端に真剣な面持ちになる。



「レイシェル殿。貴殿の扱う治癒魔法は、普通のものとは違うな?」


「な、なんでそう思うんだ?」


「……ふむ。今からあるものを見せるが、あまり驚かないで欲しい」


「え?」



 そう言ってローズマリーが片耳に付けていたイヤリングを外した。


 すると、ローズマリーの容姿に変化が現れる。


 頭から二つの角が生え、腰の辺りからは真紅色の鱗に覆われた翼と尻尾が生えてきた。



「このイヤリングは身体変化魔法が付与された魔導具でな。ワイバーンに乗る際、角や翼があると何故か彼らを怖がらせてしまうんだ。だからこのイヤリングで隠している」


「な、なるほど。ドラグーン帝国の皇族が竜人って噂は本当だったのか」



 竜人はエルフを上回る高い魔力と、獣人を上回る身体能力、ドワーフを上回る器用さ、人間を上回る知能を有する最強種って本か何かで見た気がする。



「でも、それが俺の力と何の関係が?」


「竜人は強靭な肉体を持つが、それ故に高い魔力抵抗を持ち、治癒魔法が効かないデメリットがあるのだ」


「え!? い、意外な弱点だな。……あっ」


「気付いたようだな。そうだ、レイシェル殿の力は私の怪我を容易く治してしまった」



 俺は大体状況を察した。



「え、えーと、つまり、俺の力で治して欲しい竜人、皇族がいる、と?」


「話が早くて助かる。まだ公にはなっていないが、私の母、つまりは女帝陛下が賊の襲撃に遭ってな。その身に死の呪いを受けてしまい、意識不明なのだ。どうか母を助けて欲しい」



 う、うーむ、流石に敵国の皇帝を助けるのはどうなのだろう。


 でも断ったら別室に連れて行かれた部下がどうなるか分からないし、俺も何をされるか分かったもんじゃない。


 ……仕方ないな。



「分かった。その代わり、部下と俺の人権と安全を保証して欲しい」


「っ、ああ!! もちろんだ!! ありがとう!!」


「おうふ!?」


「あ、す、すまない。嬉しくてつい……」



 ローズマリーが抱き着いてきて、大きなおっぱいに頭を埋めてしまった。


 俺は俄然やる気を漲らせる。


 アガーラムの連中に裏切り者とか言われようとも知ったことか。

 先に裏切ったのは奴らだし、俺は自分に正直に生きる。


 決してローズマリーの大きなおっぱいに感動したからではない。


 ……ないったらない。



「任せてください、ローズマリー殿下。俺がどんな怪我でも治してみせますよ。毒でも呪いでも一発で消し飛ばしてやります」


「おお、実に心強い!! 女帝陛下はこの部屋の中にいる」



 どうやら俺たちの目の前にある扉の向こう側にドラグーンの女帝がいるらしい。


 ローズマリーが扉をノックする。


 返事は無かったが、ローズマリーはしばらく間を置いて扉を開いた。


 中は広い部屋だった。


 部屋の中央に天蓋カーテン付きの巨大なベッドがあり、寝心地はめちゃくちゃ良さそうだ。


 そのベッドの上に人が眠っている。



「……お、おお……」



 思わず感嘆の息が漏れてしまう。


 ベッドに眠っていたのは人形のように美しい女性だった。

 純白の長い髪や透き通るような白い肌、思わずゾッとするほど整った顔立ち。


 背丈はローズマリーよりも更に高い。


 横たわっているため正確な身長は分からないが、2mを優に越えているのではないだろうか。


 しかもボンキュッボン。


 おっぱいは夏場のスーパーに売っている大玉スイカより三回りはデカイ。


 腰は細く締まっており、太ももはムチムチ。


 頭からは角が、腰の辺りからは竜の翼や尻尾が生えていることからも、この女性が帝国の皇室のトップなのだと一目見て分かった。



「き、綺麗な人ですね」


「フッ。母を褒められるのは悪い気はしないな」


「……でも……」



 でも、空気が淀んでいる。


 部屋の換気が不十分だったようで、少し埃っぽい。

 病人を寝かせておくにはあまり良いとは言えない環境だった。



「随分と空気が淀んでますね」


「……ああ。私が留守にしている間、陛下の世話を侍女に命じたはずだったのだがな。あの愚か者共め」


「侍女は何してんですか?」


「陛下の受けた死の呪いは伝染するという噂を真に受けたのだろう。まさか私が留守にしている間、ずっと放置していたとは思いたくないな。思わず侍女の首をねじ切ってやりたくなる」



 う、うわー、怒った美女って超怖い。



「あ、す、すまない。すぐに治療に取り掛かってくれるか?」


「あ、はい。えーと、取り敢えず俺の力は直接触れる必要があるので、そのぉ」


「あ、ああ、そうか。分かった。母上の衣は私が脱がせよう」



 一糸まとわぬ姿となったドラグーン帝国の女帝の身体に、俺は手を伸ばした。


 先に言っておくが、これは治療行為である。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「長身お姉さんって良いよね」



「全裸で捕まって草」「どれくらいデカイのか気になる」「分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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