第六話 護衛騎士隊、戦闘態勢!!
パラベラ村を襲った者の正体について、バンドベルは当初、様々な予想を立てていた。
魔物の群れかも知れない。
炸裂系の魔法も使った、賊徒による襲撃かも知れない。
ここは共和国との国境に近い故、最悪、共和国軍による襲撃も考えうる。
だが現実は違った。
今目の前にいるのは、村を壊滅させた張本人であろうソイツは、そのいずれでもなかったのだ。
「KEOooooooOOOOOO!!!!!!」
ソイツが二本足で立ち上がると、元々大きかった身体がさらに巨大に見えた。
四足歩行時の体高で5~6メルト、体長は10メルト近くあるのではなかろうか。
ずんぐりと太い後ろ足に、だらりと下げた長い前足。
前足の先には、鋭く光る四本のかぎ爪。
丸っこいシルエットの顔には金色の四ツ目があり、ぎょろぎょろと別個に
太い針金のような体毛は黒く、そして背中からは、
パラベラ村の人々の奮戦の痕だろうか、足や胴には数本の矢や剣、
圧倒的存在感、恐怖感、強者感。
その場の誰もが、身じろぎ1つすることができない。
騎士たちが乗る馬でさえも、凍り付いたように動きを止めていた。
「ヴォーロス=ガルヴァ……」
隊の誰かが、掠れるような声を絞り出す。
――……ヴォーロス=ガルヴァ。世間一般では、短くガルヴァとも。
かつての人魔大戦時に大挙して現れ、何千何万と言う古代人の命を貪り喰らったと言われる伝説の魔獣だ。
古代世界では『熊』と呼ばれる獣に酷似したソイツは、現代では”ヴォーロス”と呼ばれる魔物の変異種だと言われている。
他者のコアを喰らうことで成長する能力を備えた変異個体が、他の魔物のコアを摂取し続けた結果、異常進化してしまった姿らしい。
背中の
しかし、である。
文献からの研究が進み、かつてこんな化け物がいた、と再現図が描かれ模型が造られてはいるものの……ヴォーロス=ガルヴァの姿を実際に目にした者は、この数百年誰もいなかった。
ヴォーロス=ガルヴァは、古代人の滅亡とともに急激に数を減じ、いつしかいなくなってしまっていたからだ。
しかし今、その化け物は間違いなく、目の前に存在している。
……一体なぜ、今、こんなところに!?
バンドベル含め、睨みつけられた護衛騎士隊の面々の誰もがそう思った……その時。
ガルヴァの顔にある、
直前までバラバラの方向をギョロギョロ見廻していたそれらの動きが、急に揃った。
四ツ目がぞるんと一斉に見据えたその先にあるのは、騎士たちが護る純白の箱馬車だ。
「ッ!」
ハッとするバンドベル。
そう、ガルヴァは他者のコアを喰らう。
それは、自身のエネルギー源となる大量の魔力を効率的に得るためであり、特に魔力保有量が多い者のコアは、ヤツにとって最高のご馳走だ。
そして、この場において最も魔力保有量の多い者、それは。
……姫様!
「GuF,Fu,Fu,Fu……」
ガルヴァの口元が、ニィィッと吊り上がったように見える。
バンドベルは察した。
この化け物は、今、自分たちが護るべき姫の命を狙っている。
あの優しく無邪気で、まだ幼い少女の身体を引き裂き……その身からコアを取り出して、喰らおうとしているのだ。
……そんなこと、させてなるものか!
「総員、戦闘態勢ッ!」
バンドベルの
目の前の化け物からのプレッシャーに負けないよう、必死に声を張り上げる。
「皆、
強大な敵に威圧され、その身と表情を凍り付かせていた騎士たちが、ハッとして我に返っていく。
ここにいる者たちは全員、個々の事情は様々なれど、みな何かしらの形で領主一家に救われた過去を持つ。
敵がどれだけ恐ろしかろうと、護るべき主を置いて逃げようなどと考える者は、1人もいなかった。
「剣を抜け! 槍を、弓を、銃を構えよ! 奥方様と姫様を、お守りするのだ!」
「「「「「応ッ!」」」」」」
勇ましい返事が返ってくる。
戦意を取り戻した騎士たちの表情に、バンドベルは満足げに頷くが、当然ながらまだ油断できるような状況ではない。
左腰に佩いていた剣をすらりと抜いた後、その切っ先を敵に向け、バンドベルは続けて指示を出す。
「ゼルクト、バルグレン、ランバルト、シュデリコは下馬戦闘。
「「「「了解!」」」」
「ガイデル、セシリアはそのまま機動戦だ。攻撃しつつ周囲を旋回、敵を攪乱せよ!」
「「はっ!」」
指示の通り、屈強な騎士四人が素早く馬を降り、
軍馬として鍛えられているだけあって、彼らの金縛りは既に解けていた。
馬たちは一声いななくと、街道脇の草原に向けて駆けていく。
すぐに姿も見えなくなるが、指笛一つ吹けばすぐに戻ってくるよう訓練してある。
一方、街道上に残された四人の騎士たちは、巨大な敵を正面に
背負っていた
伸縮式の槍が「カシュンッ!」と3メルト程まで伸びて、ギラリと光る穂先が四本揃って敵を睨んだ。
民衆に威圧感を与えるという理由から、顔こそ見えるようにはなっているものの、四人全員が
屈強な男たちが白銀に輝く
「ピート!」
騎乗したまま騎士たちの後方から指示を出すバンドベルは、続けて背後を振り返った。
そこにいるのは、馬車の御者台で手綱を持ったまま固まっている、若い男。
バンドベルの呼びかけに、御者である彼はハッとして答える。
「は、はい!」
「奥方様と姫様を頼む! この場は我々に任せ、馬車と共に退避!」
「わ、わかりました!」
指示を受けた御者の男は、馬首をめぐらそうと慌てた様子で手綱を引いた。
だが、彼の前にいる馬がそれに従おうとしない。
その場で凍り付いたように固まったまま、動こうとしないのだ。
「ど、どうしたんだ、おい!? 動け、動けよ!」
繰り返し繰り返し、御者の男はグイグイと必死に手綱を引くが、効果は見られなかった。
バンドベルたちが乗る軍用馬と違い、この馬は魔物等の脅威と対峙するような訓練を受けていない。
突然に強大な化け物に威圧されたことで、恐怖で動けなくなってしまっているのだ。
「KEOooO!!!!!!」
だがそんな事情は当然、ガルヴァには関係がない。
ちょっとした山のようなサイズの真っ黒な巨体が、どすん、どすんと地面を揺らしながら迫ってくる。
それを迎え撃たんと、ガイデルとセシリアの二人が進出し、
騎士たちの死闘が、始まろうとしていた。
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