第二十八話 猟狼を撃て! ②
黄色かった狼たちの目の色が、一斉に赤に変ずる。
そして突然に、クレオさんたちを挟撃するような動きを止めて……。
「Gaw!!」
「Gaw,GawGaw!!」
私に向けて、一直線に突っ込んできた!
吠える声が一層荒々しくなり、八対の赤い目がこちらを睨む。
「ひっ!? な、なに!?」
――ピピィ―――――ッ! ピュィ――ッッ!!
再び笛のような音が鳴り響くが、『狼』たちの様子に変化はない。
完全に無視しているように見える。
「と、とにかくやるよ!」
八体のでっかい『狼』たちに群がられたら、私なんて一瞬で肉片にされてしまう。
こっちは見張り台の上にいるとはいえ、『狼』たちがジャンプしたら届くかも知れないし……。
とにもかくにも、近づかれる前に倒すしかない!
私は続けて、マルコに指示を出した。
「動きが速い、よく狙って!」
「
「ニードル、撃てっ!」
左から迫りくる『狼』たち四体を指さして、命ずると同時に。
私の身体の左右に二体ずつ並ぶ、シルフィード・エッジたち。
その先端から、薄緑色のビームが斉射される!
それらは寸分たがわず、『狼』たちの身体を捉えた。
……かに思われたが。
「え!?」
魔導エネルギー砲:ニードル。
放たれたそれらはすべて、『狼』たちではなく、地面を抉っていた。
攻撃はぎりぎりで命中せず、狼たちの身体のすぐ後ろや、左右に着弾したのだ。
「も、もう一度! 撃てっ!」
再度、一斉射。
だが結果は同じだった。
マルコの狙いは完璧のはずなのに……『狼』たちの動きが速すぎて、一発も当たらない。
そしてそうこうしている間にも、『狼』たちはぐんぐん距離を詰めてくる。
……どうしよう、このままじゃ……!!
いざとなっても、しばらくはイージスの障壁で耐えられるだろうけど、それじゃじり貧だ。
私がシルフィード・エッジを全力で扱えるのは精々10分ほどらしいし、エネルギー切れの問題もある。
10分を過ぎたり、シルフィード・エッジのエネルギーが切れたりしたら、私は『狼』たちに
自分よりも大きな獣に、噛みつかれ引き倒され、ズタズタの肉片にされていく自分を想像して……身体中から冷たい汗が吹き出し始めた、その時。
「報告:接近中ノ目標
冷静に、無感情に、マルコが言った。
いつものことだけど……正直、私は、マルコが言っている内容の半分も理解できていない。
だけど、とにかく10秒時間を稼げば、私の
「10秒? 10秒耐えればいいんだね!?」
「肯定。高速演算処理開始、ニューラルスフィア負荷増大二注意」
瞬間、襲ってきたのはジクジクとした鈍い頭痛だった。
「ぅあ……っ!?」
突然の痛みに驚いてしまい、思わずうめき声が漏れる。
シルフィード・エッジは戦闘中、
たぶん、今はその”間借り”している部分をフル活用して”高速演算処理”とやらを行っていて……この頭痛は、そのせいだろう。
けれど、こんなの”脳内お手紙”が送られてきた時に比べれば、全然大した痛みじゃない!
「この……くらいっ!」
唇をきゅっと引き結んで痛みに耐えつつ、私は足元に置いていたバックパックからあるアイテムを取り出した。
おもりが入ったこぶし大の麻袋から、にょっきりと紐が生えただけの……一見すると何に使うか全く分からない謎アイテム。
その名も、”魔物避けの小袋”。
出発前にアルが私のために選び、渡してくれたものの1つだ。
「……理由はよく分らんが、お前は魔物に狙われやすい」
「危険だと思ったら、これを使え」
「逃げる時間ぐらいは、稼げるかも知れん」
「使い方は――……」
それから、
「せっ、やぁっ!」
迫りくる狼たちに向かって、私は思いっきり腕を振り抜いた。
遠心力で紐が抜けて、こぶし大の麻袋だけがぽーんと前に飛んでいき……。
麻袋は、迫りくる狼たちより大分手前の地面にぽてりと落下。
その僅か一瞬ののち、
――パンッ! パパンッ! パンッ! パパパンッッ!!
連続する破裂音とともに麻袋が弾け、薄く白い煙がまき散らされた。
”魔物避けの小袋”は、遺跡からよく発掘される”炸裂の粉”と、魔物が苦手とする匂いを発する薬草等を組み合わせて作られる。
一部の魔物はこの”炸裂の粉”が爆ぜる音をかなり警戒する習性があるらしく、その音と同時に魔物が嫌う匂いを放出することで、魔物を追い払うことを目的とするアイテムである。
「Gawn!?」
「Gaw,Gawn?」
効果はてき面だった。
『狼』たちは音と匂いをあからさまに警戒し、足を止める。
だが、”魔物避けの小袋”に殺傷力はない。
『狼』たちが動きを緩め、警戒したのは僅か数秒で、すぐに「これはコケ脅しだ」と気付いたらしい。
「Gaw,GawGawGaw!!」
再び、猛進が始まる。
もしこれが、走って逃げいている最中だったりしたら、私の足じゃほとんど何の意味も無かっただろう。
でも、今は違う。
「行動パターン分析完了。
マルコが平坦な声色で告げて、同時にジクジクと頭に響いていた痛みが消える。
”魔物避けの小袋”は見事に、必要な時間を稼いでくれたのだ。
「マルコ、ニードルは当てられる!?」
「肯定:現状デノ攻撃命中率ハ、95%以上」
「よし! それじゃいくよ、マルコ!」
言うと同時に私は、右手をサッと
シルフィード・エッジ四機はその軌跡に
「ニードル、いっけぇえ!」
私が指さした左側の『狼』たちに向けて、薄緑色のビームを斉射した!
その攻撃はただの一体も狙いが被ることなく、計算しつくされた軌道で目標へと向かう。
一見すると見当違いの方向に放たれた攻撃ではあったが……。
それらは相手が一瞬後に向かう先を完全に読み切った射撃であり、『狼』たちは自らビームに飛び込んでいくような形で、次々と被弾していった。
「Kyawnn!?!?」
「Ga――……!?!?」
先日の模擬戦の時のように手加減したものではなく、致命の威力を込めた一撃だ。
左から迫ってきていた『狼』たちは四体とも、頭を大きく抉られて転倒、地面をゴロゴロと転がった後は、ピクリとも動かずに沈黙した。
「目標
「次、右から来てる四体!」
かわいそう、グロテスク、生き物が痛い思いをしてるのを見るのは嫌……。
平時なら、そんなことを考えたし、感じたんだと思う。
けれど今の私に、そんな余裕はなかった。
今のこの一瞬の間にも、右側から四体の『狼』たちが全速力で向かってきているのだから。
「
「
右からやってきていた狼たちは、既に私が乗る幌馬車のすぐ目前にまで達しており……身体を屈めて、いよいよ飛び掛かろうとしているところだった。
だがそこへ、ニードル四発が一斉に撃ち降ろされる。
相手の未来位置を完全に把握した一撃は躱しようがなかったらしく、そのすべてが命中して『狼』たちの
その『狼』たちの中には、私に向けて飛び掛かった瞬間に空中で撃ち落されて地面に激突した者もいて……。
……あ、危なかったぁぁ~~……。
知らずうちに冷や汗で全身を濡らしながらも、私はほっと息を吐いて肩の力を抜いたのだった。
☆
「お、お頭……!?」
「ウルフどもが……ッ!!」
一方の車列前方。
戦況を眺める賊たち二人の間には、動揺が広がっていた。
まさか自分たちの
「おめぇら落ち着け、この程度で騒ぐな」
だがその二人と違い巨漢の頭目には動じた様子が一切なく、むしろにんまりと嬉しそうな笑みを浮かべている。
……確かに
……あれはやはり最高の獲物だ! 売ってもいいかも知れんが、上手く飼いならして言いなりにできれば、かなりの戦力になる。
この圧倒的に有利な状況でこのような獲物に出逢えたことは、彼にしてみれば幸運としか言いようがなかった。
加えて言うなれば……。
「慌てなくとも、既に手は打ってある。それも、とっておきのヤツがな……」
頭目たちから見て、馬車の左側。
仲間の
彼が用意した魔手は、馬車上で奮闘する
☆作中状況を図解してみました!!
https://kakuyomu.jp/users/FUKU1639/news/16818093083605565745
↑くっそ下手くそな図(ペイント作)ではありますが、よければどうぞ……!!
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