第二十七話 猟狼を撃て! ①
一方、その少し前のこと。
……や、やばい。やばいよ!
……ダスティさんたち、本当に裏切ったんだ。どうしよう!?
私の視線の先、馬車の列の前の方では……。
互いに剣を構えたメリアとダスティさんが、いよいよ本格的に斬り合いを始めて。
マイルズもまた、全然喋らない怪しげな魔導士――……ジョンさんと、杖を構えて睨み合っている。
状況から考えて、先輩冒険者の二人が賊側に寝返ったのは明らかだ。
……裏切った先輩は二人とも、メリアやマイルズよりランクが上だし、私たちより経験も積んでる!
……勝てるわけがないよ!
一瞬、マイルズが何かを後ろに放り投げて、何かの秘密兵器かと思ったけれど。
それはただ赤い煙を吐き出しただけで、他には何も起こらなかった。
どうやら不発だったらしい。
ん? そういえば、こういう色のついた煙について、冒険者ギルドで教えてもらったことがあったような、なかったような気もするけれど……?
……って、ダメダメ! 今は勉強したことの復習なんかしてる場合じゃないよ!
首をぶんぶんと横に振って、思考を切り替える。
今はとにかく戦って、この状況を何とかしないといけない。
……まずは左から襲ってきてる
そう結論付けるが……。
矢盾を大量に並べ、その後ろから一斉に魔導銃を撃ち込んできている相手をどう倒すべきか?
もたもたしていたら、メリアやマイルズがやられちゃうかも知れない。
サクッと一瞬で倒すには……。
「えとえと、えぇーっと……」
脳裏に勝手に、遺跡でカッコよく戦っていたアルの姿が浮かんでくる。
アルならこんな時、どうするんだろう?
「うぅ、どうすれば、どうすれば、どう……あ、そうだ!」
ハッと名案が思い浮かぶ。
草原に立ち並ぶ矢盾の群れに右手を向けて、私は命じた。
「マルコ! シルフィード・エッジ、モード:バスター。
……怖い人たちはみんな、まとめて吹っ飛んじゃえ!
こんな状況に出くわしたら、アルだってきっと、強力な魔法攻撃でぜんぶ吹き飛ばす……はずだ。
ハーモニック・バーストを撃つにはタメ時間が必要だし、射撃体勢中はその場から動けず、
隙だらけにはなるけど……なぜだか相手は私に攻撃してこないみたいだし、好都合だ。
私の求めに応じて、広げた右手の先にシルフィード・エッジ四機が集まり、回転を始める……かと思いきや。
シルフィード・エッジ……マルコは動くことなく、淡々とした口調でこう言った。
「非推奨」
「えぇ!? なんで!?」
「敵総戦力ガ不明、戦力ヲ隠蔽シテイル可能性ヲ考慮。現状デノ”モード:バスター”使用ハ、継戦能力ノ問題ヨリ推奨サレナイ」
「う……」
……要は、”他にも敵が隠れてるかもしれないから、今は止めとけ”ってこと?
ハーモニック・バーストは、メチャクチャ高威力である半面、シルフィード・エッジの保有エネルギー最大値の約七割を消費する……と、以前マルコは言っていた。
つまり撃った瞬間、シルフィード・エッジはエネルギー切れでほぼ戦えなくなる。
目の前の相手以外にもまだ賊が潜んでいて、そんなところを襲われたらひとたまりもない。
「マルコ、近くに隠れてる相手の数は分からない?」
「否定:現在地ハ、本機搭載ノ”魔導コア探知レーダー”ノ効果範囲外」
「だよね……」
マルコ本体が近くにいれば、周囲に誰かが隠れていても、魔力を探って位置を知ることができる。
だけど今回、マルコ本体は街でお留守番。
今いる場所は距離が離れすぎて、マルコの力の効果範囲外なのだ。
……こんなことならやっぱり、マルコ本体と一緒に来ればよかったよ。
そんな今さらどうしようもないことを考えた、その時だった。
――ピィ―――――ッ! ピュィ――ッ、ピィィ――――――ッ!!
突然、口笛だか笛だかの、鋭い音が響き始めた。
「え、何!? 何の音?」
驚き、戸惑う私の前で、異変はすぐに起こり始める。
草原の奥、ずらりと並んだ賊たちの矢盾の後ろ側から、ナニカがこちらに向かって駆けてくる。
左から四体、右からも四体。計八体。
鳴り響く笛みたいな音に応じるようにして、クレオさんたちを挟みこむような動きで迫ってくる。
「Baw! Baw,Baw!!」
「Baw! Baw! Baw!」
草の海を切り裂いて進むそれらは……人間の男と同じぐらいの大きさを誇る、『狼』たちであった。
「新タナ目標現出、計八。識別コード設定、
マルコがいつもの平坦な声で状況を告げる一方、
「う……う、ウルフだぁっ!
「敵に
盾の後ろに隠れて相手と撃ち合っていた自警団の面々には、動揺が広がっていた。
「ふ、二人とも落ち着こう! とにかくげいげっ……、迎撃するんだ!」
大慌ての様相となりながらも、必死に指示を出すクレオさん。
けれど、自警団員たちの動きは鈍く、上手く迎え撃つことができない。
先程から激しく銃撃されて身動きが取れないうえに、どうにか撃ち返す隙を見つけても、『狼』たちの動きが素早く攻撃が命中しないのだ。
一方の『狼』たちは、
しなやかで、かつ力強い灰色の体躯と、黄色い目。赤く裂けた口から、唾液でぬらぬら光るナイフが如き牙を覗かせる『狼』たち……。
彼らが左右から自警団に襲い掛かったら、クレオさんたちは一瞬でやられてしまうに違いない!
……そんなこと、させない!
「マルコ、迎え撃つよ!」
「
「まずは左の四体!」
左から迫ってくる四体に指を向けた、その瞬間であった。
「Baw!?!?」
黄色かった狼たちの目の色が、一斉に赤に変ずる。
そして突然に、クレオさんたちを挟撃するような動きを止めて……。
「Gaw!!」
「Gaw,GawGaw!!」
私に向けて、一直線に突っ込んできた!
※
人間の意のままに操れるよう
魔物の”同種が集まると強化される”という特性を活かすため、基本的に数匹単位の群れで運用される。
待ち伏せ、索敵はもちろん、作中のように”味方と連携しつつ、交戦中の敵を側面から急襲する”と言った高度な戦術も可能。
扱う
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