第二十四話 裏切った!?

れ」 


――ヴィシュゥウンッッ!!


 挙げられた悪漢の右手が振り下ろされたその瞬間、私たちに向けられた無数の銃口から、一斉に魔力が吹き出した。

 特徴的な銃声とともに、薄い青、黄色、深緑、紫……色とりどりな光の束が、私たちの馬車に向けて殺到する。(※)


「ひゃぁっ!?」


 見張り台の上で思わず身をすくめた私のもとに、”すきゃん”のために離れていたシルフィード・エッジ二機が、宙を裂くような軌道で飛んで一瞬で戻ってきた。

 同時に、私の身体は球形で翠玉色エメラルドグリーンの障壁に包まれる。


 だが相手が放った魔法攻撃は、私には一発も飛んでこなかった。


「ぎぁっ!?」

「ぐげ――…」


 代わりに、周囲から次々と悲鳴が聞こえる。


 ぎょっとして辺りを見れば、逃げ出そうとした御者の人たちが三人とも、全員撃ち殺されていた。

 襲ってきた男たちはまず、御者の人たちを集中的に狙ったらしい。


 御者の人たちは胴に丸い穴をあちこちに穿うがたれ、うつぶせに倒れている。

 逃げようとしたところを、背中から撃たれたのだ。


 石畳の地面に真っ赤な液体がじわじわ広がって、無念そうに見開かれた目が濁っていく。


 ……し、死んじゃった。死んじゃってる……。

 ……ひどい。この人たち、悪いことなんて何にもしてないのに!


 ”かわいそう”と”悲しい”と”怖い”と”許せない”……様々な気持ちが胸の中で渦巻いていく。


 けれど、感傷に浸っている時間など、私たちには与えられていなかった。


――ヴィシュゥウンッ!

――ヴィシュゥウンッッ!


 襲撃者たちが次に狙いを定めたのは、クレオさんたち古い魔導銃を持った自警団の面々だった。

 彼らが身を伏せた矢盾へと、様々な色の光の束が次々と撃ち込まれ始める。


「ひぃぃいっ」

「やめてくれぇぇ」

「ふ、二人とも怯むなっ! 撃ち返せ!」


 矢盾は特殊な加工を施されているのか、ただの木製であるにも関わらず、直撃した魔法攻撃を霧散させ続けている。

 だがヘタに矢盾のカバー範囲から身体を出せば、一瞬で被弾してしまいそうな密度の攻撃だ。

 それでも自警団の面々は、どうにか反撃しようと相手に銃口を向けるが……


「ひ、ひぃっ!? 撃てねぇ!? なんで!? なんでだよ!」

「落ち着くんだ! 安全装置セーフティだ、安全装置セーフティを外せぇ!」

「くそったれ、これでもくらえ!」


――バララララララッ!


 ようやく放たれたその攻撃も、相手にはほとんど届いておらず……途中で消えてしまうか、相手の矢盾に阻まれている。


「だ……ダメだ! 連射型じゃ距離が遠すぎる、収束型っ、収束型だ!」


 自警団の三人はあたふたとマズルアタッチメントの交換に入った。


 だが、”銃口の部品を取り外して交換する”というその動作が、彼らは上手くできないようで……。


 腰に吊るされた麻袋を必死でまさぐって「どこだ、どこだ」と騒いでいたり、震える手で銃口に部品を挿し込もうとして失敗したりしている。


 アルなら、瞬き一つの間に終えている動作だと言うのに……!


「そこの見張り台の冒険者、何してる!? 早く援護してくれぇ!」

「はっ、はい!」


 自警団の1人がそう喚いて、私はハッとしてそれに答えた。


 急な出来事の連続で脳内がショートしていたけれど、ぼーっとしている場合じゃない。

 どういうわけだか、さっきから私は一度も狙われていない。

 だったらこの状況、自由に動ける私が何とかしなきゃいけない!

 

 ……特に最後尾、三台目の幌馬車だけは何としてでも護りきらないと。

 ……そこには、サーシャさんとミーシャさん、絶対護るって決めた二人がいるんだから!


「マルコ、やるよ!」

了解ラジャー、敵味方識別、及ビ各目標ヘノ識別コード割リ振リ完了。戦闘準備、ヨシ」

「シルフィード・エッジ、コントロールを私に!」

了解ラジャー、ユー・ハブ・コントロール」

「アイハブ!」


 いつものやり取りを経て、戦闘態勢に入る私。

 この前みたいな模擬戦でも何でもない、本気で殺し合いをしている人たちの間に入ることに、言い知れない恐怖を感じる。


 ……でも、なんとかしないと!


 その時であった。


――ギィインッ!


 と、剣と剣がぶつかり合うような音が聞こえた。

 車列前方の方からだ。


 ……そういえばっ! みんなはどうなって……ッ!?


 そこにいたメリアやマイルズたちがどうなったのか、確認していなかった事実に気づき、はっとしてそちらに顔を向けると……。


 とんでもない光景が目に飛び込んできた。


 重装戦士のダスティさんと、魔導士のジョンさん。

 先輩冒険者である二人が、メリアとマイルズと睨み合い、武器を向け合っていたのだ。


 ダスティさんもジョンさんも、先程の悪漢たちに背を向ける形で立っていて……。

 先程の音は、メリアとダスティさんが剣で打ち合った音なのかもしれない。


 ……ま、まさか、あの先輩冒険者たち!


 そしてこの状況が示す事実は、一つだけだった。


 ……裏切った!?




※色とりどりな光の束が、私たちの馬車に向けて殺到する。

 人が魔法を放つ際に生じる光、魔力光の色には、個人差がある。

 そのため、魔導銃の一斉射撃や複数人による撃ち合いなどは、上記のようなカラフルな見た目となることが多い。

 一見すると花火の様で美しいが、実際は殺伐とした命を懸けたやり取りの真っ最中である。

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