第十一話 ハメられた!?
その後しばらく、”やいの、やいの”と大騒ぎを続けたのち。
おじさんたちは砕け散った木箱やその中身――……散乱した野菜や果物を手早く片付けて、再び馬車に荷物を積み込み始めた。
私はやっぱりやることがないので、道の脇に立って見学だ。
……ふふっ、さっきは嬉しかったなぁ。
……帰ったらハルニアと、アルにも自慢しよっと。
先程の出来事を思い出すたびに、何だか口角が自然と上がってしまって、にやにやが止まらない。
傍から見たら1人でニヤニヤしてる気持ち悪いヤツに見えるかもしれないけど、止まらないものは仕方がない。
許してほしい。
「?」
そんな時だった。
不意に片足に、こつん、と何かが当たる感触があった。
見れば、透き通った丸い水晶玉みたいな物体が、足元にころりと転がっていて、
「おぉーい! それ、拾ってくれねぇか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
例の苦手な雰囲気の、紫色のツンツンした髪とトゲトゲしたピアスが特徴的な、名前は確か――……そう、ダスティさんだ。
その傍らには、深緑色のローブに、丸メガネ、出っ歯の……ジョンさんだっけ。その人がいる。
二人とも私の足で五~六歩ぐらい離れた所にいて、ダスティさんがこちらに片手をあげているのが見える。
どうやら持ち物を落っことして、それがこっちらに転がってきてしまったらしい。
さっきミーシャさんが事故に巻き込まれそうになった時も、全くの無反応、というか、無関心だった人たち。
正直、未だに印象はよくない。
……あんまり関わりたくないけど、ここで無視するのも感じ悪いよね…。
「はぁーい……」
二人にばれないように小さくため息をついて、足元の水晶玉を手に取る。
……きれいな玉だけど、なんでこんなもの持ち歩いてるんだろ。
早く渡して終わりにしてしまおうと、私は速足ですたすたと彼らに近づいた。
そして気付く。
何だかダスティさん、やたらと嬉しそうに、にまぁっと笑っている。
……この人、なんでこんなニマニマ笑ってるの? 気持ち悪ぅ……。
まぁさっきまで私も1人でニヤニヤしてた人間の一人だし、人のことは言えないけれど。
さっさとこのよく分からない水晶玉を渡して、離れてしまおう。
「はい、どうぞ」
ダスティさんに向け、水晶玉を差し出す。
けれどダスティさんはそれをすぐには受け取らず、ニマニマした笑みをさらに深めて、こう言った。
「あぁん?
「……」
「おめぇ小せぇからなぁ。もちっと頑張ってくれや」
やばい。超絶ムカつく。
確かに相手の方が圧倒的に身長大きいし、私が今差し出してる位置だと相手の腰ぐらいに水晶玉がきてるけど、そんな言い方されるとメチャクチャ腹が立つ。
……この人絶対、私が”小さい”って言われるの嫌なの知っててやってるし。
……なんで態々、
とはいえ、あまり露骨に態度に出すわけにもいかない。
彼は一応、今日一緒に
それに、さっきみたいに怒らせると、何かとんでもないことをされそうで怖い。
どうせ今日の
「はい。これでどうですか?」
私は仕方なく、ダスティさんの胸辺りに向けて、水晶玉を精一杯高めに掲げた。
だが、それでも彼は受け取らない。
ライムグリーンの瞳を意地悪く歪ませて、こちらを見るだけだ。
「?」
この人、何がしたいんだろう? と、私が首を傾げた瞬間だった。
「おぉぉい! おめぇら! こっちを見ろ!!」
彼は突然に、大声を上げた。
荷運びの喧噪の中でも、一際目立つ程の大音声。
「見て見ろよ、こいつ!
周囲の人々の視線が一瞬でこちらに―……正確には、私が高く掲げて見えやすくなった水晶玉に集中する。
「え? え?」
私はワケが分からず、その場で固まることしかできない。
……魔光石って!? っていうかなんでこの人、私に魔力がないことを知ってるの!?
「
そんな私に少しだけ顔を近づけて、ダスティさんが冷たく笑う。
「知らなかったか? 魔光石、触れた生き物の魔力に反応して光る石だ」
「!」
一瞬、冒険者ギルドで触れた同じような物体を思い出す。
私は大慌てで、自分の背中側に水晶玉を隠すが……もう遅い。
「今の、魔光石か?」
「確かに、全く光ってなかったよな」
「魔力ゼロ? 全く魔力が出せないってこと?」
「んな人間、ホントにいるか?」
周囲がざわつき、人が集まり始める。
……ヤバい、ヤバいヤバいヤバい! こ、これ、これどうすればいいの?
「クハハ、そりゃあバレたくねぇわなァ」
焦る私に向け、目の前の相手から嘲るような声が降ってきた。
「そこらのムシケラほどの魔力も出せねぇんじゃ、冒険者として……いや、人間としてクズも同然。ククッ、認識票に魔力型が書いてねぇ時点で妙だとは思っていたが、当然か。そんなに魔力が低くちゃあ、測りようがねぇからな」
「な……!?」
「病気だか何だかで、魔力が上手くだせねぇか? クククッ、お可哀そうになァ」
未だ、手に持ったままの魔光石。
いくら体の後ろ側に隠そうとしても、周りを人々に囲まれているこの状況では、位置によっては見える人も出てきてしまう。
「お? おいおい。見て見ろよ」
「本当に全く光ってないぞ」
「驚いたな。魔力が全くない人間なんているのか……」
周りには
無数に向けられる視線に載った感情は、当然、どれも気持ちの悪いものばかりで……。
好奇、哀れみ……そして、侮蔑。
事ここに至ってようやく、私は気が付いた。
自分が、目の前の人間に嵌められたということに。
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