第七話 旅芸人の姉妹 ①
ひと悶着あった私たちだったけど、その後はしばらく、何もない平和な時間が続いた。
村の人たちが馬車に荷物を積み終わって、出発の準備ができるまで、私たち護衛の冒険者勢にすることはない(一応手伝おうと思って声はかけたけど、”あんたみたいな細っこいお嬢ちゃんにできる仕事はないよ!”と追い返された。しょぼん)。
私は道のわきにある背の低い石壁に腰掛けて、足をぶらぶらさせて皆が働く様子を眺めていた。
みんな忙しそうに、けれど、楽しそうに働いている。
もうすぐシルフェの街で始まるお祭り……確か、「ルールズ降臨祭」が、楽しみで仕方がないって雰囲気。
こういう、”これから始まる何かに向けて、皆が一丸となって準備する!”って感じ、私はとっても好きだ。
なんだか、ワケもなくワクワクして、楽しい気分になってくる。
……ルールズ降臨祭、かぁ。
……そういえば、ルールズ降臨祭ってどんなお祭りか、私、よく知らないや。
……ルールズって、人、いや、神様? なのかな。今度、ハルニアあたりに聞いてみよう。
そんなことを考えながらニコニコしていると、
「おーい、冒険者諸君! ちょっと来てくれ」
不意に、声がかかった。
緑色の髪の自警団隊長、クレオさんだ。
少し離れた位置、馬車の列の最後尾にあたる、幌馬車の前で、こちらを呼んでいる。
「はーい!」
石壁の上からのそのそと降りて(さっさと飛び降りろって? 運動音痴の私がそんなことしたら、ヘタすると足首捻って怪我しますから!)、私はクレオさんへと駆け足で近づいた。
同様に、メリアとマイルズもすぐに駆けつけてくる。
けれど、残りの二人、トゲトゲピアスの重装戦士――……ダスティさんと、怪しげな魔導士のジョンさんは現れない。
ふと見れば、二人の姿は馬車の列からやや離れた位置にあった。
ダスティさんの方は、
目が合うと、無言で手を「しっ! しっ!」と振られた。
どうやらこちらに合流する気はなく、話はお前ら新人冒険者だけで聞いておけ、ということらしい。
「……まぁ仕方がない。彼らは抜きで話を進めようか」
これ以上、2人を待っていても埒が明かない。
やれやれと肩をすくめて、クレオさんは話を続ける。
「少し顔を合わせておいて欲しい人がいてね。こっちだ」
幌馬車の後ろへと回り込み、クレオさん、小さな咳ばらいを1つ。
それからなぜだか居住まいを正して、幌馬車の中へと声をかける。
「えー……サーシャさん? 少し良いかな?」
「はぁーい、なんでしょう?」
返ってきたのは、鈴を転がすような澄んだ声。
次いで幌馬車から降りてきた人物を見て、私は居住まいを正したクレオさんの気持ちが分かってしまった。
質素な前開きのシャツにロングスカートと、極ありふれた服装。
けれど、とてもきれいな女の人だ。
陽の光でツヤツヤと輝く、少しウェーブが掛かった月白色の長髪。
瞳は夜空に浮かぶお月様みたいな金色で、少しだけ焼けた肌には健康的な血色が宿っている。
同じ美人のハルニアと違って艶っぽさはないけれど……その分素朴で、親しみやすい魅力を持った人だと思った。
……こんなにきれいな女の人が相手なんだもの。そりゃ、クレオさんも緊張するよね。
ふと隣を見れば、幌馬車から降り立ったその
うん、気持ちはとっても分かる。
―ドスゥ!
「ぐぼぉっ!?」
と、次の瞬間。
そんな彼の脇腹を、メリアの肘鉄が思いっきり抉って、
「……メ、メリア、なんで……」
「ふんっ」
脇腹を抑えて悶え苦しみながらも抗議の目線を向けるマイルズに対し、ぷいっと顔を背けて腕を組むメリア。
どういうワケかは分からないが、メリアは引き続き不機嫌だ。
その様を見て目を丸くしていると、「くすくす」と小さな笑い声が聞こえてきた。
私たち三人の真向い、幌馬車の前に立っているその人が、片手で口元を抑えて笑っているのだ。
「ふふふっ。あなたたちが、今日護衛してくれる冒険者さん?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます