第十四話 負けられない戦い! ②

「シルフィード・エッジ、行って!」


【メリアに向けて左腕の盾を構えたままで、さっきからひたすら攻撃を撃ち込んできているマイルズに武器ボウガンを向ける】


そんな自分をイメージし、右手を相手に向けて命じるだけで、シルフィード・エッジは動いてくれた。


 私の身体を挟むように浮かぶ四体のうち、二体がその場に残って障壁を維持、あとの二体が勢いよく飛んでいく。

 私の周囲に張られた障壁をすり抜けて、放たれた矢のように宙をかける。

 狙いは、マイルズの上半身だ。


「うわぁあっ!」


 突然のことに驚いたマイルズが、撃とうとしていた魔法を中断して慌ててその場に屈みこむ。

 シルフィード・エッジ二体はそんな彼の頭上スレスレを通り過ぎて、私の手の動きとイメージに従ってギュォオン! と音を立てて急上昇していく。


「マイルズ! 撃ち落して!」

「無茶言わないでよ!」


 言いながら、マイルズは自身の頭上を高速で旋回するシルフィード・エッジに対し、必死の形相で杖先を向ける。


 攻撃魔法を撃とうとしているのだろう、杖の先が白く光り始めていた。


 けれど、さっきから見ていて気づいた。

 彼は、アルのように短い間に連続して攻撃魔法を放つことができないようだ。

 撃つ前には、時間をかけて杖先に魔力を集中させる必要があるように思える。


 ……だったら、律儀に待ってあげる必要なんか無いよね!


「マルコ、武器を狙って!」

了解ラジャー目標捕捉ターゲット・ロック

「ニードル、撃てっ!」


 彼が両手持ちにする銀色の杖を指さし、鋭く叫ぶ。


 瞬間、マイルズの頭上を旋回するシルフィード・エッジ二体が、空中でくるりと方向を変えた。

 その切っ先がマイルズに向けられたかと思いきや、


―ピシュゥン!ピシュゥン!


 薄緑色に光る細いビームが撃ち出され、彼が持つ杖に襲い掛かった。

 ビュッと短く薙ぎ払うような軌道で照射されたそれらは、まるで熱したナイフでバターを切るように、標的を易々と両断しバラバラにする。


「熱っ!?」


 奇妙な悲鳴を上げてマイルズが手を放せば、三分割された杖が、カラン、カランと音を立てて床に転がる。

 切断面がまるでチーズみたいに溶けて、赤々と輝いているのが見えた。


「武器の破壊を確認! マイルズさんは戦闘不能です!」


 コレットさんの声が響き渡って、私はぐっと両手を握りこんで「よしっ!」と頷く。

 上手く武器だけを壊して、戦闘不能に持ち込むことができた。


「マイルズっ!?」

「僕は大丈夫! でもごめん……メリア、後はお願い!」

「くっ……!」


 倒された相方を見て悲鳴のような声を上げるメリアと、気丈に振る舞い後を託すマイルズ。

 短いやり取りの後、再びメリアが斬りかかってきた。


「このっ! もう手加減なんてしないから!」


 剣を小脇に抱えるように両手持ちにして、突進の勢いと体重を乗せた突きを放ってくる。

 他人に刃物を向けられ、鬼気迫る表情で突っ込んでこられるのは滅茶苦茶怖い。


 けれど私は盾を構えるイメージを崩さず、両脇のシルフィード・エッジが張る障壁でそれをしっかりと受け止めた。


 さっきと違い、今障壁を張っているシルフィード・エッジは二体だけだけど、それでもメリアの刺突を防ぐには事足りたようだ。


 相手の刃は私の身体にはまったく届かず、球形の障壁に沿ってガイィィン! と大きな音を立てて弾き反らされた。


 私側には何のダメージもないけれど、剣を持つ相手の手にはそれなりの衝撃が加わっているのだろう。

 呻くような声とともに、メリアの整った顔立ちが一瞬、ぐにゃりと辛そうに歪んだ。


「っ! まだまだ!」


 しかし、相手に諦める気配はない。

 ぐっと剣を握りなおして、今度は横なぎの斬撃。


 私はそれも、油断なく障壁で防御する。

 ギンッ! と硬いもの同士がぶつかる音とともに、私の体の右側で刃がぴたりと押しとどめられる。


「ぐっ……なんで!? 魔導障壁は、物理攻撃には弱いはずなのに…!」


 見上げる相手の表情に、焦りが浮かび始めるのが分かる。

 

 だけど内心、焦り始めているのはこちらも同じだ。


『マルコ、負荷限界時間!』

『残り、3分23秒』


 目の前のメリアに分からないようにと、咄嗟に古代語で確認する。


 いきなり訳の分からない言葉で話し出した私を訝しむように、栗色の瞳がこちらを見下ろす。けれど、相手の心証に配慮している余裕なんてない。


 あと3分ちょっとで勝負を決めなければ、私はシルフィード・エッジを操作できなくなる。

 マルコに操作を任せることもできるけど、その場合の戦闘力は大きく落ちてしまうらしい。


 それに、昨日練習してみた感じだと、負荷限界時は頭がぼんやりしてしまって思考があんまり回らなくなる。

 脳のオーバーヒート、とでも言ったところか。

 とてもじゃないが、そんな状態じゃ戦えない。


 ……ここは、一気に勝負を決める!


「シルフィード・エッジ、お願いっ!」


 障壁越しに見えるメリアの頬を叩くようにして、さっと右手を振って脳内で指示を出す。


 同時に、さっきマイルズに襲い掛かっていたシルフィード・エッジ二体が、メリアの横っ面目掛けて体当たりを敢行した。


「ッ!!」


 上空から急降下して突っ込んでくるシルフィード・エッジを、メリアはさっと後ろに飛び退いて躱す。

 私から数歩分、距離を開けた形だ。

 

 狙い通りである。あまり組みつかれていると、ずっと障壁をはっていなきゃいけない分、戦いづらいのだ。


「もう一度!」


 メリアを指さして、叫ぶ。

 先程の攻撃を躱されたシルフィード・エッジ二体がすぐに反応し、空中で向きを変えた。

 そしてそのまま、メリアの胸辺りを狙って再突入する。


「このぐらい…ッ!」


 メリアはそれを、左腕の盾を構えて防ごうとする。


 けれど、シルフィード・エッジは見た目よりずっと重くて、硬い。

 白い矢じりのような形をしたそれら二体が勢いをつけて体当たりすれば、それなりの威力が出る。


―ゴンッ! ガァンッ!!


「きゃあっ!?」


 重い衝撃音に続けて、以外にも可愛らしい悲鳴が響く。


 シルフィード・エッジ二体の体当たりは盾で受け止められたが、メリアはその衝撃に耐えきれなかったらしい。

 私の目の前で、彼女は大きく仰け反って姿勢を崩していた。


 ……これで、とどめ!


「モード:ニードル!」


 瞬間、私の左右に控えて障壁を張っていた二体が同時に攻撃を放つ。

 障壁がパッと消えて、メリアの胴に向け薄緑色のビームが真っすぐに伸びた。


 ……かなり威力を控えめにするよう念じたから、死んじゃったりはしないはず。でも、ちょっとした怪我ぐらいはすればいいと思うよ!

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