第十三話 負けられない戦い! ①

「んくっ…うぅう! 小さい癖に、生意気!」


 ……む? なんですと?


 今、何て言った? 小さい?


 その言葉に、私は一瞬、イラァッとした。


 ……いやまぁ、確かに、周囲を見てて私の体格は小柄な方だとは思う。


 体格というか……その、ハルニアとか見てると、こう、色々と足りないというか、そう!

 ”成長途中だ”とは、思う。


 だけど、それを今この場で、ほぼ初対面の相手に無遠慮に指摘されると……。


「……今、小さいって言いました?」


 自然と、問いただす声も棘を含んだものになる。


「言ったけどッ!? それが、何よ……ッ!」


 対する戦士の女の子は、必死に剣を押し込もうとしたまま私を睨み、見下ろす。

 私はその目を、むふぅ、と睨み返して、


「……私、そんなに小さくないですよね?」


 すると突然、剣を押し込む力が少し緩んだ。

 首をかしげる私に、質問が降ってくる。


「あんた、歳いくつよ?」

「14……ですけど」

「ふっ」


 ギルドに登録した年齢を答えると、鼻で笑われた。

 障壁越しにこちらを見下ろす表情が、にやぁ、としたものに変わっている。


「とてもそうは見えないけど?」

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味よ? ちびっ子すぎて、14には見えないって言ってんの。年齢、サバ読んでない?」


 ……むかぁッ! そんなこと、ハルニアにもアルにも、誰にも言われたことないのに!


「わ、私のどこがその……ち、小さいって言うんですか!?」

「え? 分からないの?」


 戦士の女の子は、「ぷっ」と思いっきり私を小ばかにする笑みを浮かべて、


「手足も短いし身長も全然だし、出てなきゃいけないところもぺったんこじゃない。あなた、ちゃんと鏡見たことあるの?」


 ……こ、この人! 私が地味に気にしてたことをずけずけと!


「あります! というか、私、そこまで小さくないです! 身長とか、その、ぺ、ぺったんことか……周りにもそんなこと言われたことないしっ!」

「バカねぇ、それは周りが気を遣ってくれてるのよ」


 ぴょん、ぴょん、と、戦士の女の子が跳ぶような動きで一歩、二歩と後ろに下がる。

 そしていっそ清々しい程のドヤ顔で胸を張り、ふふん、と笑うと、


「因みにあたしも14だけど……同い年に見える?」


 繰り返しになるけれど、目の前にいるのは、手足がすらりと長くてモデルみたいな女の子だ。

 その胸には、ハルニアほどじゃないにしても、私には少しだけ、そう、足りない膨らみがちゃんと存在を主張していて……。


 ……む、むふぅぅぅううううう!! むっかつくぅうぅううう!!!!


「頭にキました! もう怒りましたからねっ!?」

「あら? 当たり前のことを指摘されただけで怒るなんて、心まで小さいの?」

「小さくないですっ!」


 許すまじ。


 人の密かなコンプレックスをここまで遠慮なしに刺激するなんて、万死に値する。


 ……ちょっと待って、これは挑発! ”精神攻撃は基本”だよ!


 頭の中の冷静な部分が必死で叫んでいるけれど、そんなのは無視だ。

 世の中には思っていても口に出してはいけないことがあるし、罠だと分かっていてもかなければならない時もある。

 これはもう、絶対に引けない戦いなのだ。


 ……障壁は消えちゃうかもだけど、シルフィード・エッジ四機で全力で殴りかかってやるっ!


 なんて、そんなことを真面目に考えた瞬間であった。


「ノービスストレイアッ!」


―ガァァァンンッ!


「ひぅっ!?」


 あと0.5秒も遅ければ障壁を解除していたというタイミングで、障壁に何かがぶつかって凄まじい音と衝撃が襲ってきた。

 ハッとして音と衝撃がやってきた方向を見れば、そこにはこちらを睨み、銀色の杖を向ける魔導士ウィザードの男の子の姿が。

 その杖先にはキラキラとした白い光が集まり始めており、次の一撃を放とうと準備しているのが見て取れる。


「あっ!? このバカ、早いわよっ!」

「何言ってるの、メリア! もう一度障壁を破る、もっと離れて!」


 戦士の女の子がなぜか慌てたように言って、魔導士の男の子が真剣な目で返す。


 ……そっか、戦士の女の子はメリア、魔導士の男の子はマイルズって言うのか。


「ノービスストレイア!」


 瞬間、杖の先から私に向けて、白い魔力の塊がバシュン! と音を立てて飛び出してきた。

 大きめの槍の穂先のような形をしたそいつは、私のお腹のあたり目掛けてまっすぐに突っ込んでくるけれど……


―ガァァアアンッ!


 しっかりと張られたエメラルドグリーンの障壁に弾かれて、粉々に砕けて散っていった。


 自分に向けて何かがすっ飛んでくるのは、障壁があると分かっていても怖い。

 思わず首を竦めて、身体がびくりと震えてしまう。


 しかもこの攻撃、”光の槍”は、さっき受けていた”光の玉”よりも明らかに威力が高い。

 障壁にぶつかった時の音と衝撃が段違いだ。


 こんなのが身体に直接当たったら…と怖い想像が脳裏を掠め、サッと血の気が引いていく。


 けれど、それに負けてなんていられない。私は、強くなるんだ!


 ……っていうか、私に”言ってはいけないこと”を言ったメリアをけちょんけちょんにしてやるんだっ!


―ガァァアアンッ!


 再び、障壁越しに大きな音と衝撃が襲ってきた。

 私は、攻撃の主である魔導士の男の子―…マイルズを、キッと睨むように見て、観察する。


 先程の”光の玉”の攻撃に比べて、今撃ってきている”光の槍”は連射時の魔力や体力の消耗が激しいのかもしれない。

 苦しそうに肩で息をして、額に汗が浮いているのが分かる。


 ……撃ち込まれっぱなしじゃダメだ、反撃しないと。


 マイルズが魔法攻撃を撃ち込んできてくれたお陰で、奇しくも私は多少冷静になっていた。

 少なくとも、障壁を解除して全力でメリアに殴りかかろうとは思っていない。

 そんなことをすれば、私は一瞬で吹き飛ばされてしまう。


 ちらり、とメリアの方向に視線を向けてみる。


 私より身長の高い栗毛色の短髪の女の子が、こちらに剣を向けて警戒しているのが見えた。

 勝気そうな栗色の目が、私の一挙手一投足も見逃すまいとぎらりと光っている。

 こちらが障壁を解除する瞬間を狙っているのが、ありありと分かる様子だった。


 ……障壁を張ったまま攻撃しないと!


 ……だったらっ!


 目の前のメリアの装備を真似て、左腕に盾を、右手に武器を持った自分を脳裏に描く。

 武器は、長距離を攻撃できるボウガンだ。


「シルフィード・エッジ、行って!」

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